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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「この町とこの町、あとここですね」

広いリビングの広いテーブルに一枚の地図が広げられ、そこに各々行ったことのある町や村へと印を付けていく。

一番多く印を付けたのはマールとエクシャだった。

ホルガー・サイルス以前の主人は商人であった為、各地を転々と回っていたのだ。

なぜそのような事をしているかと言えば、撹乱の為である。

ロザリール国のスラムに住んでいた頃、町のギルドで身代わりくんやポーションを卸していたのだが、どこのギルドで卸された商品なのか全ギルドで周知されるらしいのだ。

そしてその卸されたギルドに他ギルドから注文が行く。

廃城に引っ越してくる直前、海に落とした老紳士がまたちょっかいをかけてこないとも限らない為、居場所を特定されない様に商品を卸すギルドを細かく変えようという作戦である。

しかし、町から町へと移動するには時間がかかる為、取り敢えず行ったところのある町へ移動魔法で飛びそこから移動場所を広げていこうという事だ。

しかし、シュンは行ったことのある町と言えばスラムの町と港町と今住んでいる近くの町くらいなものなので、他のメンバーに頼ることにした。

「じゃじゃーん!移動魔法が使えなくても魔力があれば行ったことのある場所へ移動できる魔法陣!」

「へぇー…凄いですね…」

「これなら移動魔法が使えない俺やエクシャでも使えるわけか」

「そうそう。これで、私も一緒に二人の行ったことのある町に行けば、私はいつでも行けるようになるってわけ」

マールとエクシャの魔力は竜の血が通っているというだけあって、その魔力量は多い。

しかし、これまで勉強してこなかった為、殆どの魔法は使えない。

覚える気があるならレイルが教えてくれるとの事で、二人は日々勉強に勤しんでいる。

移動魔法は難易度が高く未習得だ。

「じゃぁ取り敢えず、今日はこの町へ行って身代わりくんを売ってくるね」

そう言って指したのは隣国のアルンダ国の端の町。

シュンはマールとエクシャを伴い、直ぐに姿を消した。

「……」

「…シン、どうした?」

レイルは二人になった事を都合よく思い、ここ数日様子のおかしいシンに声をかける。

シンは時折、シュンをジッと見ていることがあったり、シュンが一人でどこかへ出かけようとすれば必ず付いていく。

今の様にマールやエクシャ、レイルが一緒ならば特に問題ないのだが。

「…別に」

「完全に何かあるじゃねぇか」

分かりやすいにも程がある、とレイルは溜息を吐く。

「いきなりシュンに過保護になった理由、あるだろ?」

「過保護になったつもりはない」

「無意識か」

話そうにも内容をまるで覚えていない夢のせいで不安になっているなど、説明のしようがない。

シンは無言で席を立ち、その場を後にした。

「…なんだってんだ?」


その後もシンの奇行は続き、シュンも首を傾げ尋ねるが「何でもない」と「別に」のヘビーローテーションである。

そんな日が続き、マールとエクシャがレイルに魔法を教わっている時間、シュンはやはり何も言わずに付いてくるシンと共にアルワンダ国のとある町へと身代わりくんを売りに来ていた。

