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さまよう鎧は今日も帰れない!──毎夜姿を変える星屑の迷宮を歩く、夜になると消えてしまう少女と漆黒の生ける鎧。  作者: nanananaca
第一幕:星屑の道は今日も遠くて

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Episode 13:発明家のヘンテコな夢

ドゴォン!


と銀色の石畳を激しく蹴り飛ばし、ノワールは全力で走っていた。


重厚な漆黒の全身鎧が軋み、星屑の道を激しく震わせる。兜の視認部を滅茶苦茶に揺らしながら、胸の星槽から漏れる金色の光を限界まで撒き散らし、前方を逃げ去る紫色の残光を必死に追いかけていた。


(……ティア! ティア──!!)


ほんの数分前、いつも通りティアの魂が現れるはずの瞬間だった。突如として現れた不気味な紫色の渦が、彼女の金色の光を強引に包み込み、道の向こうへと引きずり込んだのだ。


ノワールの思考は一瞬で最悪の事態へと跳ね上がっていた。魂を狙う悪意ある何者かの襲撃か、星の記憶が仕掛けた未知の罠か。あるいは、この『道』そのものがティアの存在を強制的に回収しようとしているのか。


そして──彼の胸の奥に、最も忌むべき最悪の予感がよぎる。


(……まさか、王国魔導院の追っ手か……!? 魂の器の研究を裏で続けていたあの連中が、ティアの存在に気づいたというのか……!)


魔導院は、禁忌とされた魂の器の研究を公には凍結した後も、闇で実験を継続しているという黒い噂が絶えなかった。もしティアの魂が持つ“特別な価値”を誰かが察知していたのだとしたら──。


(……絶対に、ティアをあの連中に渡してなるものか……!)


どす黒い焦燥が、ノワールの鎧の内側を焼くように熱くする。


「ティア……! 待て……!」


低く荒い息を吐きながら、道の曲がり角を全力で曲がり、浮遊する石畳を強引に跳び越え、ついに紫色の残光が消えた場所へと辿り着いた。


そこは、道の脇にひっそりと広がっていた古い浮遊遺跡の内部だった。


奇妙な歯車や浮遊レンズがカチカチと音を立ててくるくると回り、埃っぽい空気のなかに、独特な甘い魔導油の匂いが漂っている。床には魂の構造図が描かれた古びた羊皮紙が散乱し、壁には『魂安定装置』『天星界への接続実験』といった文字が、殴り書きのように乱雑に記されていた。


いくつかの実験台には、魂の欠片らしきものが固定されたまま放置されており、不穏な魔力の残滓が周囲を覆っている。


ノワールは一瞬で臨戦態勢を取った。最悪の乱戦を想定し、星槽の光を最大出力に高めながら遺跡の奥へと踏み込む。


──しかし、そこで彼を待ち受けていたのは、あまりに拍子抜けな光景だった。


ティアの魂は、警戒する様子など微塵もなく、古い椅子にちょこんと腰掛けて楽しそうに大笑いしていたのだ。


「あはは! ジグさん、それ本気で作っちゃったの? ハート型の浮遊クッションに私の笑顔が浮かび上がるなんて、めっちゃ可愛いかも!」


その隣にいたのは、お世辞にも刺客には見えない奇妙な格好をした中年男性だった。


ぼさぼさの白髪に不釣り合いな巨大ゴーグルを乗せ、大量の工具を詰め込んだ分厚いコートを着込んでいる。背中には、小さな羽をパタパタと動かす小型の浮遊機械が何台もぶら下がっていた。

いかにも偏屈で、どこか憎めない発明家──ジグである。


「でしょでしょ! 可愛すぎて困っちゃうんだよ!」


ジグはガバッとゴーグルを上げ、目を大興奮に輝かせながら熱く語り始めた。


「星の彼方にあるとされる『天星界てんせいかい』へ行くための大真面目な装置を作ろうとしてるのに、出来上がるのはいつもこんな感じでさぁ……。天星界っていうのはね、星の記憶が集まる世界の向こう側の場所。そこで魂は一度浄化され、次の形へと移ると伝えられている場所なんだ。


