【1話】婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件
1 スレ主
貴族です
今日、婚約破棄されました
愚痴っていいですか
2 名無しの魔法使い
どうぞ
3 名無しの魔法使い
聞きます
――
魔導掲示板を開くのは、いつも夜だ。
誰にも言えないことを、
名前も家名も出さずに吐き出せる場所。
ルールは守る。
家名は書かない。
相手の名前も書かない。
それが、貴族の常識だ。
今夜も、
ただの世間話のつもりだった。
――
4 スレ主
ありがとうございます
二人きりのディナーで
突然言われました
「愛がないから」って
5 名無しの魔法使い
理由それだけか
6 スレ主
それだけです
しかも浮気相手がいて
先月あたりから
急に態度が変わったな
とは思ってたんですけど
7 名無しの魔法使い
待て
8 スレ主
え
9 名無しの魔法使い
先月から態度が変わった
というのは
具体的にいつ頃か
10 スレ主
なんで急に
そんな真剣な感じに……
――
変だとは思った。
普段の掲示板は、
もっとゆるい。
「それは辛いね」とか
「相手が悪い」とか。
そういう返しが来るはずだった。
なのに。
やけに踏み込んでくる。
――
しかも。
返信が、やけに早い。
書き込んだ瞬間に、
返ってくる。
まるで。
ずっと待っていたみたいに。
――
なんとなく答えた。
それから少し雑談して、
眠くなって、
寝た。
――翌朝――
31 名無しの魔法使い
情報は揃った
32 名無しの魔法使い
では動く
33 名無しの魔法使い
任せろ
――
……え?
情報って、何の。
動くって、何が。
任せるって、誰に。
私。
婚約破棄の愚痴を
書いただけなんですけど。
――
51 名無しの魔法使い
スレが学園で
広まっているようだ
52 名無しの魔法使い
自然に広まったな
53 名無しの魔法使い
ふふふ
――
ふふふって、誰。
――昼――
67 名無しの魔法使い
本人が来るとしたら
昼頃か
68 名無しの魔法使い
待機する
――
そして、その通りに。
89 公爵家次男◆xxxx
デマを流すな
婚約は合意の上で解消した
――
来た。
なんで来るの、この人。
――
90 名無しの魔法使い
…
91 名無しの魔法使い
合意の根拠は
92 公爵家次男◆xxxx
彼女が感情的で話にならないため
家のために合理的判断をした
新しい婚約者は才女で
比較すれば誰でも理解できる
93 名無しの魔法使い
…
94 名無しの魔法使い
記録完了
95 名無しの魔法使い
後は任せる
96 名無しの魔法使い
承知した
――
ぴたりと止まった。
スレが、
完全に沈黙した。
――
97 名無しの魔法使い
スレ主
あとはゆっくり休め
――
ゆっくり休め、って。
何が起きたの。
私は、掲示板を閉じた。
――
翌朝の朝食。
食堂に入ると。
父と母と兄と、
お祖父様とお祖母様が。
全員、揃っていた。
珍しい。
「おはようございます」
席に着くと。
全員が、微妙なタイミングで
視線を逸らした。
父は窓の外。
兄はパン。
母はスープ。
お祖母様はナプキン。
お祖父様だけが、
普通に食べている。
沈黙。
「……あの」
父が、お茶を一口飲んで言った。
「婚約者の件は、片付けた」
「…………」
「ありがとうございます」
また、沈黙。
「お祖父様」
「うん」
「昨夜、何か……」
「飯がうまい」
「そうですか」
――
スープを一口飲む。
いつもと同じ味だった。
――
部屋に戻る。
掲示板を開く。
スレは、閉鎖されていた。
最後の書き込みだけが残っている。
999 名無しの魔法使い
お疲れ様でした
――
誰が書いたんだろう、と思って。
やめた。
知らない方が、
たぶん幸せだ。
私は、そっと掲示板を閉じた。




