第41話 激突
エキドナの不意打ちに宮殿は騒然となった。
誰もが、エキドナの凶行に目を見開き、言葉が出ない。
エキドナからは禍々しいエーテルが溢れ出し、ピケは思わず後ずさる。
ピケは無意識的にエキドナに対し、鑑定を使った。
名前:エキドナ
クラス:グレーターウォリアー
クラススキル:プレリュード
Lv:40
EP:6,345
「おかしいよ……いくらエキドナが強いって言っても、レベル40。勇者王のレベル81には遠く及ばないのに。エーテルポイントだって桁が違う。それなのに勇者王がやられるなんて」
ピケが驚いたのも無理はなかった。
カゲトラとエキドナではそもそもの地力が違いすぎる。
たとえ不意打ちだったとしても傷一つつかない筈だ。
……しかし、現に今、カゲトラはエキドナの一撃によって致命傷を受けた。
「ふふふ。犬の坊や、何度言ったら分かるのかしら? レディーに鑑定を使うのは感心しないわぁ。キツイしつけが必要みたいね」
その瞬間、エキドナの姿が一変した。
頭から羊のような角が生え、お尻からは黒く細長い尻尾が飛び出す。
さらには目が血走り、肌は小麦色に染まった。
革鎧から、黒の薄いドレスに変わり、肌を大きく露出させている。
何より、その身から溢れ出る邪悪なエーテルは前の比ではなかった。
いや……これは試験前に見せたあの勇者王のエーテル爆発よりも明らかに多いとピケは感じた。
「なんなんだ……これは……」
ピケは呆然と呟く事しか出来ない。
この肌を突き刺すような気味の悪いエーテルはヴルドの森でバスターウルフに対面した時と同じ。
いや、あんなエーテルなど生緩いくらいに目の前の化け物は人智を超越していた。
ピケは祈るように再び鑑定を使うと……。
名前:エキドナ
クラス:サキュバスクイーン
クラススキル:イリュージョニスト
Lv:99
EP:207,659
「な……なんだって!? レベル99!? それにエーテルポイントが20万越えだって……!?」
ピケは鑑定を使ってしまった事を後悔した。
信じられない鑑定結果にピケは驚愕する。
しかし、有りえない。
ステータスを偽るというのは本来どんな手を使っても出来ない事だ。
太陽が東から昇るように、鑑定で見える結果は絶対。
メルルのように見えない事はあっても偽る事など不可能。
しかし、エキドナは完璧に偽っていた。
「また見たのねぇ。まぁ、いいわ。これこそが私のクラススキル・イリュージョニスト。私はステータスの全てを別人に変える事が出来る。偽っている訳ではないわ。完全に別人に変化しているだけ。だから誰にも真実は分からない」
ピケはエキドナの言葉に驚愕する。
こんな化け物が試験に紛れ込んでいた事実に、ピケは怖気が走った。
「サキュバスクイーン……ですって……?」
ポツリと呟く声がピケに届いた。
すると白龍の龍人・ジュッテが黄金の瞳を見開いてエキドナを見ていた。
「あらぁ? あなた、私を知っているのかしらぁ?」
「知ってるもなにも、あんたは魔王軍幹部、悪魔を束ねる王、サキュバスクイーン。……私の両親の仇……!」
ジュッテは凄まじい怒りに身を任せて、エーテルを噴出させた。
ジュッテの言葉にピケは驚愕する。
(魔王軍……幹部!?)
そんな怒り狂うジュッテを見て、エキドナはニタリと笑う。
「あらまぁ、あなたは龍の子なのねぇ……! 両親の仇……? ごめんなさい、あなたの一族みんなトカゲの顔だったから、なにも思い出せないわぁ」
「こいつッ!」
ジュッテがバスターソードを握りしめて、飛び掛った。
それはピケの目では到底捉える事の出来ないスピードだった。
が、しかし……。
ドンッ!
と地面に亀裂が入った。
エキドナはジュッテの首を掴んで、地面に叩きつけたのだ。
大理石の床は地割れのように割れた。
「カっハァッ!」
ジュッテは叩きつけられた衝撃で息が出来ず、白目を向いている。
しかし、それでもその怒りは消えてはいなかった。
怨嗟の声を出し、エキドナを睨みつける。
「ゆるざないッ……絶対に……絶対にッ!」
しかし、エキドナはそんなジュッテの姿を見て、ニィッ、と嫌らしく笑うと、開いた方の手でジュッテの腹目掛けて殴った。
ドフッ!
「ガァッ!?」
禍々しいエーテルを大量に乗せた拳は、ジュッテの腹に何度も何度も突き刺さる。
あまりの惨劇に、ピケもカクータも動く事が出来ない。
……しかし。
「あぁん?」
不意にエキドナの腕が何かに掴まれた。
振り向くとそこにいたのは、無表情でただエキドナを見ていたメルルだった。
メルルは不意に口を開く。
「ピケ、カゲトラを治療士の元に運んでくれ」
「は、はいっ!」
ピケには分かった。
メルルが怒っているという事が。
ピケがカクータにバカにされた時もメルルは怒っていたが、今回はそれ以上だとピケは感じた。
すぐさまピケは言われた通りに、カゲトラの元へと駆け寄る。
「そんな事させると……なんなの……この力は……? 動かない……?」
エキドナはピケを追おうとするも、メルルの凄まじい握力に体が動かなかった。
「ジュッテの手を離せ」
メルルは無表情で言った。
エキドナはメルルの顔を見た後、ニッコリと微笑んでメルルに言った。
「わーかったわよぉ。もう、そんな怖い顔して嫌ねぇ。ほら、離したわよぉ?」
エキドナはやれやれといった仕草をして、ジュッテの首から手を離した。
ジュッテは完全に白目を剥いて意識を失っていた。
が、しかし……。
エキドナは瞬時に、エーテルを噴出させ、瞬きする間も無い僅かな時間で、ジュッテにトドメを刺そうと拳を振り下ろすが……。
「あ、あら……?」
そこにはジュッテはおらず、エキドナがキョロキョロと辺りを見ると、ジュッテを抱えたメルルが治療士の元へと移動していた。
その様子を見て、エキドナの目が吊り上る。
「舐めやがって……。分かったわぁ、あいつだけはこの私の手で捻り潰してやるわぁ。一次試験の時から目障りだったのよねぇ。その可愛い顔をグチャグチャにしてやるわぁ」
エキドナの壮絶な笑みにピケは戦慄した。