「あれ?」

「なんだ?」

「この町、なんか見覚えがある様な…無い様な…」

「なんだそりゃ?」

気のせいか、と頭を切り替えてギルドを探し、いつもの様に人形を売りさばき、いつもの様に町を少し散策して帰ろうとするが、シュンの足は止まらない。

まるでどこか目的地があるかのように、ズンズンと住宅街へと入っていった。

そこは所謂下流階級より少しマシな場所で、井戸では女たちが談笑しながら洗濯をこなし、近くの広場では子供達が笑い声を上げている。

「…なんだろう…」

「?」

「…懐かしい…」

やはり見たことのある光景だ。

あの広場も、そこの井戸も…そして…。

またゆっくりと歩き出し数分ののち足を止めた。

「!!?おい!!シュン!?どうした!!?」

今度は顔色が悪い。

「…え?」

「真っ青だぞ!?」

足が、それ以上進むなといっている気がした。

シュンはそれに従い、踵を返す。

「…帰ろう」

不安げに伸ばされたシュンの手を、シンはすかさず握り、一つ頷いて歩き出した。

それを見ていた一人の女が、シュンと同じように顔を青ざめさせて走り去ったが、二人は気づかない。

もうすぐ町を出る。

そうしたら直ぐに移動魔法で家に帰ろう、とシンは覚えたばかりの移動魔法の陣を頭の中で描いた。

が、シュンと繋いだ手が引っ張られ、幼い手が離れた。

「!?」

そちらを見ればシュンは見知らぬ男に抱きしめられていた。

「リュカ!!!」

シンが言葉を発するよりも先に、男が叫ぶ。

「すまない!すまない!!リュカ!」

背を向ける形になっているシュンの表情は分からないが、肩が震えているのがわかる。

「こんなに大きくなって!分かるか?お父さんだよ!!」

「っ!!」

がっ!と鈍い音が響いた。

シンが力のかぎり男を殴りつけ、シュンから引き離したのだ。

行き交う人々は突然の事に足を止め様子を見ている。

「シュン!帰るぞ!」

シンは震えるシュンを抱き抱え、足早に去ろうとするが、男がそうはさせない。

「頼む!娘を返してくれ!」

「は?人違いだ。こいつは俺の妹だ」

「金なら返す!だから娘を返してくれ!」

男が伸ばした手を避けるように、シンにしがみつきシュンははっきりと告げた。

「私に、お父さんは居ないっ」

と。

驚きと絶望に顔面蒼白となった男をよそに、シンは今度こそ町の外へ出るとすかさず人目を避けて移動魔法を発動させた。


「ダラス、やっぱりリュカちゃんかい?」

「…あぁ…間違いない…娘の顔を見間違えるものか。あれは間違いなく俺の娘…リュカだ…」

リュカを売り飛ばした後、周囲に責め立てられようやく正気に戻った時にはすでに遅く、娘の居所は分からなくなっていた。

必ず連れ戻すと売った時の倍以上の金を稼ぎひたすら娘を探していた。

そして漸く見つけた時には兄と名乗るものとともにおり、父親はいないと言う。

それ程までに幼い娘にした仕打ちが酷かったのだ。

「…リュカ…」

男の寂しげな声を残し、周囲はまたいつもの風景に戻っていった…。


「レイル!!」

「うを!?何だよ急に!?」

バンッ!と勢いよくレイルの研究室という名の勉強部屋の扉が蹴破られた。

少し離れた机ではマールとエクシャも作業の手を止め、驚いた表情で飛び込んできたシンを見る。

「お前、シュンの事どれだけ知っている!?」

「は?どれだけって…?どうした?」

「あいつの親は!?本当の家族の事だ!!」

机を挟み鬼気迫る勢いで身を乗り出すシンに、ただ事ではない事を悟り、レイルに一から説明を求められたシンは、町での出来事を話した。

シュンの様子がおかしかった事、父親と名乗る男の事、男に怯えていた事を言葉荒く話すが、流石に頭の回転が早いだけはあり説明は完璧だ。

レイルはシンの話を聞いた後、頭を抱え少し戸惑ったように口を開いた。

「…言ってなかったな」

「…なんだ?」

「あいつは…シュンは記憶喪失なんだ」

「…は?」

出会った時にはすでに記憶が無く、酷い怪我や自力で立てないほど衰弱していた事を話した。

そして、先程のシンの話から男は“金を返す”と言っていたと言う。

その話からして、シュンは奴隷に売られ碌な扱いをされていなかったのだと推測できる。

死にかけた結果、自身の心を守るために記憶を失ったのではと考えた。

レイルの推測を耳にし、シンだけでなくマールとエクシャも言葉を失った。

普段の行いから到底そんな過去があるとは思えないからだ。

前向きで悩みなんて無いかのように振る舞い、楽しい事が大好きでいつも皆の事を考えている。

何か困ってないか、不便は無いか、欲しいものは?やりたい事は?やって欲しい事は?

