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さまよう鎧は今日も帰れない!──毎夜姿を変える星屑の迷宮を歩く、夜になると消えてしまう少女と漆黒の生ける鎧。  作者: nanananaca
第一幕:星屑の道は今日も遠くて

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Episode 5:星屑の道で集う四つの光

朝の柔らかな光が星屑の道を銀色に染め上げると、ノワールの胸にある星槽が淡く輝き出した。ふわりと金色の粒子が集まり、そこにティアの魂が姿を現す。


「おはよー! ノワール! 今日も星蜜の里、がんばって近づこうね!」


「……ああ。今日も、進む」


二人が歩き始めると、すぐに羽音を響かせて聞き慣れた賑やかな声が飛び交ってきた。赤、青、黄のピクシー三姉妹だ。


「ティアちゃん、今日も星蜜の里に行くんだよね?」


「星蜜の里って、どんなところなの?」


「今日も一緒に歩いていい? ティアちゃんといると楽しいんだもん!」


ティアはぱっと笑顔になり、両手を胸の前でぎゅっと握った。


「もちろん! 今日も一緒に来てくれるの? わぁ……なんだか楽しくなりそう! ありがとうね!」


三姉妹は嬉しそうに空中をくるくる回る。ティアはふと胸元の星綴りの飾りに指を触れ、愛おしそうに目を細めた。


「星蜜の里はね……私が生きてた頃に住んでた場所なの。おじいちゃんと一緒に暮らしてて、毎朝、星蜜パンを焼いてくれたんだよ。甘くて、あったかくて……あれを食べると『今日もがんばろう』って思えたの」


「へぇ〜! いいなぁ、星蜜パン!」


「ティアちゃんのおじいちゃん、優しいんだね!」


「うん! すっごく優しいの。髪を結んでくれる時もね、『ティアは今日もかわいいねぇ』って言ってくれるの。思い出すとね……胸がぽかぽかするの。でも……今は一緒にいられなくて。だから、おじいちゃんとの約束を守るために帰ってるんだ」


寂しげに微笑むティアの手に、赤のピクシーがそっと触れた。


「ティアちゃん……」


「えへへ、大丈夫だよ!」


ティアは逆に微笑み返し、今度はピクシーたちに気になっていたことを問いかけた。


「ねぇ、みんなは? ピクシーちゃんたちにも、おじいちゃんとか、家族っているの? みんな小さいけど……子どもなの?」


すると、青のピクシーが首を横に振った。


「ううん、ピクシーはね、生まれた時から『姉妹』で暮らすの。私たちは本当は、四姉妹なんだよ!」


「えっ、四姉妹? でも、星屑の道で出会った時から三人だったよね? あと一人はどんな子なの? なんで一緒にいないの?」


その問いに、三姉妹は一瞬だけ沈黙した。風が止まり、周囲の星屑がゆっくりと落ちていく。


「……実は、緑って子がいるの」


黄のピクシーが小さな声を絞り出す。


「ふわっとした光で、声が小さくて……すごく優しい子なんだけど、ずっと前の大きなシフトで迷子になったままなの。ずっと、ずっと……帰ってこないの」


「私たち、毎日探してるんだよ……でも、見つからなくて……」


「そんな……ずっと一緒にいたかったんだね……」


ティアはそっと三姉妹の手を包み込んだ。その指先から伝わる小さな震えが、かつて病室で孤独だった自分の記憶と重なる。


「緑ちゃん……どこかで、ずっと一人で、寂しくて、心配だよね……。ノワール、緑ちゃんを探してあげたい。私、この子たちの気持ち、すごく分かるの。大切な人と離れるのって……本当に、怖いから」


ティアの瞳は迷いではなく、ただ寄り添いたいという純粋な願いで満ちていた。


ノワールは兜の奥の赤い光を灯す。おじいちゃんの命令ではなく、自らの「選択」として、重厚な声を響かせた。


「……分かった。探そう」


大星災の夜に迷った四人姉妹の未練が形を成したという、星屑の道に伝わる切ない四姉妹の伝承。ノワールは記憶の糸を辿るように歩を進め、道端にある「記憶の裂け目」を探した。


