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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「お前が、闇の魔法使いか!?」

「……」

闇の魔法使いと呼ばれた男は全身を黒いローブに身を包み、表情もフードにすっぽりと隠され読み取ることができない。

だが、少年の問いに一つ頷いたため、言葉は必要ではなかった。

「俺の両親の敵!今ここで討たせてもらう!!」

少年が剣を抜き構える。

「させません!」

背後より響いた女の声は、先程自分が倒したはずの女で、満身創痍といった様子で今なお立ちはだかろうとする。

女が片手を上げると魔法陣が宙に浮かび、魔物が出てきた。

いつもならば多数の魔法陣により沢山の魔物を呼び寄せることができるのだが、先の戦いで、魔力はもう殆ど残っていない。

少年が魔物と対峙している間に女は闇の魔法使いへと駆け寄る。

「どうか逃げてくださいっ!お願いします!」

「逃がさないぞ!!」

女は必死で懇願するが、闇の魔法使いはするりとその女の頬を一つ撫でた。

「…すまない」

少年には聞こえなかったその言葉の意味を、女は理解した。

いや、初めから分かっていたのだ。

だから止めようとした。

あの少年と仲間たちを。

しかし、こちらが何を言っても何をしても、闇の魔法使いの仲間達を殺し、止まらずにここまでやってきた。

もう一つ、もしかしたら少年を止める事が出来るかもしれない言葉がある。

だが、主人の闇の魔法使いはそれを望んでいない。

寧ろ、殺される事を望んでいるのだ。

「…なぜ…こんなことに…」

女は確かに幸せであった。

奴隷としての人生の方が長かったが、闇の魔法使いに兄共々助けられ自由になり、心より仕えたいと思った初めての人に仕えられ、本当に幸せだと思った。

主人が死を望んでいると知るまでは。


魔物を倒した少年が闇の魔法使いへと向き直る。

次はお前だ、と剣を向けた。

女が立ち塞がろうとするが、闇の魔法使いの魔法により結界に保護され身動きが取れなくなってしまった。

「…アスベルだったか」

「あぁ、そうだ。闇の魔法使いシン!」

「…来い」

「言われなくとも!!うおぉぉぉ!!」

少年アスベルと闇の魔法使いシンの剣と魔法が激しくぶつかり合う。

アスベルはシンを倒す為に一撃一撃に力を込めるが、シンはその力を確かめるように魔法で受け流す。

「どうした!打ってこい!」

防御に徹するシンに何かあるのかと警戒するアスベル。

「ならば、遠慮なく」

ノーモーションで突如連弾された黒い火の玉は追跡機能でも付いているかのごとく、アスベルを追いかけ回した。

それを避けたり、剣で壁へとはじき飛ばしたりと全てを躱した後、再びシンへと突撃した。

(強くなったな…)

シンはアスベルの攻撃を防ぎ、時折攻撃を見舞いそれでも負けまいと立ち上がるアスベルをフードの奥で眩しそうに目を細め見ている事をアスベルは知らない。

自分の知るアスベルは幼く弱く慈愛に満ちていて、誰からも愛されていた。

その愛は周りから疎まれていた自分にも注がれ、それが唯一の心の拠り所であった。

(あぁ、最後にお前に会えて良かった)

シンはアスベルの剣を防ぎ、バックステップで距離を取る。

それを追いかけアスベルは突進した。

「…もう、いいか…」

「…は?」

ドスッと剣はシンの腹に突き刺さり、一瞬アスベルを抱き締めると、強く押し返し剣を抜かせた。

「なっ!?なんでっ!!?」

今のは簡単に防ぐ事が出来ただろう、と目を丸くするアスベルの前にシンは膝をついた。

ぼたぼたとおびただしい量の血溜まりを作っていく。

「シン様ぁ!!」

シンがやられた事により結界が解けて、女が飛び出した。

「シン様!シン様っ!!」

結界に阻まれていた声が響く。

「…エクシャ、すまないな」

「謝らないでください!」

傷口を押さえようとするが血は止まらない。

回復魔法を施す事もしない所を見ると、死ぬつもりなのは変わらないらしい。

「なんで避けなかった!」

お前なら出来ただろう、と叫ぶアスベルにシンは

「もう満足だ」

とそれだけを返した。

「満足って…なんだよそれ!!」

血が止まる気配は無く、膝をついていたシンはぐらりと傾く。

女、エクシャはそれを咄嗟に支え、自分の膝を枕にする事でシンの体を横たえた。

パサリとフードが落ちた。

「っ!!?」

初めてシンの顔を見たアスベルの表情が凍りついた。

顔の左を覆うようにできた大きな痣は、賢く優秀であった大好きな兄を連想させたからだ。

しかし幼い頃、兄は初めての魔物退治の際に、子供の暗殺者に殺されたのだと聞かされていた。

しかし、目の前の男は痣も自分と同じ黒い髪も黒い目もそっくりである。

「…シンベル・リーディング」

「!?」

エクシャの声にびくりとアスベルの肩が震えた。

「貴方が殺した男の名を一生その胸に刻み続けなさい」

「!じゃぁ、本当に…兄さん…?」

「…エクシャ…もういい」

「いいえ。ダメです。シン様は両親に暗殺されかけ、何年も命を狙われ続けました。だから殺したのです。ただ顔に痣があるからという理由だけで」

「う…嘘だ!そんな!!」

「嘘では無いわ。本当のシン様はお優しい方よ。奴隷である私を人間にしてくれた。そして貴方の望む敵討ちをさせてくれたでしょう?シン様は愛する弟を初めから殺すつもりなんてなかったのですから」