一々口には出さないが態度がそう言っている。

そしてそれをいつも楽しそうに鼻歌交じりにやってのけるのだ。

まるでそれが当たり前かのように。

「…あんなんで分かるかよっ」

記憶喪失なんて誰が思うだろう。

直接聞いていたレイルでさえ、普段のシュンのあっけらかんとした態度のせいで忘れていたくらいなのだから。

「……もし」

これまで黙って聞いていたエクシャが俯き絞り出すように言葉を紡ぐ。

三人は、エクシャの様子から嫌な予感しかしなかった。

「もし…記憶が戻ったら、やはり父親の所へ行くのでしょうか?」

「!!」

シンの話では男は…父親は後悔している様だ。

シュンの記憶が戻り、父親が誠心誠意謝罪すればシュンの事だから直ぐに許してしまうだろう。

ともなればここから出て行くのも容易に想像できるというもの。

ここへ来て、シンの覚えていない夢のせいで生まれた不安が現実味を帯びてきた。

(シュンが、居なくなる)

なぜか、決してそうなってはいけない気がした。

“今”が無くなる気がしたのだ。

「…シン」

「!?」

レイルの声にビクリと肩が揺れた。

「町から戻ってからシュンはどうしてる?」

「…あ、あぁ…部屋に閉じこもってる。考えたい事があるって…」

それはもしや、記憶が戻った、或いは記憶が戻りかけているのではと全員がハッと顔を見合わせた。

居ても立っても居られず、シンはシュンの部屋へと急ぎ向かった。

他の三人もその後を追う。



「うぅー…まさかリュカのお父さんとエンカウントするとはっ」

廃城に戻ってから、考え事があると自室に篭ったシュンではあるがまだ少し混乱気味である。

見たことのある町だと思ったのはリュカの記憶だった。

心の奥が“怖い”と叫んだのもリュカの記憶。

父親に体罰を受けたのを思い出してしまい、体が拒否反応を起こしたのだ。

(絶対シンに変に思われたよ〜!私自身はなんとも無いけど、深層心理って言うのかな?体が嫌って言うんだよね…あれ?普通は心が嫌がるのか?どっちだっけ?)

シュンとしては父親と名乗る男が現れたとしても別段どうでもいい。

あの男の所へ行くつもりは毛頭無いのだから。

土下座されたって断る。

何せシュンには何の愛着も無いのだから。

リュカ自身も体が拒否反応を起こすくらいだから嫌に決まっている。

それをシンになんて説明するべきなのか、そこが悩みどころだ。

親子の再会がどうでも良いなんて薄情だと思うだろうか。

「…うー…困った…」

何ならいっそ、中身は別人だと話すか?

いやいや、頭がおかしくなったって思われるぞ。

バンっ!!

「シュン!」

「うぇ!?」

あーでもないこーでもないと知恵を絞っていると突如開かれた部屋の扉。

シンがレイル達まで引き連れてやってきたのだ。

「ど、どどどうしたの!?」

「お前記憶が戻ったのか!?」

「!?」(そう言えばそういう設定だった!!)

