第39話 試験終了
勝負は呆気なく終わりを告げた。
地面に立つのは、無傷のままのメルル。
それに対して、勇者王カゲトラは身体中の至るところに大きな傷を作って大の字で倒れていた。
カゲトラは獅子の姿ではなく、人の姿に戻っている。
「いやはや悔しいですな……まさかこの儂ですらまともにダメージを与えられなかったとは……」
カゲトラはポツリと呟く。
しかし、その言葉とは裏腹にその顔はどこかスッキリしたように晴れやかだった。
「この世界の住人にしてはエーテルがよく練り上げられている。でもまだまだ獅子の腕力に頼りすぎだ。動きの観察に至ってはまだまだ未熟。だからこうも良いようにやられるんだ」
メルルの言葉にカゲトラは力無く笑った。
「ふふ……この私ですら未熟とは……ではこの世界の人々のほぼ全員が未熟という事になるわい」
カゲトラの攻撃は一つ足りとてメルルには当たらなかった。
カゲトラが繰り出す攻撃の全てが躱され、いなされ、挙句の果てにはよく分からない動きでカウンターを何度も受けた。
まるで自分の攻撃を何倍にも上乗せをして返されたような重いカウンターに、不死身のようなタフさを持つカゲトラでさえ、立ち上がる事は出来なかった。
「……でもまぁ、久々に楽しかったよ。あんたはまだまだ強くなる。また今度戦おう」
「おお……なんという有り難き御言葉、まだまだ儂も捨てたもんではないらしい」
大の字で倒れたまま、笑うカゲトラを見て、メルルは始めに疑問に思っていた事を聞いた。
「ところで、この大地はあんたが作ったのか?」
「いえ……この空間は先々代の勇者がお造りになったと言われております。言い伝えでは、世を制した強者のみが挑戦することが出来る超越者の集いなるものを模して造られたのだとか……」
メルルはカゲトラの言葉にピンときた。
間違いなく、それは徳次郎が200年の長き時を費やして戦い抜いたデスゲーム『生と死の狭間』だろうとメルルは推測した。
「あんたはその戦いに参加した事はあるのか?」
「いえ……あくまで伝説上の話ですので、私は眉唾だと思っているのですが……」
「そうか……」
それだけ言うと、メルルは未だに倒れ伏しているカクータを担いだ。
どうやらこの世界とあのデスゲームの世界は繋がっているらしいとメルルは推測した。
もしかしたらこの先、あのデスゲームを生き抜いた強者と戦えるかもしれない、とメルルは少し期待する。
「さぁ、そろそろここを出よう。こいつも連れて行っていいだろ?」
メルルはカクータを担いだまま、地面に仰向けに倒れているカゲトラに手を差し出した。
カゲトラは微笑みながら答える。
「解りました。その者も合格と致しましょうかの。また是非ともご指導、宜しく頼みます」
「うん」
こうしてメルルはカゲトラの腕を肩に回して、光輝く生門を抜けた。
勇者選抜試験の最終試験の幕が閉じたのである。
メルルは生門を抜けた後、ゆっくりと意識を手放した。
「はっ」
メルルは気が付くと、煌びやかな白亜の壁が陶磁器のように白く輝く宮殿の中にいた。
一つ一つが凝ったデザインの調度品やシャンデリア一が立ち並ぶその光景は前に見た時と全く同じで、見る者を圧倒する。
メルルはどうやらベルレフィリア城の宮殿まで転移したのだと悟った。
「戻ったのか……」
辺りをキョロキョロと見渡すと、ピケと目が合った瞬間、花が咲いたような笑顔で勢い良く近づいてきた。
「メルルっ!」
ピケは背に担いでいる気絶したカクータを見ると、目を見開いた。
「カ、カクータ! そうか! メルルが連れて帰ってきてくれたんだね!」
ピケがそれはもう嬉しそうにメルルに尋ねた。
「うん。どうやらこれで全員みたいだな」
メルルはゆっくりと見渡す。
周りにはピケと同じようにキラキラとした目でメルルを見るジュッテと、目を細めて自分を見ていたエキドナの姿があった。
そんな中、ピケが突然、疑問の声をあげる。
「あ、あれ……? 勇者王カゲトラはどうなったの……?」
ピケが恐る恐る背後に目を遣ると、傷だらけのカゲトラが大の字で倒れていた。
「ま……まさか……メルル……あのカゲトラ相手に勝っちゃったの……?」
周囲にいた全ての者が目を見開いて、傷だらけのカゲトラと無傷なメルルを交互に見ていた。
「こ、国王様!?」
周囲にいた衛兵達が急いで駆け寄り、治療を始める。
そんな様子を不思議そうに見ていたメルルはなんでもないように言ってのけた。
「ああ、けど中々強かったな」
「中々……? あの勇者王が中々強かった……!? それだけ!?」
「うん」
ピケは開いた口が塞がらない。
もしかしたらあの勇者王相手でも勝ってしまうのではないかと思ってはいたが、まさかこんなにあっさり言うとは思わなかったと、ピケは驚く。
メルルの様子を見る限りでは、ダメージを受けたような感じはない。
どうやらメルルの圧勝だったようだ、とピケは戦慄した。
「ぐ……くく、こってりやられたわい」
そんな中、プリースト達の治療を受けていたカゲトラがヨロヨロと立ち上がって、口を開いた。
白いローブは所々破れ、赤い血が滲んでいる。
「こ、国王様! まだ治療が!」
「そんなものは後で良い。すぐに勇者誕生の儀を執り行う」
プリースト達の制止を振り払ってカゲトラは壇上の前へと進んだ。
まだメルルから受けたダメージが抜けきっていないのか、まだ若干フラついてはいるが、その目はどこか晴れ晴れとしていた。
「さぁ、新たな勇者達よ。儂の前に集うが良い。今から勇者の儀を始める」
宮殿中に、カゲトラの威厳ある声音が響いた。