エクシャの声にアスベルは雷に撃たれたかのような衝撃を受け、固まってしまった。

それでもエクシャはやめない。

「これは私からの最後の呪い…。こちらの声に耳を傾けず最後までシン様を悪とした身勝手な敵討ちを死ぬまで後悔すると良いわ」

それはそれは綺麗にエクシャは微笑んだ。

ガラリ、突如天井が崩壊し始めた。

元々ボロボロであった廃城は、アスベルとシンの戦いで致命的なダメージを受けたらしく崩壊を始めてしまった。

「!」

間一髪でアスベルは瓦礫を避けるが、シンとの間に壁ができてしまった。

まだ聞きたい事があるのに、と壁と化した瓦礫を迂回しようとするが更に雨の様に瓦礫は降り注ぐ。

「シンっ!……っ…に、兄さん!!」

隙間から二人の姿を確認するが、直ぐにその隙間も埋まってしまった。

崩壊は急速に進みアスベルは二人を断念し、脱出しようと歯を食いしばり走り出した。


「…申し訳ございません…シン様。余計なことを喋りました」

「…もういい。お前も行け」

「それは聞けないご命令です」

魔物の力を借りればエクシャだけでも助かるだろうと思ったのだが、肝心のエクシャは動く気配はない。

「私は幸せ者です」

「?」

「私はこうしてシン様と、文字通り死ぬまでご一緒できるのですから」

レイルもマールもニノもそうはいかなかった。

三人とも酷い死を遂げてしまった。

「ふふ、地獄できっと羨ましがられてしまいますね」

「…そうか…」

動く事もままならない腕を何とか持ち上げ、シンはそっとエクシャの頬を撫でた。

「…俺の方が幸せものだ…」


捨てられた自分を拾い育て、魔法を与えてくれたレイル


時には兄の様に戒め、自分を理解してくれたマール


良い事も悪い事も、友の様に接してくれたニノ


そして、いつでも惜しみ無い愛を注いでくれたエクシャ


あぁ、幸せだったのだ。

復讐さえしなければ、今もまだ幸せだったに違いない。

この復讐心さえ消してしまえていれば……。
















「シン、新作のチョコレート作ったよ!」



「…?」

遠くでシュンの声がした。

しかし辺りは暗くまだ夜中なのだと分かる。

(夢?)

鼓動が早く、何か焦りにも似た感覚の辛い夢を見たような気がしたが内容がまるで思い出せない。

(…よくある事だ)

寝直そうと毛布を被り直すが中々寝付く事が出来ない。

密閉魔法と冷却魔法がかかった箱を開けると冷たい水が入っている。

これもシュンの考えた魔法だ。

夏でもよく冷えた水を口にできるのは実に画期的だ。

更に密閉魔法で食材も長期保存可能ときている。

(次から次へとよく思いつく)

ふと目が覚める直前に聞こえたシュンの声を思い出した。

新しい味のチョコレートを作ると必ず一番はじめにシンの元へとやってくる。

それはたんにシンが一番チョコレートを好きだからなのだが、できた時の犬の様に褒めてくれと言わんばかりの仕草は思わず笑いを誘う。

シュン自身は、チョコレートが嬉しくてシンは笑っていると思っているのだが。

なぜかシュンの事が無性に気になり、部屋を出るとすぐ側のシュンの部屋へと向かった。

当然だがみんな寝静まり辺りは暗い為、光の魔法で足下を照らしている。

ゆっくりとドアノブを回せばいとも簡単にかちゃりと何の抵抗もなく扉は開いた。

「…シュン?」

当然部屋は暗く、返事は無い。

お姫様の様だと喜んでいた天蓋付きのベッドへとゆっくり進む。

「シュン?」

ベッドは膨らみ僅かに上下に動いているのが確認でき、毛布をすっぽりと被っているせいで顔は見えないが枕に髪が無造作に散らばっている。

そっと毛布を僅かにずらせばあどけない寝顔が現れた。

「む〜…」

止めろと再び毛布で顔を隠してしまった。

(良かった)

ただ突然不安になったのだ。

内容は全く覚えていないが、夢のせいなのは確かで、なぜかシュンが居なくなるのではと漠然と思ってしまったのだ。

一先ず存在を確認した為、自室に戻ると安心感からどっと眠気がやってきた。

(利用できるから利用しようと考えていたはずなのにな…)

ばたりとベッドへと倒れこみ目を閉じる。

以前なら誰かに狙われたりするんじゃないかとか、誰かと一緒の時でも裏切られる恐怖もあり、ゆっくりと眠る事などできなかった。

(…誰かの側が居心地良く感じる日が来るなんて…)

幼くもしっかりとした同居人のコロコロと変わる表情を思い出しながら、シンはゆっくりと眠りについたのだった。


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