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46 グランザースの滅亡8



 王都で最も巨大な建造物である王宮だが、それでも塔に匹敵する身の丈があるディープフォレストジャイアントが中で活動する様には出来ていない。

 と言うか人間の為の建物なので、当たり前の話である。


 手の中の僕を庇いながら、バキバキと天井を突き破って立ち上がるケトー。

 大きく身を揺すり、足を動かせば、それだけでどんどん王宮が崩れて行く。

 こんな状況になってしまえば、もう戦いどころの話ではない。

 ザックイハはまともに戦えばケトーよりも強いのだろうが、崩れ落ちる王宮の天井や壁は、ザックイハにのみ脅威となった。

 本当だったらこんな手は危険過ぎて到底使えないのだが、残念な事に王宮に居た人間は、ザックイハの手によって皆殺しにされている。

 恐らくザックイハとしては邪魔者無しに僕を狩ろうと思ったのだろうが、寧ろその事が僕に選べる選択肢を与える形となったのだ。


「ケトー、上に!」

 天井を突き抜けたケトーは頷いて、周囲を崩しながらも僕を空に向かって放る。

 僕はその瞬間にケトーを送還し、夜の大空を舞う。

 実に怖いし、風圧も凄い。

 無策で落ちれば、間違いなく僕は死ぬ。

 だけどだからこそ、どんな手を使おうともザックイハは今の僕には追いつけなかった。


 戦いには負けた。

 今の僕じゃ、あの魔族の暗殺者には余程の幸運が味方せねば勝てないだろう。

 しかし次もそうであるとは限らない。

 生きたままに逃げ延び、紋様魔法の効果を詳しく調べ上げ、幻を纏う魔技に対してもだが、対策と効果的な魔術を編み出したなら、次は僕が勝つ筈だ。

 故にザックイハはギリギリまで切り札である風の紋様魔法は使わずに隠していたし、使った後は確実に僕を消しに来てた。

 そう、彼もやはり、その辺りはキュービス家と同じ性質の暗殺者である。


 命を失わず、魔王の欠片もこの手に在り、更に敵の情報も仕入れたのだから、今は胸を張って逃げるとしよう。

 僕は中空を飛びながら、落下を始める前に転移魔術の詠唱を完成させて、上昇が止まった瞬間に、王都で拠点として寝泊まりしていた宿まで転移した。



 そしてすぐさま僕は大急ぎで部屋を飛び出て、驚いた顔で起き出して来た宿の主人に、急ぎ国を離れる事と、出来れば宿の主人にも東のヴァーミス公国に向かって避難する事を勧めると、大急ぎで再び転移魔術を完成させる。

 僕を逃がした衝撃は大きいだろうが、崩れ落ちる王宮から逃げ延び、我に返ればザックイハは必ず追って来る筈だ。

 まあ転移魔術に追い付ける筈は無いのだが、でもそれでも万一の事を考えて、早目にこの国は離れなければならない。


 例えザックイハが転移魔術を使える他の魔族と合流しても、魔の森へと入ってしまえば確実に逃げ切る自信が僕にはあった。

 ……と言うよりも、流石に魔の森に付いたら、クオンを呼び出して手紙を託して、爺ちゃんに迎えに来てもらおうと思う。

 正直な所、あまり長い時間は魔王の欠片を持ち歩いていたくない。

 奪われる危険性よりも、欠片の発する妙な雰囲気に影響を受けたくないと言うのが本音である。



 さて今回の戦いで、僕の存在は魔族に伝わってしまう。

 前回戦った魔族、名前も知らない呪われた魔族は、溶けた上にケトーに殴られて死んだ。

 だから僕の存在は、多分魔族にとっては計算に入っていなかった。

 けれども今回の僕はザックイハと戦って、互いに生き延びている。

 であるならば、間違いなくザックイハは僕の事を仲間の魔族に話すだろう。


 それは実に厄介な話だった。

 勿論僕の事を聞いた上で、魔族達が取るに足りない相手だと鼻で笑う可能性だって大いにある。

 一人目の印象が強いから、僕の魔族のイメージはそんな感じだ。

 でもザックイハ程の実力者の話ならば、他の魔族が耳を傾けるかも知れない。

 だとしたら僕も、或いは爺ちゃんと共に、魔族との戦いに加わるのだろうか。


 なんて事を考えながら、僕は口に魔力回復薬を放り込み、転移を繰り返してグランザースを抜けた。

 途中で軍を見掛けたが、あれはグランザースの軍隊ではなく、ダーライゼ国の軍隊だ。

 どうやら南の戦線は既に決着がついたらしい。

 他がどうなのかはわからないけれども、ダーライゼが王都ミューレに一番乗りを果たす可能性はそれなりに高そうである。

 まあダーライゼが一番乗りなら、最善ではないにしても、大分と王都の民の扱いはマシになるだろう。

 少なくとも略奪の末に皆殺しって結末は無さそうだ。


 僕は休む事無くダーライゼを、そしてクルシュとワーリミア王国も抜けて魔の森に入る。

 そしてエルフの村から爺ちゃんに連絡を送って、一週間を超えた僕の戦いは漸く終わった。


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