6 LEVEL1-6
行っちゃった。行っちゃったよ。
エルナは、去っていくウォンを広がるステータスカードのゴミの山の傍らから見送った。
そして、自分のステータスカードをもう一度見る。
「レベル・・・1ってなんで?」
確かにエルナのカードにはレベル1と書かれていた。
急いで、自分のカードと落ちているカードを見比べた。どれも、エルナと同じようなステータスばかりだった。
「これって、ただたんに職業を変えようとしたからこうなったんじゃ・・・」
その時、先ほどの受付にある兄弟らしき二人がやって来た。どちらも成人らしく1~2歳ほどくらいの違いだろうか?
すると、弟の方が受付のおっさんに話かけた。
「しょ、職業変えたいんですけど!」
「あーはいはい。今の職業は何かな?」
弟は自分のステータスカードを男に見せた。
「なるほどなるほど、冒険者でレベルは57か。運がけっこう高いね、商人でもなりたいの?」
「そう!兄さんと職業チェンジしたいんだ」
「ほほー、という事はお兄さんは冒険者に?」
男は背の高い兄の方にそう聞くと、兄の方は笑顔でコクリと頷いた。
エルナは3人の会話をカードの山から涙目で眺める。
「そんじゃ変えるから、こっちのカードに手続きをして」
弟はそれを聞くと、男から渡されたカードに血を2、3滴垂らした。
すると、隣にあった、職業証明のカードに書いてあった職業とステータスが消えた。
「なんだ。職業を変えると全部リセットなんだ。よかったー」
そんな事を言っていたのも束の間。カードに新たな職業が記載され、レベルもそのまま、ステータスは少し変わったが、大きな変化はなかった。
弟はそのカードを見ると、かなり喜んだご様子で、兄の方とバトンタッチした。
「あれ・・・お、おかしいなー。これって本当に・・・やばいんじゃ・・・」
エルナは自分のカードを見た。気が付くと、手はプルプルと震えていて自分でも止められないほどでステータスが見えない。
「お兄さんの方は、商人でレベルの方は少し低いが、まぁ十分戦えるだろう」
男は兄のステータスカードを見た。
そして、弟と同じように職業を変え、兄弟そろってハイタッチすると役所から出て行った。
そして、受付の出っ張った机には二つのカードが置いてあった。
「ダメ。本当にレベル1になっちゃたんだ・・・なんでこんな事になっちゃんたんだろう・・・」
エルナは山から立ち上がると、散らばっているカードをゴミ箱に入れ、自分のカードを手に持ち近くの長椅子に座った。
そういえば、自分がここいる理由が何だっけ?あ、そうだ。あれだった。
エルナは椅子から立ち上がると、役所から出て行こうとしたその時、誰か体のでかい男にぶつかってしまった。
「あ、すいません。私よそ見しちゃって・・・って、え?なんで・・・ここに・・・」
「なんでって、俺が聞きたいですよ。さぁ、隊長帰りますよ」
エルナの前に立っていたのは、以前ここに来る前に魔王を討伐しようと一緒に戦った戦友・・・だった人。
名前は、クルス・ザックレーで、討伐隊の副隊長をしていた者だ。
「クルス・・・ごめん帰れないわ。私、もうあなた達と戦えないわ」
「どうしてですか!あなたがいれば、100人・・・いえ1000人力ですよ!」
クルスは、大声でそう訴えるが、エルナは頭を下げて謝る。
そして、エルナはそーっと横を通り過ぎようとするが、クルスはそれを止めた。
「これは俺の諸事情ですが、もう一つあなたを連れて帰らなければなりません」
クルスはそう言うと、指を鳴らした。すると、どこからともなく、兵士が集まって来た。
そして、クルスは張り紙をエルナに見せた。
「これは・・・」
「そうです。あなたが消えて4日間。まさかこんな場所にいるなんて。しかも、そんな村人のような服装。どうしたんですか!?」
また、村人だなんて。今日で二回目だ。
エルナはカードに記載されている可能職業を見た。村人 冒険者 商人 龍使い 拳闘士。どれも、今の自分には似合わない職業だ。いや、いっそこれの方が良いのだろうか?
「クルス・・・ごめんね。私、その職業疲れちゃったの」
「どういう事ですか!今までのあなたはどこに消えたのですか!いつもドラゴンを倒す時のあの狂った顔のあなたはどこに去ったのですか!」
今の最後の言葉に、強い抵抗を示したいが、今に至ってはもうどうでもいいや。
エルナはクルスの手を握ると、ニコッと優しく笑った。
「これからはあなたが討伐隊隊長よ。頑張ってね」
そして、エルナは受付へ歩を進めた。
だが、それをあっさり認めるほどクルスと言う男は腐っていなかったようだ。
クルスは歩いて行くエルナに向かって悔しそうに言った。
「何があなたをここまで変えてしまったのですか?俺は信じられません。あなたのような人がどうしてこんな辺ぴな場所にいるんですか!?我らに知らせず!」
「え?」
「いつかあなたは言いました。あなたと同じレベルになれば、交際してくれると!」
あれ?そんなこと言ったっけ?この男、興奮してるからない事も記憶に作っちゃってるんじゃないでしょうね・・・。
エルナはクルスの言葉を無視し、受付にカードを見せる。
「それじゃぁ、私、村人に職業変えますね」
「エルナ様!しっかりしてください!村人なんてあなたらしくない!」
あなたらしくないなんて、あなたが決める事じゃないはずだけど。
クルスは突然、エルナに渡されたもう一枚のカードを取り上げ、破り捨ててしまった。
「お兄ちゃん!それで今日の分は終わりなんだよ!なんてことをしてくれるんだ!」
「黙れジジイ!今はあんたよりこっちの方が大事なんだよ!」
クルスは、エルナの肩を両手で掴む、睨みつけた。
他の兵士も、帰りましょうとエルナに視線を強く送る。
もう駄目だ。終わった。これでばれてしまう!と思ったその時、目の前に見知った人物が前を通り過ぎた。
その人物は、こちらの騒動を分かったうえで、目が一瞬あったがすぐに無視し掲示板に向かっていく。
「あの人です!」
エルナは、このタイミングとばかりにその人物に指指す。
「あぁ?」
振り返ったその人物は、ウォンだった。
嫌そうなその顔は、今すぐに切りかかって来そうな目をしていた。要は面倒事に巻き込むなと言いたいのだろう。
エルナはクルスの手を肩から無理やり剥がすとウォンまで走って行った。
「私、この人と交際します。付き合います!」
エルナは、広間全体に聞こえる大きな声でそう叫んだ。
「ぶち殺すぞ!このクソ姫君がぁ!」
ウォンの声もそうとう大きな声で広間に広がった。