シンの第一声にレイルに話した記憶喪失設定を思い出した。

いやしかし、シン達には話していない。

ならレイルが話したのだろう。

本人も忘れていた設定をよく覚えていたな、とレイルを見れば、何を勘違いしたのか

「すまん。みんなに話した」

と謝られた。

「え、いや別に隠してた訳じゃないからいいけど。寧ろ普通に生活し過ぎて忘れてたし」

「…忘れてたって…」

「それだけみんなとの生活が楽しいんだよ」

そう言えばなぜかみんなホッとした表情になった。

「シンに町での話を聞いた。父親とあったんだって?」

「ー」

“そんな人知らない”と即答できなかった。

知っているのだ。

自分ではなくリュカが。

それを知らない人だと言っていいのか、迷ったのだ。

「…うーん…多分?」

父親とは思えないが知らない人間ではない。

曖昧な返答をすると、シンの眉間にこれでもかと皺が寄った。

「お前、やっぱり記憶が…」

戻ったのか、とは続けられなかった。

もしそれを肯定されてしまった時のことを考えると言えなかった。

その後の話を聞きたくなくて、シンは部屋を出た。

ただの幼い妹のような存在で、それ以上でも以下でもないのだが、随分と依存してしまっている事にシン自身驚いた。

もうこれ以上“家族”を失うのがただ怖かった。

「シン、どうしたんだろ?」

「…シュン、記憶はどうだ?父親と会って何か思い出したのか?」

「………」

正直、記憶喪失設定が面倒になってきていたシュンは逡巡して、一部真実を話す事にした。

「…レイル…ごめんなさい」

「?…どした?」

「みんなも、ごめんなさい」

「?」

突然の謝罪に一様に疑問符を浮かべる一同。

「私、記憶喪失って嘘なんだ」

「…嘘?」

「嘘でも吐かないとレイルに追い出されると思ったから、嘘ついたの。記憶喪失でも何でもないんだ」

いつもの様に何でもないことの様にあっけらかんと言ってのける姿は、いつものシュンだ。

「…じゃあ、本当に父親なのか?」

「うん、そう。名前も恰好も変えれば直ぐには気付かれないと思ったのに甘かったね」

「じゃぁ……帰るのか?」

「?もう帰ってきてるけど?」

「……」

父親と暮らさないのか、と尋ねたつもりだが、その一言でシュンにその気はない事が分かり再び安堵する。

「私はもうリュカじゃなくてシュンだよ。あのおじさんはシュンとは何の関わりもない人。私の家族はみんなだから」

そう言って笑って見せれば、不安な空気は一瞬で霧散された。

レイルからは

「そうか、まんまと騙されたのか俺は」

と言葉とは裏腹に実に嬉しそうにぐしゃぐしゃに髪をかき交ぜられた。

「ごめんなさいっ!だって頼れる人居なくって!」

「あぁ、そうかよ!」

更に髪をぐしゃぐしゃっと交ぜた後、ひょいっと軽々シュンを抱き上げ

「俺を頼ってくれてありがとうな」

と抱きしめられた。

「!!まぁ、私って人を見る目、きっとあると思ってるから!」

小さな手で抱き返すと「きっとかよ!」と反論が返ってきたがそれもどこか嬉しそうであった。

「良かった…。出て行くと言い出すのではと思っていたので…」

「漸く手に入れた安住の地なんだ。俺たちを引き入れといてどこかへ行くのはなしだからな」

「分かってるよ。そんなつもりはない」

しかし、このままという訳にもいかない。

あの父親にはちゃんと別れを告げなくてはならない。

再会できて本当に喜んでいるようだった。

ならばしっかりと別れも告げるべきである。

リュカは死んだのだ、と。

(いや、実際死んだかどうかは分からないけどね)

