孤独な帝国 其の十五
『いくつか説明をしなければいけませんね…』
台車の上で浮かぶ培養液脳みそが喋り始めた。
一応こちらも聞く姿勢を取る、人と蜘蛛とスライムだしまぁ張り合ってる方だろ。
......
............
『まず上でこの子から聞いたとは思うが、私はこの世界で生まれたわけではないんだ...
君も同じらしいが、聞いた話や伝わった内容で恐らく君とは違う場所から来ている。
私のいた世界はね、科学技術の発達した...発達し過ぎた世界だったよ』
「そう聞くと確かに自分のいた所とは違いそうですね...因みに住んでた星の名前って」
『繧ア繝励Λ繝シという星の名前だ…知っているかい?』
「知らないし違う名前だな...すまない遮って、話を続けてください」
『そうだな続けよう...あの世界で私は、まぁそれなりに知識欲を満たしつつある状態だった。
それが気が付いたらこの世界に落ちていた...正直驚いたよ、そして恐怖した。自信を守る物が何もないこの森で"アレ"を見たからね』
「その"アレ"とは?」
『空を支配する大いなる竜だよ...あれから逃れるためにこの地下へと身を隠すようになったんだ。
科学技術は健在だったがそのための何もかもがない状態だ、そんな状況であれを見たら誰だって同じ反応をするさ...』
成程...技術が異常なほど発達した世界で暮らしていたのに突然こんな森の中に来た挙句、
恐らくまだ洞穴に引きこもる前の古龍さんが飛んでいるのを見て心が折れたってところかな。
「それで、その後は?」
『逃げ込んだ時点でこの場所は広さも深さもないただの洞穴だったんだ、あんな空を支配する者に襲われたら一瞬で消し飛ぶ地表だ。すぐ地下へ潜航したさ』
「あの途中の書置きはその時に書いたやつか」
『おや読めたのか...そうだ、この世界に来る直前に私の周囲にあった物は一緒にこちらに来ていたからね、急いで運び込んであの場所まで掘り進んだ。だが地上からは変わらず不穏な気配を感じていたからね...自身の予定や目標も兼ねてあそこに書置きをしたんだ』
「一時的な休息場所も兼ねてってわけか...」
『もし私以外の者がここに来ていたとしたら、避難場所として使ってもらうつもりもあったがね。
まぁ無駄だったよ、結局来たのは別の星、もしくは世界からやってきた君が初めてだしね...あれからどれくらい経ったかも覚えていない。日を数えるのはやめたからね』
日付の記録は心の耐久をすり減らすだけの行為になってしまったか...数年程度じゃないことは察せるけど。
『食料と自身の技術力だけで地下深くへと潜り、今に至るというわけだ。
申し訳ないがその間の記録は要所要所で欠落していてね...聞かれても答えれるもの、思い出せるものとそうでないものがある』
「もしかして...消した?」
「どういうことぉ?」
『君の予想通りだよ...君には悪いがもっと早く出会えていればと考えてしまうな...』
「記憶すら消せる技術力か、確かに発達し過ぎた技術力な世界だな」
「あぁそういうことねぇ…本当に凄い技術力なのねぇ、教えて欲しいわぁ?」
『ふむ…誰かに教えるなど久しくしていないし試しても構わないが、悪用しないかね?』
「悪用云々の倫理観が多分私達と違うので、悪用しようのない技術だけでお願いできます?」
「私の事信用してないのぉ?」
「まさか、信用信頼したうえでの提案さ」
[回答...正しい判断かと]
だろうね、生まれた時点で最初から生肉なんてもの創った方だからな。
『この地下での私の発明で、恐らく一番倫理観の欠如したものはこいつだろうからな。
それ以外で何か教えれる技術を提供しよう』
「フェネクスさんは貴方のお手製でしたか」
まぁ想像通りではあるが、そして理由もなんとなく予想できるけど。
『ふふ...人とは分かっててもそう聞くものだったね。
久しぶりの感覚だよ…その通り、フェネクスは私の発明。一人ではなく独りという孤独に耐えかねて私は創造を行った...結果は虚しいだけだったがね』
「質疑…子から育てて自我を育めなかったのですか?」
おぉ外付けAIさん切り込むねぇ...うーんでもそれって難しい気がするなぁ。
『間違ったことは言っていないな、だが不可能だ。
自我の形成、それは個人で成しえるものではないのだよ...社会という集団を俯瞰して作られていく部分が必ず必要なんだ』
「疑問...理解が難しいです」
「要は、どう頑張っても自分の模倣になるってことだ。
見聞きして学ぶ対象が常に固定された一人だからな...」
中々これは、この地下帝国は孤独な空間だな...。




