第14話 強敵出現
勇者選抜試験、それはベルレフィリア王国が誇る一大イベントだ。
世界中から勇者を目指す猛者が集まり、一年に一度このベルレフィリア王国で開催される。
試験内容は熾烈を極めるものばかりで中には命を落とすような試験も存在する。
毎年、万を超える人々が参加をする中、毎年合格者は片手で数えられる程しか出ない。
全員が不合格の年も存在もある程、難関中の難関で知られている。
だがそれでも、人々は集う。
全ては勇者の称号を手に入れる。
ただそれだけの為に……。
ベルレフィリア城、広場にて無数の人々が勢揃いしていた。
見渡す限り人、人、人の群れ。
まるでお祭りのような熱気が吹き荒れ、人々が大騒ぎしている。
そんな中、ピケとメルルが人混みを掻き分けながら進んでいた。
「なんなのこの人混みは!? 勇者選抜試験ってこんなに多くの人が受けるのかよ! まるでライブ会場だな」
メルルが珍しく困惑した声を漏らした。
「ベルレフィリア王国が誇る超有名行事だからね。なんたってこの試験はベルレフィリア王国、国王が直々に取り仕切ってるんだって!」
「ひぇぇ、こりゃ修行どころじゃないな……」
メルルの言葉を聞いてピケは狂気乱舞した。
ピケはここ数日の拷問……もとい修行を思い出して虚ろな瞳になる。
何度死んだと思ったことか。
このメルルという少女はどこか頭のネジが飛んでいる。
こと修行に関しては狂気を感じる程、常軌を逸していた。
死にかけて目覚めた一言目が、「もう一回」は本当にやめてほしいと切実にピケは思った。
魔王を倒し、仇を打つという執念がなければ、とうの昔に根を上げていたに違いない。
それほどピケはこの数日地獄を見てきたのだ。
だが、そのおかげでエーテル量が大幅に増えたのは疑いようのない事実ではある。
と、ここ数日の記憶を思い返していたせいで、虚ろな瞳になっていたピケはハッと正気に戻る。
……しかし。
「あれ! メルルがいない!?」
一瞬目を離しただけだというのに、メルルの姿が何処にも見当たらなかった。
ピケはキョロキョロと辺りを隈なく見渡すも、メルルが見つからない。
どうやらこの人混みのせいで逸れてしまったようだ。
ピケはメルルを探す為に移動しようとした、その瞬間だった。
「そこのボク、ごめんなさい」
まるで鈴の音を鳴らすような綺麗な声が響き、肩をトンと叩かれる。
ピケが振り返るとそこには妖艶なオーラを醸し出す美女がいた。
美女は扇情的な格好をしており、黒のブラウスからは豊満な胸が溢れんばかりに顔を出している。
下半身は漆黒の革鎧で包まれ、所々艶かしい素肌が垣間見える。
艶のある髪は腰まで届き、朱色の瞳はまるで全てを見透かすような鋭さがあった。
……ゾクリ。
その女性を見た瞬間、ピケは思わず後ずさった。
本能でこの女性が只者ではないと感じとったのだ。
いや、それだけではない。
メルルとの修行でエーテルに対して以前とは比べ物にならない程、敏感になったピケは、この女性の内に秘められたエーテルを感じ取っていた。
上手く隠しているがピケには分かった。
(なんだ……!? このドス黒いエーテルは!?)
まるで地獄の底から湧き出してきたようなエーテルは禍々しさで満ちていた。
メルルの持つ真っ白なエーテルとは対極のエーテルの質だった。
ピケは無意識的に、女性に対して鑑定を行う。
すると……。
名前:エキドナ
クラス:グレーターウォリアー
クラススキル:プレリュード
Lv:40
EP:6,345
(エーテルポイントが6000越え!? この人めちゃくちゃ強い!?)
ピケは驚きが表情に出そうになったが、すんでのところで抑える事に成功した。
「ねぇ、そこのボク。ちょっといいかしら?」
謎の美女はピケの身長に合わせるように屈んだ。
豊満な胸が目前に迫り、思わず視線がいく。
メルルという異性が近くにいる事により、目覚めかけている性が否応なくピケの本能を刺激する。
「な……なんですか?」
ピケは動揺を隠すように答えた。
「あなた、見たところ王都出身よね? 最近何か変わったところはなかったかしら?」
「変わったところ……ですか」
ピケは思いがけない質問に少し頭を悩ませる。
だがどれだけ考えても答えは見つからない。
そんなピケを見て美女は言葉を重ねた。
「たとえば……巨大なエーテル爆発がこの辺りで起こったとか」
「……っ!?」
ピケは思わず動揺が表情に現れそうになった。
巨大なエーテル爆発。
心当たりというか、十中八九、メルルが動き出した瞬間に現れたメルルのエーテルの事だろう。
あの日の後、確かに街ではちょっとした騒ぎになっていた。
しかし、特に大きな問題にはなっていなかった筈だと思い直す。
(でも……真実をこの禍々しいエーテルを持った人には言いたくない)
何の目的があるのかは知らないが、ピケは本能的にこの美女に真実を話す事は躊躇われた。
それに恩人の秘密を知らない人間においそれと話して良い筈がない。
「いや……知らないよ。僕は王都に住んでるけど、しばらく故郷に帰ってたんだ」
美女はまるで何かを見通すようにじっとピケの瞳を見ていた。
ピケは内心、ドクン、ドクンと胸が高鳴る。
緊迫する時間が流れた後、ようやく美女が口を開いた。
「……あなた、ワンダフルの獣人なのね。……そう、分かったわ、急に引き止めてごめんなさい」
「いえ……」
美女はニコリと妖艶な笑みを浮かべた。
男を惑わすような蠱惑的な笑みだが、禍々しいエーテルも相まって何故だか怖気が走った。
耳がビクリと震える。
「お互いに試験、頑張りましょうね」
「は……はい!」
ピケはようやく解放される、と胸を撫で下ろす。
しかし勇者選抜試験にはこんな高レベルの人間も参加するのかと、ピケは改めてこの試験の過酷さを理解した。
美女は最後にピケに振り返る。
「それと……レディーにいきなり鑑定を使うのは感心しないわ。次から気をつけなさいね」
「っ!?」
ビクンッと心臓が震えた。
美女はそのままニコリと微笑むと雑踏の中へと消えていった。
一人取り残されたピケは思わずペタンと尻餅をつく。
(バレていたのか……)
思いもよらない強敵の出現にピケは身震いした。




