Episode 20:鎧の可愛い相談日
朝の柔らかな銀光が星屑の道を優しく照らし出す中、ノワールはいつものように、重厚な鉄の足音を響かせながらゆっくりと歩いていた。
ふわりと金色の粒子が集まり、ティアの魂が現れる。今日も彼女の元気いっぱいの声が、静かな道に響き渡った。
「おはよー! ノワール! ユウもおはよー! 今日も三人で、里までがんばろうね!」
「……おはよう、ティア。ユウも、今日もよろしく頼む」
ユウはノワールの黒い肩にちょこんと留まったまま、半透明の翅を小さく広げて朝の光を浴びている。
「うん」と、ユウは風鈴のような声で応じた。「『朝の光は、新しい出会いの始まり』──君が昔、歌っていた詩の一節だよ、ティア」
そんなのどかな空気の中、少し歩いたところで、ティアがふとノワールの全身を正面からじーっと見つめ始めた。
「ねえノワール……」
前からずっと考えていたというように、ティアは大きな瞳をキラキラと輝かせる。
「前から思っていたんだけど、ノワールの鎧、もっと可愛くできないかな? 星の蔓に小さなリボンを巻きつけたり、兜に星の飾りをちょこんとあしらったり……。ほら、ジグさんの『可愛くなっちゃう』発明品みたいにさ!」
「……可愛く、か」
ノワールは面甲の奥の視認部をわずかに固くした。
「俺は守るための鎧だぞ。戦うためにそんな飾りは必要ないだろう」
「でも、ジグさんのハート型クッションとか、星屑おしゃべり機械とか、すごいかわいかったよ!」
ティアはくすくすとおかしそうに笑いながら、ノワールの周りを浮遊する。
「ノワールも少しだけ可愛くなったら、里の人たちに『怖い全身鎧のおじさん』じゃなくて『優しいおじさん』って思ってもらえるよ! ね、ジグさんに相談してみようよ!」
「……『黒い鎧も、優しい飾りで新しく輝く』……。ティアの純粋な想い、いい詩になりそうだね」
ユウまでが翅を軽く震わせてティアに賛同する。
ノワールは鉄の隙間から小さくため息を漏らしたが、結局のところ、ティアのあの無邪気な笑顔にだけは絶対に勝てないのだった。黒い鎧はしぶしぶと進路を変え、例の浮遊遺跡へと向かった。
◇
「おおお! ティアちゃんにノワール、そしてユウまで! ようこそ、今日はどんな相談だい!?」
ジグの浮遊遺跡は今日も相変わらずの賑やかさだった。ゴーグルを乱暴に押し上げ、工具だらけのコートをはためかせながら、風変わりな発明家は大歓迎で三人を出迎える。
「ノワールの鎧をもっと可愛くしたいの! ジグさんの『可愛くなっちゃう』発明センスを貸して!」
ティアが元気よく目的を伝えると、ジグは「任せろ!」と目をランランと輝かせた。
「僕の可愛すぎる発明センスを存分に発揮する時が来たようだな!」
すぐさま作業台に山積みの怪しげな材料やパーツが広げられ、ノワールの“大改造”が始まった。
まず試されたのは、名付けて『ハート型星槽カバー』。
ノワールの命とも言える胸の星槽を巨大なハート型の鉄板で囲み、常時ピンク色のハート光が漏れ出すという強烈なデザインだ。しかもノワールが一歩動くたびに、鎧の奥から「トクトク……」と妙にリアルな鼓動のような音が響き始める。
「……却下だ。これは俺ではない」
ノワールは低く、即座に拒否の声を絞り出した。
次に用意されたのは、『リボン付き浮遊マント』。
背中に巨大なピンク色のリボンが装着され、歩くたびにふわふわと浮き上がりながら自動でくるくると高速回転する仕組みだ。しかし、ノワールが試しに数歩歩いた瞬間、リボンが突然暴走。凄まじい勢いで回転しながら、遺跡のあちこちや道に絡まりそうになる。
「……これでは守るどころか、自分が絡まって自滅する」
ノワールは低く、苛立ちを隠せない。
その後も、頭のてっぺんで大きな星のオブジェがびよんびよんと揺れる『星型兜アンテナ』や、一歩歩くたびにプシュプシュと甘い匂いが吹き出す『宵花柄の膝当て』など、ジグの“可愛すぎる”アイデアが次々と繰り出される。そのたびにノワールはこれ以上ないほど渋い顔(面甲)を崩さなかった。
