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冒険者へ LV.1から始まるファンタジー  作者: 森林樹木
ランクF  Cave of origin(原点の洞窟)
22/32

21  MEMORY

物語は、回想から始まる・・・

小さい頃、読んだ絵本の話だ。

 悪い奴は、強い奴にやっつけられ、殺される。


 内容は、そんな安直な感じなのに、それを読んだ頃の俺は、それに何とも言えない嫌感が刺した。

 まるで、弱い奴は悪い奴の様に言ってるようで嫌いだった。


 そして、そんな風に感じた俺は望んでしまったのだろう。

『弱い奴が強い奴に殺される運命なんて、まるで強い奴が悪者みたいじゃないか。それなら僕は弱いままでいいや』



 弱い奴は、この家に要らない。

そもそも、それが我が家の方針だった。


 だからだろうか、あの家には「感動するような話」や「勇者が活躍するような話」もなかったのは。


『そんな物は、幻想だ。お前が見るべきなのは、現実だ。夢じゃない。』

 これが親の口癖。

 これがまだ父親だけだったらよかった。


 せめて、自分の捌け口がある場所さえあれば、俺はこうはならなかっただろうか・・・。

 違う。考えてみれば、家を出る前から俺はこんな思想になってしまったのだろう。


 人を信用したくなくなったから、家を出たんだ。

 じゃあ、母親に言えばよかったって?

 それが言えれば、良かった。

 だが、母はいない。俺が産まれた後に死んだんだ。


『お前は母さんを殺したも同然だ。なぜ、立派なあの二人を産んで、最後にこんな木偶の坊(でくのぼう)を・・・』

 父親にはこうも言われ、


『お前は、力もなければ、学力もない。ただの案山子(かかし)だ』

 二人の兄たちには、案山子呼ばわり。


 囮にも使えないとでも言いたかったのだろう。

 どちらにしろ、俺はあの家に必要とされていなかった。


 それだけは、事実で、俺にとっての真実だった。

 だから、俺も奴らを必要としなかった。


 家を出て、誰とも知らない奴らのパーティーに入ったのは、あの汚れた姓を知られたくなかったからだ。


 太陽が沈めば、貧民街に行き、そこで夜を明かす。

 あそこなら、さすがに誰も来ないと思ったからだ。


 案の定、貴族みたいな奴らは来ず、来るのは奴隷商の奴らばっかりだった。

 子供たちは必死に逃げていた。

 俺は、それを見ながら、いつか見た絵本を思い出していた。


「世間から見たら、こいつらが正義か・・・」


 貧民街は、世間からの風当たりも悪く、そもそも貧民街と口から出すだけで泥を投げつけられる始末だ。

 そんな奴らに生きる意味を与えるとか意味の分からんこと言っては、貧民街を狩場に顔の良い物は片っ端から連れ去った。


 兄弟や、家族もいたんだろうか、どちらにしろ連れて行かれたのは女ばっかりだった。

 せめてと、数を増やすようにと、笑いながら奴隷商の奴らは成人を過ぎた男女は狩らなかった。

 一部を除いては。


 俺は、そんな毎夜を過ごしながら、奴隷商が来ない日は目を閉じ、来る日は、そもそも行かない。

 来る日、来ない日を把握していたからこそできたことじゃないか?


