第13話 修行
ピケは早くもメルルに弟子入りした事を後悔し始めていた。
「はい、じゃあ今のもう一回やってみて」
「は……はい……」
ピケは大の字で地面に倒れていた。
指先一つ動かせない。
ピケはメルルの全開のエーテル爆発を真正面で浴びた事で、エーテルというものをより感じ取れるようになっていた。
自分の中にあるエーテルは極々少ないものの、以前よりもハッキリと目で見えるようになったのだ。
メルル曰く、その年でそこまで見えるのはなかなか凄い事らしい。
ピケには全く実感が湧かなかったが。
そして修行の内容だが、それはもう凄まじいものだった。
やる事は単純だ。
体の中に眠るエーテルを外に限界まで放出するだけ。
だがこれが本当にキツいものだった。
エーテルとは生体エネルギーそのもの。
エーテルがゼロになれば生き物は死んでしまう。
だから、この世界ではエーテルとは温存しておくものという考えが常識だ。
しかし、メルルの修行では真逆の事を行っている。
ピケはいつもエーテルを限界まで放出した後は、毎回必ず気絶していた。
それも一度や二度ではない。
もう何百回も気絶を繰り返しているのだ。
ピケはメルルの修行を開始してから何度も生死の境を彷徨っていた。
だが、そんなピケの姿を見て、悪魔……いや、メルルは言うのだった。
「安心して死にかけて。危ない時は『撚糸』を使って助けてあげるから。いや〜、この能力マジで便利だなぁ」
と、平然と宣ったのである。
早くもピケは指導を仰ぐ人物を間違えたのではないかと思い始めていた。
端正な顔つきの少女が、そんな恐ろしい言葉を平然と宣うそのギャップにピケは軽く引き始めていたのだ。
そしてだんだんと理解してきた。
このメルルという少女は頭がどこかおかしいのではないか……と。
ピケは本当にこの修行が役に立っているのか、だんだんと訝しげに思ってきた。
しかし……。
「ピケ少年、鑑定で自分のステータスを見てごらん」
勇者選抜試験を目前に迎えた日の事、今日もピケは死にかけて大の字で横たわっていたところに、メルルが何気なくそう言った。
ピケは言われた通り、自分のステータスを見てみると……。
名前:ピケ 犬族・ワンダフルの獣人
クラス:戦士・ウォリアー
クラススキル:なし
Lv:3
EP:134
「って、えぇ!? エーテルポイントが倍以上になってる!?」
ピケは目を丸くして驚愕した。
確かこの前まではエーテルポイントは50もなかった筈だと思い当たる。
それが倍以上に膨れ上がっていたのだ。
この数値はレベル17のカクータに迫る数値だ。
エーテルポイントを上げる為にはレベルを上げるしかないというのがこの世界の常識だ。
しかし実際、今レベルが上がる事なく、エーテルポイントだけが伸びている。
この事実にピケはハッとメルルを見た。
「そりゃそれぐらい伸びるさ。毎日あれだけ死にかけているんだ。エーテルが足りないと体に教え込む事で、体からエーテルを強引に生み出させているんだ。あとはしっかり食う事。要するに筋トレと一緒だ。……にしても伸びすぎだろ、おかしいだろ」
メルルは最後、露骨に眉をひそめていたが、湧き上がる興奮にそんな事には気にならなかった。
そしてピケはこの人についていけば必ず強くなれると確信を抱いた。
毎日死にかけていた事は決して無駄ではなかったのだ。
むしろ、もっともっと自分を追い込んでいきたいという、行ってはいけない方向に行きかけている自分もいる事に、ピケは冷や汗をかく。
それにしても……。
「ね、ねぇ……ところでメルルは何をしているの……?」
メルルは地面に横たわるピケの目の前で、親指だけで逆立ちを行い、ピケを見下ろしていた。
メルルのような見目麗しい少女が無表情で逆立ちしていると、軽く不気味に思える。
「ピケ少年とおんなじ事だ。俺もこの状態でエーテルを放出し続けてるんだ。実は今結構ぶっ倒れそうなんだぜ?」
「ええっ!? そうなの!? でも何も感じないよ?」
「エーテルは放出させなくても消費出来るんだ。今奥底に眠るエーテルを体内で循環させて高速に回転させてるのさ。そうする事でエーテルの質も向上し、エーテルも消費出来る。そして逆立ちをする事で、エーテルの循環が上手く阻害されていい感じの負荷がかかり、これがまたエーテルの消費を促す。つまり究極の修行なんだ。自己発電てやつだな!」
逆立ちしながらはっは、と笑うメルルを見てピケは軽く引いていた。
言っている意味がよく分からないが、なにか凄まじい事を平気な顔してやっている事だけは分かる。
それもピケの修行も同時並行で見ながら……だ。
ピケはメルルが頭のおかしい何か変態的なものなのかもしれないという推測が確信に近づいている事をハッキリと感じていた。
「あ、ところで明日はいよいよ勇者選抜試験だけど、もちろんこの修行は試験中もやるからよろしく」
「し、死んじゃうよ!」
ピケは絶望に目の前が真っ暗になった。




