表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/89

第75章 神 VS 大魔法使い

 人間、元人間のエルフ、人間、神。なかなか異端なパーティ編成だと思う。


 そんな三人と一神は山の中、よく整備された大きな道を歩いていた。




「マッド。これからの計画は、どんな感じですかね?」

「とりあえず、少しずつでも歩きながら話そうか!


まずは、さっさと山を越える。南ウェイダールに出る。そこで、僕達だけでは解決できなかった仕事をこなす」


「え。マッドとイリス、二人が揃っても解決できていない?その内容は?」

「川だよ。マソフィト川の上流が、ばかデカい落石によって塞き止められてるんだ。


それが7日前のこと。早いうちに何とかしてやらないと、下流の人々も、生き物も、危機的状況だね」


 落石か。マッドとイリスの力なら、簡単に片付けられそうな気もするけどな。


「動かすことは?」

「今のとこ、皆で協力してもダメだった」


「おまえ達二人が揃えば、魔法剣で斬る、削るくらいのことはできるのではないのか?所詮は石じゃろ」

「それが、重量、硬度ともに異常なんだよ。全く歯が立たない。


まーでも君達なら、きっと何とかしてくれる気がするんだな!」


「ほんとに、あんた達が頼りなんだよ。あたしとマッドも、できる限りのことはやる。


……あたしにゃあ、大して学はないけどさ。川が干上がったら、たぶん数千人くらいに、安全な水が供給できなくなる。魚も獲れなくなる。えらいことだよ」


「ちょっと待ってください。それって今、上流の水はどうなっるんですか?


塞き止められてたら、水位がどんどん上昇して、かなり危険な状況だと思うんですけど」


「僕達が見ていた時は、周辺に住む魔法使いが、交代しながら水を逃がしていた。大岩を迂回させるような流れを、魔力で無理やりつくってね」


 マッドがイリスに視線を送り、二人とも小さく頷いた。説明、交代の合図。


「ただそれも、いつまで保つかねぇ。大自然を魔法でコントロールするなんてのは、かなり消耗するはずだよ。ある程度のレベルの魔法使いが元気な状態からでも、数時間くらいしか続けていられないだろうね。


そこに、もし大雨でも降ろうもんなら……」


「それは急いだほうが良さそうですね。ここから南ウェイダールまでの、所要時間は?」話を遮るように、俺は声をあげた。


「こんなペースで歩いてたら、ひと月かかるじゃろうな」

「クロノ様。そんなドヤ顔してるってことは、もっと早く移動する方法があるんですね?」


「もちろんじゃ。もっとも、おぬしが単独で走るなら数時間で着くじゃろう。ただ食糧は供給してあげられないし、足跡で道路がボロボロになることも避けられぬ。


我が行ったことのある場所なら、おぬし達も含めて一瞬で移動できるんじゃがなー。今回は、人間を乗せて飛ぶ必要がある。


……そこで。どうじゃ、競争してみるか?そこの大魔法使いとやら」


「お、何だい?あたしの魔力を試す気なのかい、小娘?」




 ……なんで突然、バトルの空気になってるんだ?




「我はマット、イリスはマッドを連れて、マソフィト川を塞き止める大岩へと向かう。そこがゴールじゃ。


ルールは単純、早く着いたほうの勝ち。まあ我の力に挑戦する勇気があれば、じゃがな」


「やってやろうじゃあないの!久々に燃えてきたよ、あたしゃ」


「イリスお婆ちゃん、大丈夫なのかい?相手はクロノちゃんだよ?」

「あたしを誰だと思ってんだい!?チャラ坊!そんなションベンくさいガキ、ぶっちぎってやるよ」


「……ほう。貴様、我を愚弄するか?」

「あたしゃ事実を言ってるだけだ。ほれ、おむつの準備は万全かい?小娘」

「むううううっ」


「これ、何の茶番なんすかね?」

「競争するほうが、早く着くなら別にいいんじゃない!?あっははは」


 俺はクロノの袖を引っ張り、耳元で囁くように訊いた。


「意図が、あるんですね」

「当然じゃ」


 ……あれ?意外と落ち着いてるみたいだ。たぶん本当に、考えた上での提案なんだろう。じゃあいいか。




「じゃあ早速、始めようじゃあないか!このアホ小娘、スタートの合図を出しな!」

「むう……小癪なエルフめ。では、この光の玉が空で弾けた瞬間、スタートするぞ」


 クロノは無造作に、自身の体よりも大きな魔力の塊を発生させ、上空へ投げた。


 パァン。


「行くよ、チャラ坊!」イリスは空中へ絵を描くように指を振り回し、数秒のうちに巨大な鳥の王者、ワシを創り出した。


 翼を畳んでいる姿でも、体長5ヤードはある。こんな大きいワシは見たことがなかった。イリスは宙に飛び上がり、その背中に乗る。


「マッド。早く乗りな。競争だよ!競争」

「了解!」続いてマッドも跳躍、鮮やかに跨がった。大ワシの背中には、手綱や鞍のようなものが見える。


「では、お先に失礼!ションベン小娘。ひゃひゃひゃっ」


 ワシが羽ばたいた瞬間、周囲に突風のような気流が生じ、俺とクロノは後ずさりした。


 凄まじい速さで空へ遠ざかる、その巨体。




「クロノ様。あ」

「ぐむううううっ、あのババア……」


 クロノは怒りすぎて、顔は真っ赤だし半べそかいてしまっている。自分から吹っ掛けといて泣くなんて、どんだけ子供なんだ。まったく、この可愛い神様は。


「ゆっくりしてていいんですか?競争なんですよね」

「神が負けると言いたいのか?愚かな人間め」


 怒りを通り越して、冷たくなってしまっている。ちょっとガチで怖い。


「いや、まあ俺達も出発しましょうよ。とりあえず」

「……ふん」クロノは俺の腕を掴んだ。




 一瞬にして、景色が変わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