第12話 決意
ピケ少年の耳と尻尾がへにゃんと、垂れ下がった。
何やら覚悟を決めたような顔つきだ。
ベッドに腰掛ける俺の前でピケ少年はおずおずと口を開いた。
「あの……メルル。お願いがあるんだ。僕はもっともっと強くなりたい。だから……僕の師匠になってくれないかな? 僕もメルルみたいに強くなりたいんだ!」
ピケ少年は言い切った。
彼は俺の命の恩人だ。
以前、俺はピケ少年に恩を返そうと誓った。
この申し出は俺にとっても渡りに船だ。
ここまでの才能を磨かずに腐らせるのは、本当に勿体無い。
しかし、一つだけピケ少年には聞いておかなければならない事があった。
「どうしてピケ少年は強さを求めるんだ? 強くなってどうしたいの?」
これだけは聞いておかなければならない。
修行するにあたって精神面というのは非常に大切なファクターの一つだ。
強くなりたい理由がなければきっと俺の修行について来られないだろう。
俺はピケ少年の返答をじっと待つ。
「僕は6年前に魔王に親が殺されたんだ。二人とも勇者だった。それなのに殺されたんだ。僕は強くなって仇を討ちたい。勇者になって僕が魔王を倒すんだ!」
ピケ少年はきっぱりと言い切った。
そこには全ての覚悟を決めた男の顔があった。
「……分かった。君を鍛える事にしよう。だけど俺の修行は厳しいよ。ついてこれるか?」
一生に一度は言ってみたかったセリフを言えて、俺はご満悦だった。
だってデスゲームじゃずっと一人だったもんなぁ。
あの200年の集大成を誰かに伝える事が出来るというのは素直に嬉しい。
するとピケ少年は、耳をピコーンと立てて、言い切った。
「上等だよ!僕は強くなる」
余談だが、後々にあまりの修行の過酷さに、ピケはこの時、自信満々に口走った事を後悔する事になるのはまた別の話である。
「それでピケ少年、この世界について色々話してくれないか? 俺はこの世界の事をあんまり知らないんだ」
「うん、もちろんだよ!」
俺はそれからピケ少年からこの世界について色々教わった。
ここはどうやらベルレフィリア王国という場所らしい。
この国では一年に一度開催される勇者選抜試験というのが有名で各国から大勢の人が集まっているらしい。
そして近々それが開催されるようだ。
ピケ少年も勇者になる為に勇者選抜試験を受ける予定である事など、色々聞く事が出来た。
「……なるほど、ピケ少年は勇者になる為にその勇者選抜試験を受けるつもりって訳か」
「そうなんだ。だから今すぐにでも強くならなくちゃならない。勇者選抜試験に挑む人達は凄い人ばかりって話だから」
凄い人達か……。
俺はその勇者選抜試験に俄然興味が湧いてきた。
何やら勇者選抜試験を合格してもらえる勇者の証というのものは身分証にもなるらしく、かなり便利なものらしい。
俺は修行ついでに、勇者選抜試験を受けてみるのも悪くないのではないかと思えた。
もしかしたらここで素晴らしい強者と心躍る闘いが出来るかもしれない。
「よし、その勇者選抜試験に俺も参加しよう。ってか、俺でも出られるの?」
こう言ってはなんだが、俺は異世界人で、更に今は人形だ。
そんな奴が勇者になんかなってもいいのかと不安だったが……。
「うん! 参加資格は特にないからね。メルルも一緒に受けるなら百人力だよ!」
ピケ少年の言葉に俺は薄く笑った。
取り敢えず目下の目標は、ピケ少年を鍛える事になりそうだ。
はっきり言って今のままでは到底、勇者選抜試験とやらに合格出来ないないだろう。
しかし、ピケ少年には光輝く才能が眠っている。
少し磨くだけでも、すぐに力が現れる筈だ。
なによりもまずはピケ少年の修行からだな、と俺は内心で舌舐めずりした。
ピケ少年は何かを感じ取ったのか、ブルっと耳が震えていた。