第75章 神 VS 大魔法使い
人間、元人間のエルフ、人間、神。なかなか異端なパーティ編成だと思う。
そんな三人と一神は山の中、よく整備された大きな道を歩いていた。
「マッド。これからの計画は、どんな感じですかね?」
「とりあえず、少しずつでも歩きながら話そうか!
まずは、さっさと山を越える。南ウェイダールに出る。そこで、僕達だけでは解決できなかった仕事をこなす」
「え。マッドとイリス、二人が揃っても解決できていない?その内容は?」
「川だよ。マソフィト川の上流が、ばかデカい落石によって塞き止められてるんだ。
それが7日前のこと。早いうちに何とかしてやらないと、下流の人々も、生き物も、危機的状況だね」
落石か。マッドとイリスの力なら、簡単に片付けられそうな気もするけどな。
「動かすことは?」
「今のとこ、皆で協力してもダメだった」
「おまえ達二人が揃えば、魔法剣で斬る、削るくらいのことはできるのではないのか?所詮は石じゃろ」
「それが、重量、硬度ともに異常なんだよ。全く歯が立たない。
まーでも君達なら、きっと何とかしてくれる気がするんだな!」
「ほんとに、あんた達が頼りなんだよ。あたしとマッドも、できる限りのことはやる。
……あたしにゃあ、大して学はないけどさ。川が干上がったら、たぶん数千人くらいに、安全な水が供給できなくなる。魚も獲れなくなる。えらいことだよ」
「ちょっと待ってください。それって今、上流の水はどうなっるんですか?
塞き止められてたら、水位がどんどん上昇して、かなり危険な状況だと思うんですけど」
「僕達が見ていた時は、周辺に住む魔法使いが、交代しながら水を逃がしていた。大岩を迂回させるような流れを、魔力で無理やりつくってね」
マッドがイリスに視線を送り、二人とも小さく頷いた。説明、交代の合図。
「ただそれも、いつまで保つかねぇ。大自然を魔法でコントロールするなんてのは、かなり消耗するはずだよ。ある程度のレベルの魔法使いが元気な状態からでも、数時間くらいしか続けていられないだろうね。
そこに、もし大雨でも降ろうもんなら……」
「それは急いだほうが良さそうですね。ここから南ウェイダールまでの、所要時間は?」話を遮るように、俺は声をあげた。
「こんなペースで歩いてたら、ひと月かかるじゃろうな」
「クロノ様。そんなドヤ顔してるってことは、もっと早く移動する方法があるんですね?」
「もちろんじゃ。もっとも、おぬしが単独で走るなら数時間で着くじゃろう。ただ食糧は供給してあげられないし、足跡で道路がボロボロになることも避けられぬ。
我が行ったことのある場所なら、おぬし達も含めて一瞬で移動できるんじゃがなー。今回は、人間を乗せて飛ぶ必要がある。
……そこで。どうじゃ、競争してみるか?そこの大魔法使いとやら」
「お、何だい?あたしの魔力を試す気なのかい、小娘?」
……なんで突然、バトルの空気になってるんだ?
「我はマット、イリスはマッドを連れて、マソフィト川を塞き止める大岩へと向かう。そこがゴールじゃ。
ルールは単純、早く着いたほうの勝ち。まあ我の力に挑戦する勇気があれば、じゃがな」
「やってやろうじゃあないの!久々に燃えてきたよ、あたしゃ」
「イリスお婆ちゃん、大丈夫なのかい?相手はクロノちゃんだよ?」
「あたしを誰だと思ってんだい!?チャラ坊!そんなションベンくさいガキ、ぶっちぎってやるよ」
「……ほう。貴様、我を愚弄するか?」
「あたしゃ事実を言ってるだけだ。ほれ、おむつの準備は万全かい?小娘」
「むううううっ」
「これ、何の茶番なんすかね?」
「競争するほうが、早く着くなら別にいいんじゃない!?あっははは」
俺はクロノの袖を引っ張り、耳元で囁くように訊いた。
「意図が、あるんですね」
「当然じゃ」
……あれ?意外と落ち着いてるみたいだ。たぶん本当に、考えた上での提案なんだろう。じゃあいいか。
「じゃあ早速、始めようじゃあないか!このアホ小娘、スタートの合図を出しな!」
「むう……小癪なエルフめ。では、この光の玉が空で弾けた瞬間、スタートするぞ」
クロノは無造作に、自身の体よりも大きな魔力の塊を発生させ、上空へ投げた。
パァン。
「行くよ、チャラ坊!」イリスは空中へ絵を描くように指を振り回し、数秒のうちに巨大な鳥の王者、ワシを創り出した。
翼を畳んでいる姿でも、体長5ヤードはある。こんな大きいワシは見たことがなかった。イリスは宙に飛び上がり、その背中に乗る。
「マッド。早く乗りな。競争だよ!競争」
「了解!」続いてマッドも跳躍、鮮やかに跨がった。大ワシの背中には、手綱や鞍のようなものが見える。
「では、お先に失礼!ションベン小娘。ひゃひゃひゃっ」
ワシが羽ばたいた瞬間、周囲に突風のような気流が生じ、俺とクロノは後ずさりした。
凄まじい速さで空へ遠ざかる、その巨体。
「クロノ様。あ」
「ぐむううううっ、あのババア……」
クロノは怒りすぎて、顔は真っ赤だし半べそかいてしまっている。自分から吹っ掛けといて泣くなんて、どんだけ子供なんだ。まったく、この可愛い神様は。
「ゆっくりしてていいんですか?競争なんですよね」
「神が負けると言いたいのか?愚かな人間め」
怒りを通り越して、冷たくなってしまっている。ちょっとガチで怖い。
「いや、まあ俺達も出発しましょうよ。とりあえず」
「……ふん」クロノは俺の腕を掴んだ。
一瞬にして、景色が変わる。