第27話 王
沢を登り切ると王座が広がっていた。
沢を登り切った先には平地が広がり、左右は魔木が背後は絶壁が翼を広げた鳥のように広がっている。絶壁からは滝が流れ落ち沢に流れ込んでいく。
日当たりが良く平地一面にふわふわの絨毯のように広がる魔草の上にそれは寝そべっていた。
巨大な黄金の山羊。
王の如く悠然としている。
全長20メートルはあるだろう巨体からはダイダラボッチに匹敵する気配が溢れている。
オオクニヌシ「ヒノツジカミ」を台所に隠れ住むネズミのようにそっと頭を出してコソコソと隠れ見ている。
「凄い」
隣りにいるナァシフォが魂を奪われたように見穫れるのも分かる。
それほどまでに美しい。
黄金の体毛だけじゃなく、天をひっくり返すほど反り返って巨大な角。魔獣というカテゴリーを超えて神の領域に入っている。まさにオオクニヌシ、一国を収める神といって差支えない。
これを利用しようなんて考えるのは不敬であり天罰が下るだろう。だが人間とは天罰を恐れて滅びを待つほど従順な生物ではない。
作戦の成功率を上げる為にも出来れば狩りをするところを見てみたい。そこまでいかなくともせめて動いている姿を見たい。
腹が減れば狩りに行くだろう。
長期戦になるか。そうなるとこんな所ではなく、もう少し隠れ易く見張り易い場所に移動したいところだな。
「ナァシフォ?」
俺がナァシフォに一旦引き上げの合図を出そうと見ると俺同様崖から頭を出して隠れ見ていたはずのナァシフォは沢を登り切って堂々と姿を晒してヒノツジノカミを見ていた。
「おっおい、何をやっている」
俺が声を掛けるが反応がない。それどころかこんなちっぽけな存在に気付いたヒノツジカミがゆっくりと立ち上がり此方を見た。
まずい、此方を、いやナァシフォを認識している。
慌てる俺をよそにナァシフォは悠然と立ち尽くし、ナァシフォのヒノツジカミを見る目が黄金に輝き出した。
はっとヒノツジカミを見るとヒノツジカミの目も黄金に輝き出している。
互いに感応しているのか?
そしてパチパチっと空気が弾ける音が響き出す。
ヒノツジカミが放電を始めている!!!
「まずい」
ヒノツジカミは完全にナァシフォを認識している。そして攻撃体制を取りつつある。ヒノツジカミの能力を見たいと思っていたが、こういうのは想定していなかった。
「どっどうしますか旦那」
てんぷらがナァシフォを俺を交互に見ながら問いかけてくる。
「殿は俺がする。ナァシフォを担いで逃げろ」
「了解です」
てんぷらが背後からナァシフォに抱き着いたがナァシフォは心を奪われた人形のように抵抗する様子は全く無かった。そのまま為すがままにてんぷらの肩に米俵のように抱え上げられた。てんぷらはナァシフォを肩に担ぐと一目散に沢を落ちるように逃げ出し、俺はその後を遅れて付いて行くのであった。