 おれがそれを言えば、助かった人間は増えただろうか?、いや、あり得ないな。

 それくらい奴らもすぐに気づくだろう。

 来てもいない奴だからこそ、ばれなかったんだ。



 いつだっただろうか、奴らが来ない日に、ボケーと夕日を見ていた時に5歳に満たすが満たさんかの男のガキが話しかけてきたのは。


 そいつは、痩せこけて、今にも死にそうな状態なのに親の心配ばかりしやがっていた。

 誰とも知らない奴を助ける義理はないと言ったら、そのガキは、銀貨3枚を出してきた。


 かなり大事にしていたのだろう、その銀貨は手垢でいっぱいで汚かった。

 俺は、仕方なく持っていた、なけなしの食料と薬草を渡した。

 すると、次はやり方が分からないと、服を引っ張ってきた。


 やる事はないと、そのガキを追払うと、そいつは俺の腰からダガーを抜いた。

 脅しに掛るかと思いきや、自分の手の甲に傷を引きやがった。


 その傷のマークは『奴隷の刻印』だった。

 普通、奴隷商がガキを捕まえた時点で焼印を手の甲に押し焼き付ける。


 あんな奴らの景色を見てきたからだろう。

 そのガキの交渉の仕方はそれしか知らなかった。


 泣きながら、そのガキは俺に看病の仕方を聞いてきた。しかも、その代償は「俺への服従」だ。

 割りに合わな過ぎるその交渉に、俺は呆れた。


 仕方なしに、俺はそのガキの親もとへ向かった。

 そのガキの親は、一人しかいなかった。


 父親はいない。母親だけだ。

 母親は、まだ意識はあるものの、誰が来たのかさえ分からないようだった。


 あるのは、少量の食料と少量の水と少量の薬草。

 それなら、死にかけている人間より、今生きている人間の生存率を上げた方が先決だと思った。

 俺は、ガキに言ったが、ガキは一点張り「ママを助けて」「ママを助けて」だと。


 とりあえず俺は、食料を半分に割り、片方を水に溶いてガキの母親の口に流し込んだ。

 やり方の分からなった俺は、それしかできなかった。


 飢えのという物は、恐ろしいとその時初めて知った。

 俺は、後の半分をガキに渡した。


 ガキはそれを見ると、生きのいい食いっぷりを見せてくれたが、母子、どちらも腹は満たなかったようだ。


 貧民街の人間というは、そこまで飢えているのか。

 さすがに盗みをするのだろうが、ほとんどが失敗に終わるのだろう。行くのは子供ばっかりで、たまには大人も行くのだろうが子供の方が収益は良い。


 だが、それも大人に盗られ、傷だらけだ。しかも、それも持っていくのは男ばかり。

 その盗んだ金も、結局はいつか行きつくであろう賭博だ。


 一攫千金からの無一文。

 その腹いせはいつも子供か女が受ける。

 こうなるのも、仕方がないのと言えば、仕方がないのかも知られない。


 男は力的にも強い、力で劣る女も子供も殺される所まではいかないだろうが、金に向けての欲望というのは恐ろしいな。これが俺が昔読んだ絵本が言いいたかった事なのだろうと俺は思った。