やがて見つけた少し深い裂け目の奥。そこから、淡い緑色に光る小さな魔導の欠片が静かに震えながら現れた。


ノワールがそれを胸の星槽に嵌め込むと、胸の奥で何かが結びつき、新しい力──『仲間探知』が宿る。空間に、薄い四色の光の線が浮かび上がった。


「緑ちゃん……居たら返事してね。怖くないよ、出ておいで……!」


ティアがしゃがみ込み、石畳の隙間を覗き込む。ノワールは胸の光の揺らぎを読み取り、先を指し示した。


「ティア。こっちだ」


「うん……!」


しかし、星屑の道は広く、どれも似たような影ばかり。何度も何度も呼びかけるが、虚しく風が吹き抜けるだけだった。


「緑……どこなの……」


「やっぱり今日も、会えないのかな……」


次第にかすれていく三姉妹の声を、ティアは優しく抱き寄せた。


「大丈夫……絶対に見つけるよ。だって……家族なんだもん」


その時、夕陽が沈みかけ、周囲の道が不穏な紫色に染まり始めた。


「……まずい。シフトが近い」


ノワールの警告に、場に張り詰めた焦燥が走る。


「そんな……! 緑ちゃん、どこ……どこなの……!」


「緑ーっ!!」


「お願い……!」


星屑がざわめき、道の輪郭がゆらゆらと歪み始める。時間がない。ノワールは星槽の最後の一筋の光を全力で追った。


「ティア! あの影の奥だ!」


「……っ!」


ティアは駆け出し、星屑の影が濃く落ちる窪地へと飛び込んだ。


「緑ちゃん……! お願い、そこにいて……!」


星屑がふわりと舞い上がったその奥で、小さな、小さな緑の光が震えていた。


「……おねえちゃん、たち……? 誰、ですか……?」


「──いた……!!」


ティアは涙をこぼしながら駆け寄り、その小さな体をそっと抱きしめた。


「緑──!!!」


遅れて飛び込んできた三姉妹が叫び、四人は星屑を盛大に撒き散らしながら抱き合い、泣き笑いしながらくるくる回った。


「よかった……本当によかった……! 緑ちゃん、もう一人じゃないよ……!」


まるで自分の家族が戻ってきたかのように泣くティアを見て、四姉妹は彼女に感謝の星屑のキスを浴びせると、賑やかな笑い声を道の向こうへと響かせながら、仲良く寄り添って飛び去っていった。


ティアは四人を優しく見送りながら、静かに囁く。


「これからも、絶対に離れないでね。みんなが一緒にいるだけで、世界はきっと優しくなるよ」


その言葉は、ただの少女の慰めではなく、ノワールの中の老魔導師が託した「生ける心」へと深く深く響き、鎧の内部を確かに温めていく。


だが──無情にも夕陽は沈み、本格的な『星屑シフト』が訪れる。目の前の空間が歪み、星蜜の里の灯りは、昨日よりもさらに遠くへ遠ざかってしまった。


「えへへ……今日も、ダメだったね」


ふわりと浮き上がり、透き通っていくティアの顔は、けれど温かい笑顔のままだった。


「でも、四姉妹がまた笑顔になって……本当に、よかった。ノワールがいてくれたからだよ。ありがとう……明日こそ……一緒に、がんばろー!」


魂は夜空に溶けるように消え、カチャン、と面甲が閉じる。


遠くから四姉妹の楽しげな笑い声が星屑に乗って響く中、ノワールは胸の星槽に残る微かな違和感に気づいていた。


緑の欠片を嵌めた瞬間、脳裏に一瞬だけ映った別の光景──白い光、古い術式の断片、老魔導師の手の震え。


(何かが、少しだけ変わったのかもしれない……)


それは気のせいかもしれない。けれど、明日の朝陽のなかで確かめるべき小さな「問いの種」として、さまよう鎧の胸の奥へ静かに埋め込まれた。

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