……俺は昔、大切な人が消える瞬間に立ち会えなくて、最後のさよならを言えなかった。だから今、その装置を使って天星界へ行って、その人にちゃんと謝りたいんだよ……」


そこまで一気に捲し立てて、ジグはようやく遺跡の入り口で武器を構えんばかりに固まっている漆黒の鎧に気づいた。


「おはよー! ノワール! びっくりした?」


ティアがノワールに気づいて、明るく手を振る。


「このおじさんね、突然『面白い魂の波形を見つけたぞ!』って、つい嬉しくなって私をここまで引っ張っちゃったんだって!」


ノワールはようやく戦闘態勢を解き、がっくりと兜をわずかに下げた。胸を焼き尽くさんばかりだった焦燥が、急速に凄まじい安堵と、それ以上の深い呆れへと変わっていく。


「おおお! 君が噂に聞く、意思を持つ生ける鎧か! 素晴らしい、星槽の共鳴率が異常数値だぞ!」


ジグはゴーグルを押し上げ、目をランランと輝かせてノワールに詰め寄った。


「私はジグ。この浮遊遺跡で『天星界へ行く装置』を研究しているしがない発明家さ。いやぁ、道を通りかかったティアちゃんの魂があんまりに綺麗だったから、つい『データを採取させてもらいたい!』と思ってね。悪い悪い、驚かせてしまったな!」


「ノワール、怒らないであげてね」とティアがくすくす笑う。「ジグさん、ヘンテコだけどすっごく良い人だよ! 私の魂のデータを、その天星界へ行く装置の参考にしたいんだって!」


ジグは途端に照れくさそうに頭を掻きながら、背中の浮遊機械を一台小突いた。


「いや、実はさ……僕の発明、いつも『可愛く』なりすぎて実用的にならないのが玉に瑕でね。本気で天星界を目指しているのに、出来上がるのはハート型のクッションとか、星屑を撒き散らしながら大声で歌うおしゃべり機械ばかり……本気で困ってるんだ、ハハハ……」


「それ、めっちゃ素敵だよ! 私、ジグさんのヘンテコな発明大好きだよ! 完成したらその装置、絶対最初に使わせてね!」


ティアの無邪気な言葉に、ジグは年甲斐もなく顔を真っ赤にし、照れながらも嬉しそうに鼻の下を伸ばした。


「ティアちゃんみたいな可愛い子にそう言ってもらえると、俄然やる気が出ちゃうな……。実際、君の純粋な魂のデータがあれば、装置の完成に大きく近づくと思うんだ。良ければ、これからも少し協力してくれないかい?」


ノワールはただ静かに、楽しげな二人のやり取りを特等席で眺めていた。


魔導院の襲撃という最悪の展開を覚悟して死に物狂いで走った結果が、この呑気な発明家との意気投合である。張り詰めていた緊張は完全に霧散し、小さなため息が鎧の隙間から漏れ出た。


午後を過ぎ、夕陽が遺跡の窓から差し込んで室内を金色に染め上げる頃。


静かに『星屑シフト』が訪れ、星蜜の里の灯りはいつものように遠くへと引き離された。


約束の時間が来て、ティアの魂がふわりと宙へ浮き上がる。


「えへへ……今日は、ジグさんと出会えて、ヘンテコな装置のお話がたくさん聞けて楽しかったな。明日こそ、楽しくがんばろー!」


幸せそうな笑顔を残し、彼女の魂は夜空へと優しく溶けていった。 ノワールは静かに遺跡の入り口に佇み、ジグとティアが笑い合ったその温かい時間を、自身の星槽へ大切に刻み込むのだった。

【ジグのヘンテコ発明品コーナー】


浮遊遺跡で研究を続ける変わり者発明家・ジグの、

これまでに作った「可愛すぎて実用的にならない」発明品たち


■ 主な発明品一覧


・ハート型浮遊クッション「ティアちゃんスマイル」


座ると使用者の笑顔がクッション表面に浮かび上がり、

優しい星屑を撒きながらふわふわ浮遊する。


「座り心地は最高だけど、天星界へ行く装置には全く使えない」

とジグが頭を抱えている逸品。



・星屑おしゃべり機械「ピクシーくん」


ピクシー四姉妹をモデルにした小型機械。


近くにいる人の話を勝手に覚えて、

夜中に突然「ティアちゃん可愛いよね〜」と話し始める。


ジグ曰く「静かにしてほしい時に限って大騒ぎする」。



・魂安定枕「夢見る星蜜」


枕に頭を乗せると、

ティアの笑顔や星蜜パンの夢を見られるという優れもの(?)。


しかし効果が強すぎて、朝になっても起きられなくなる副作用付き。



・自動宵花冠製造機


ボタンを押すと勝手に宵花の冠を編んで頭に乗せてくれる装置。

問題点:冠が多すぎて頭が埋もれる。



天星界てんせいかいへの接続試作機「ハートリンク ver.3」


本来の目的である「(星の彼方にあるとされる)天星界へ行く装置」の試作品。


現在は「使用者の大切な人をハート型ホログラムで再現して一緒に寝られる」機能がメインになってしまっている。


ジグ本人は「全部実用的に改良したいのに、なぜか全部可愛くなってしまう……」と毎回悩みながら、新しい発明に没頭している変わり者です。

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