 これが、現実だ・・・と。


「やっぱ、親父らが言ってたことこそが真実・・・なのか?」


 だが、現実という物はいろんな形で回っているらしく、このタイミングでそれは回って来た。

 父親が帰って来たのだ。しかも賭博に勝ったらしく、上気分で大量の銀貨の詰まった袋を持って。


 これならと、俺はガキの頭を撫で、その場を後にしようとしたんだ。

 だが・・・。


「んあ?なんだ、まだくたばってなかったか・・・ガキも死んでねーし、いや、売った方がまだ金になるかっ」


 そう言うと、父親らしき男は、クスリと笑い、家から出て行く。

 俺は、その光景をただ黙って見ていた。


それが現実だと、そのガキも分かっただろう、と俺は高を括っていた。


「マ・・・ママを見捨てないで・・・」


「なんだ?親に向かって・・・っておい、お前のその手。奴隷にされたのか?」


 父親は、それに気が付くとにやるとニヤリと笑った。

 次の瞬間、親が最も言ってはならない言葉。男はガキの頭を掴みこう言った。


「金は?」


「え?―――」


「売られたんだろ?逃げてきたんだろ?金を盗むくらい容易かっただろ?なあ!寄こせ!どこにある!?」


 ガキの両肩を掴むと大げさに揺らす。

 それは、自分のためのもので、決して他人のためのものではないと、顔から分かった。


 ガキは、ないと言うと、父親はガキの頬を殴り飛ばした。


 これは、父親の所業ではないと思った。


 その時に、俺はようやく気が付いた。

 俺が育ててもらったのは、父親ではないと。


 ただの他人の男が、自分の保身のために上っ面だけで駒を育てていたんだと。

 その駒というのが、俺だったんだと。


 結局俺は、「捨て駒」だった。


 いや、捨て駒でも使い道によっては捨てて役に立つことがある。

 俺は所詮、捨て駒にすら成り得なかった。


「こいつも使い物にならない。こんな皮だけじゃ、売妻(ばいた)にすら出せねーじゃねーか」


 おーおー言うなー。このおっさん。


 もはや自分のためなら、家族すら捨てようとするこの男は、この二人から見たらどのように映ったのだろうか。

 その時の俺は、そんな事ばかり考えていた。


 あの時の俺と同じように映っていたのか。


「そのお金で・・・ママを・・・助けて・・・」


 俺が看病するより、その金で良い物でも買ってやった方がいい。

 ただし、この男が良い奴だったらの話だが・・・。


「は?何で、俺がんな事しきゃなんねーんだ?自分の金は自分で稼げ!!!」


 それが世間の常識だ。

 自分の欲しい物があれば、自分の手で手に入れるのが道理だ。


 この貧民街では、それが強く当たる。

 都に憧れた子供が、都に来て自分と違う世界を見て、届かない夢を見ていたことに絶望する。


 都の子供は、大人から物を貰い成長する。

 貧民街の子供は、奪い奪われ成長する。


 その心がどのように成長するかはそいつ次第だろうが、大抵はどちらにしろその心の半分以上は汚く育つ。


 善意なんて、薄っぺらな物だ。

 破いてしまえば、自己満足のためにやっているに過ぎない。


 それか、悪意丸出しでやるかだ。

 こっちの方が、潔くてまだ清々しい。


 その悪意むき出しのこの男は、ガキを蹴飛b・・・



「ちょっと待って!!!話が見えないんだけど!!!結局、その子供はどうなったのよ?!」


「だから、最後まで話を聞けって」


「ウォンは、何が言いたいの?」


 エルナは、ウォンの話の意味を掴めていないのか、頭を傾げ、不機嫌な表情になる。

 それを見ながら、ウォンは言った。


「そのガキは・・・死んだ。つい最近だ。お前も見たはずだが」


 エルナは、その言葉にはっと思い出した。

 今、思い出しても、残酷だ。痛かったろうにと心が苦しくなる。

 グールの空腹という欲により殺された。欲望だ。


「じゃぁ、その子供の母親は大丈夫だったんだね」


「あぁ、その代り、父親が死んだがな。あいつもまさか誰かの欲望に殺されとは思わなかっただろう」


 そうだ、あの男は自分のガキを蹴飛ばし、殴り飛ばした挙句、周りの飢えた奴らに気付かれ、圧死。

 何十人という大人、子供に馬乗りにされ、手に持つ金を奪うために石で殴りつけられ、死んだんだ。


 考え直してみたら、あれは圧死と言うより、あれも一つの事故死なのかもな。

 殺され死んだのかもしれないが、生きるためにお金を奪おうとした。気が付いたら死んでいた。事故死だ。


 結果、その金でガキも母親も助かったのだ。

 死んで初めて家族に報いることが出来たんだ。褒めるべきであろう。


「まぁ、結局は。人ってのは欲望の上で生まれて死んでいくだけなんだよ」


「それで、私もいつか誰かの欲望に殺されると言いたいの?」


「お前がそう思いなら、それも正解かもな」


 そうだ、自己犠牲してまで人を助けようだなんて、あのガキみたいな事は俺にはできない。

 騙されて、気が付くんだ。


『自分のしてきた事は、無駄だって』


 ウォンは、宿屋から出ると、まっすぐ貧民街に向かった。


 相変わらず、飢えた人間ばかりだ。

 人は勝手に生きて、勝手に死んでいく。


 そう言えば最近、奴隷の競売みたいなのがやってたな。

 その内の何人が、ここに居たのだろうか。


「生きていく意味か・・・」


 生まれも育ちも正反対だから、悩むことも分からないんだな。

 小さい頃、思った言葉。


 『弱い奴が強い奴に殺される運命なんて、まるで強い奴が悪者みたいじゃないか。それなら僕は弱いままでいいや』


 俺は、今でもそれを言い続けることは出来るんだろうか。


 ウォンは、ふとそう思いながら、宿屋に戻った。


「出発は・・・今夜だ」


 夕日が彼を照らす。


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