ティアは次々と着せ替えられるノワールの奇妙な姿に、お腹を抱えて大笑いしている。ユウは楽しげに翅から紙片をハラリと落とし、かつて生前のティアが「可愛いもの」に目を輝かせていた愛おしい記憶を空間に再生して、さらに場を盛り上げた。
さんざん遊び倒した結果、最後にすべてのパーツを取り外し、元の無骨な漆黒の姿に戻ったノワールを見て、ティアは満足そうに微笑んだ。
「……うーん。全部かわいかったけど……。やっぱり、今のそのままのノワールが一番いいね! 黒くて渋くて、でも胸の星の光がキラキラしてるの。これこそが私のノワールだもん!」
「……ふん。当然だ」
ノワールは兜をわずかに下に向けて、照れ隠しに声を低く響かせた。
「ははは! 結局のところ元のデザインが最高ってことか!」
ジグは頭をガシガシと掻きながら豪快に大笑いした。「僕の発明は、いつも可愛くなりすぎて実用的にならないのが玉に瑕だが……まぁ、ティアちゃんの弾けるような笑顔が見られただけで今日は大成功さ! またいつでも相談に来てくれ!」
「うん! ジグさん、ありがとう! やっぱりノワールは、このままで世界一かっこいいよ!」
ユウは翅を優しく震わせ、二人の頭上を舞う。
「……『黒い鎧は、ティアの光に照らされて一番輝く』……。うん、とてもいい詩ができたよ」
ノワールは静かに鉄の手を胸の星槽に当てた。
(……ティアがこうして、ありのままの俺の姿を肯定してくれる。それだけで、俺には十分だ。可愛く着飾る必要など、最初からなかったのかもしれないな)
(それでも……ティアがあんなに笑ってくれるというのなら、ほんの少しの飾り付けくらいは、いつか許してやってもいいかもしれない)
◇
やがて夕陽が沈み、無情にも『星屑シフト』が訪れた。空間が激しく歪み、里の灯りは無慈悲に遠ざかって、いつもの遠い距離へと引き戻されていく。
約束の時間となり、ティアの魂がふわりと夜空へ浮き上がった。
「えへへ……今日はノワールの鎧の相談ができて、私、すっごく楽しかったな。明日も、がんばろー!」
幸せそうな笑顔を残し、彼女の魂は夜空へと溶けるように消え去っていった。
ユウはティアの消えた虚空で翅をゆっくりと広げ、今日の微笑ましい相談で生まれた、温かな記憶の粒子をまとった光をノワールの胸の星槽に向かって優しく放った。
ノワールは肩の上の、ユウの温かな紙の感触を噛み締めるように感じながら、静かに、一歩一歩、確かな足取りで明日の道を進み始めるのだった。
【ジグのインタビュー「ノワール鎧デザインアンケート」】
■ 後日、浮遊遺跡にて
ジグ(ゴーグルを上げてメモを取りながら)
「というわけで、ノワールさん!
本日の『可愛くしよう作戦』大反省会です!
率直に聞きますよ——ノワールさんはどんなデザインが好みですか?」
ノワール(腕を組んで、低く)
「……必要ない。」
ジグ
「えー! せっかくですから!
例えば、星槽の周りにハートを……」
ノワール
「却下。」
ジグ(めげずに)
「では、リボン付きマントは?」
ノワール
「絡まる。」
ジグ
「星型兜アンテナは?」
ノワール(少し声が低くなって)
「……俺をからかう気か。」
ジグ(笑いながらメモに書く)
「なるほど……
『渋い黒を基調に、星の光を活かしたシンプルデザイン』ですね!
ティアちゃんが『これが一番かっこいい!』
と言っていたのも納得です。
やっぱりノワールさんは、
現在のデザインが一番似合っていますね!」
ノワール(小さくため息をつきながらも、わずかに口元が緩む)
「……ふん。 当然だ。」
ジグ(満足げに)
「了解! 今後の参考にします!
……ただ、もしティアちゃんがまた『可愛くしたい』と言ったら、
ハート型星槽カバーの試作をもう一個作っておきますよ♪」
ノワール
「……絶対に却下だ。」