レイルに下ろしてもらい、一先ずシンにも今した話をする事にした。

あの表情から何か勘違いをしているやもしれないから。

「あいつここ最近様子がおかしかっただろ?今日は特に何かに怯えてるように見える」

「うーん…聞けたらそれも聞いておくよ」

様子がおかしいのは知っていたし、シュンが聞いても答えては貰えなかったから今回も話してくれるとは限らないが。

シュン自身は先程まで悩んでいた事が解決してスッキリしている為、幾分冷静だ。

いつもの調子で隣のシンの部屋を訪れるとソファに腰掛け、俯いていた。

その隣に遠慮なく腰掛けピトっとくっついた。

「シン、初めに言っとく」

そう前置きすればピクリと僅かに肩が揺れた。

「私の家はここだし、みんなのいる所だから。出て行くつもりは無いからね」

ハッキリとした声で言ってのけた言葉に、シンは漸く顔を上げた。

「父親と暮らさないのか?」

「散々殴る蹴るしてきた人と一緒に暮らせると思う?やだよそんなの」

「記憶…」

「あぁ、記憶喪失はレイルを騙して家に置いてもらう為の嘘だよ。元々記憶喪失じゃないの。ごめんね。紛らわしいことしちゃって」

本当に謝る気があるのかと言わんばかりの飄々とした物言いに、先程までシュンが居なくなるのではという絶望感を味わっていたシンは幾分冷静さを取り戻した。

「あの町のことはすっかり忘れていたんだよ。振り返らずに前だけ見てれば思い出さずに済むし。だから、今日は自分でも驚いた。父親の姿を見ただけで怖くなるなんて」

本当に驚いた。

頭は冷静なのに体は怯えていた事に。

シュンとして体験したわけでは無く、他人事で第三者の様な記憶なのだが、それだけリュカの味わった恐怖は尋常では無かったのだろう。

「だから、シンが一緒に居てくれて良かったよ。ありがとう」

「!…いや、俺はただ自分の不安を消したかっただけなんだ」

「不安?」

ここ最近シュンを一人にしたくないと言う思いがあったのだとシンは話した。

内容をまるで覚えていない夢が原因で、不安になっていたのだと。

「覚えてないのに?」

「あぁ、おかしいだろ?全然覚えてないんだ。ただ他のみんなは居るのにシュンだけ居なかった様なそんな気がして…な。そこへ来て今日の出来事だ。お前が本当に居なくなるんじゃないかって、本気でおも……………何ニヤニヤしてんだよ」

「いやぁ、シンは随分とシスコンになったなぁとっいだい!いだい!いだい!」

突如がっしりと頬を抓り上げられ、シュンは最後まで言葉を紡ぐことができずに代わりに痛みを訴えシンの腕をバシバシと叩いた。

そこは力の差が歴然の為ビクともしない。

「おっと手が滑った」

思いっきりビッ!と引っ張る様に手を離すと、更なる痛みがシュンの頬を襲い今日一番の雄叫びを上げるのであった。

「酷いっ!」

「誰がシスコンだ」

いや、誰がどう見ても立派なシスコンだ、と思ったがまた抓られるとたまったものではないと口を閉じるシュンであった。

「でもまぁ、少なからずとも必要と思ってくれてるのは嬉しいよ。シンは…」

「?」

「…時々どこか遠くを見てる時があるから、シンの方がそのうちどこか行きそうだなぁって思ってる」

「俺が?」

「うん、そう。逆にさ、私だけを置いて行く夢だったんじゃない?要らないとか必要ないとか、巻き込みたくないとかもあるかな。シンのやりたい事に私は必要無かったのかも」

「…」

シュンは大体の予想がつく。

それは多分、復讐に関係あるのだろうと。

シンの復讐にシュンは必要ない。

(だって私は、止める側の人間だから…。シンもそれを何処と無く分かってるんだろうな…)

「まぁ、何はともあれ、シンの最近の行動の原因も分かったし、私はここを出て行く事は無いし取り敢えず今はこれで良しという事で!」

「…本当だな?出ていかないんだな?」

「出て行って欲しいならそう言って。ここは私のお金で買ったんだから逆に追い出してあげる」

「………それもそうだな」

むしろ追い出される可能性が出てきてヒヤリと背筋が寒くなったシンであった。


(シュンを要らないと思う日が、来るのか?いや、復讐の事を考えれば…っ…)

ドキリとした。

これだ、と思った。

シュンを自分から引き離す時が来るとすれば、それは自分が国を敵に回す日だ。

一国を敵に回せばタダでは済まされないのは火を見るより明らかだ。

その時はきっと、有無を言わさずシュンを突き放すだろう。

しかし、とシンは思った。

このクソ生意気なガキがハイそうですかと離れて行くだろうか?いや、寧ろやり返される未来がありありと思い描ける。

(…少なくともシュンより絶対的な力を得る必要があるな、コレ…)

シュンを突き放す未来が来たとしても、それは簡単には行かない、なによりも苦労しそうだなと遠い目で未来の自分にシンはエールを送った…。


「シン、明日またあの町に一緒に行ってよ」

未来の自分に思いを馳せていると、いつもは見せない真剣な表情でシュンが見ていた。

「行く必要があるのか?」

できればもうあの男とは関わりを持って欲しくは無いと言うのが正直な所ではあるが、シュンがこのまま放置しておくわけがない事は分かっていた。

「うん。あの人とは暮らさないってちゃんと言ってあげなきゃ。これ以上期待させないように、せめて…ね」

親にとっては死の宣告よりも辛いその優しさが、せめてもの親孝行なのだ。

それを最後にあの町には二度と行かない。

「分かった」(…もしもの時は……)



殺したって俺は構わないんだ…。










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