19 LEVEL3-7
ここは・・・どこだ?
あの時とはまた違う感覚だ。
足もある。手もある。肌の感覚もある。
ウォンは自分の手のある方向に目線を向けた。
「少なくともここはあの世じゃないらしいな」
しかし、視界は闇で覆われていて結局はあの時の状況と変わらない。
パカッ!!
突然、真上が光で照らされた。
「スポット・・・ライト・・・?」
なぜ、口から聞き覚えのない言葉が出てきたかは定かではないが、どちらにしろここから動けば闇しかない。
ウォンはしばらくこのあの時に似た空間にある一つの光の下で滞在することにした。
時は少し遡って《さかのぼって》場所は大通りになる。
エルナはウォンをグールのいる危険地のその場に置いて行き、クルスを走り探していた。
「エルナ様!」
すぐ側からクルスの声が聞こえた。後ろを振り返ると、そこには、私腹を着た兵士とクルスの姿があった。
二人はあたかも、事の事情を知っているかのように、エルナが話そうとするのを無視し、事が起きた例の現場に3人で向かう。
「あのバカは自分から喰ってくれって言ってるもんだが、なぜ自分も逃げなかったんだ?・・・ったく、おいっ!シャルディックいるか?!」
ウォンからの返事はない。クルスは、未だ集まる人ごみに体を押し込み円の中心へと行く。
何とか、野次馬を押しのけ現場に来たが、ウォンの姿はなく、あるのは無残で残酷な姿で死んでいる子供があるだけだった。
腹からは内臓が主に肝臓や心臓部が喰われており、腕はおろか足の付け根すら喰いちぎられていた。このボロ臭い服装からはこの子供は貧民街の子供であることは分かった。
「これを見て、ウォンは・・・」
エルナはその死体に自分の着ていた上着を被せると、手を合わせる。
少し肌寒いが、今の状況に比べれば小さい事に過ぎない。
今すべきことは、ウォンの行方を探すことだ。自分の風邪の心配などではない。
「エルナ様・・・あれを・・・」
クルスが指を刺した方向には、中路地に沿って木のクズがポツリポツリと落ちている。
子供の死体の傍には、木材が崩れ落ちている。それに、積み重なっている木材には魔法を使った形跡が見られた。
「これは!・・・いや、これは俺にしか使えないはずでは・・・」
クルスは崩れ落ちた木材を見ながら、顎に手を添える。
それを横目で見ながらエルナは木屑が落ちている中路地に目を送った。
「クルス、行くわよ」
兵士には仲間を呼ぶように言うと、クルスを連れ狭い中路地へと行く。
「中は少し湿ってるな」
「そうね・・・出来るならさっさとここから出たいんだけど、その前にウォンを見つけなきゃ・・・」
エルナ様は、なぜあんな男に構うんだ?
『だっておかしいだろ!?俺らもうすぐ死ぬはずっだのに、逆にあの詐欺師女が死んだんだぜ?これを笑わずにしてどうする!』
あのサイコ野郎を助ける必要はあるのか?
あの言葉だって、シャルディック家の姓と聞けば、本音にしか聞こえなくもない。
「エルナ様・・・少し態勢を整えてから―――」
グチャ!!・・・グチャ・・・グチャグチャ・・・グジュグチャ!!・・・
遠くから何かの粗食音が聞こえる。
それは言わずとも、心のどこかで分かってしまう自分が怖かった。エルナはクルスを押しのけこの嫌な音のする方へと走る。
駄目!あんな子供になんてイヤ!
「エルナ様!」
後ろからクルスの声が聞こえるが、それよりも今はウォンの安否だ。
ブチッ!グーッチャ・・・ブチブチ・・・「うまっ」・・・グチャグチャ・・・
角には見てはいけない光景が・・・でも見なくては・・・。
エルナは心拍数の上がるこの気持ちを抑え、音のする方へと体を動かす。
「―――――――――――」
角を曲がった所で、エルナの表情が固まった。だが、その顔からは血の気が引いているかのように思われる。
クルスもエルナと同じように角を曲がり、その光景を見る。
「これは・・・!!!」
そこには、気を失ったウォンの右腕をを喰いちぎる男のグールの姿があった。いや、グールに右腕を喰いちぎられているウォンの姿があった。
グールは二人いて、もう一人は男のグールの食事を微笑ましく見ている女のグールがいた。
「あなた達、何をしているんですか?!」
その言葉に二人の?いや、二体のグールはエルナの方を見た。
「あ!いやー・・・美味いって正義っすね」
エルナの顔を見た男のグールはウォンの体を叩くと、ゲップをした。
それを見るや、エルナは武器を手に持ち、グールに向ける。
ウォンの生死は定かではない。これほどの血が出ていては死んでいてもおかしくはなない。
「せめて、ここででも恩を返させて・・・ウォン。クルス、行くよ!」
「・・・分かりました!」
ここは寒いわけではないが、暑いわけでもない。だが、少なくとも今、俺の腕がとてつもないほど痛いという事だ。
先ほど、ボケ~と光の中心を見ていたその時、右腕に喰いちぎられたかのような痛みが走った。最初に、歯で噛まれたかのような感覚が走り、次の瞬間、ブチブチと千切られたかのような感覚が走った。
「イッテーーー!!!ふざけんじゃねー!!!」
あまりの痛さに叫んでしまう。幸いなのは、誰にも聞かれていなかっ―――
「痛そうだねーーー。それじゃぁ死ぬ前に最悪な走馬灯でも見てもらおうか」
どこからかルシカの声が聞こえた。
「おい!走馬灯ってどういう事だ!死ぬってどういう事だ!俺はもう死んでんじゃないのか?!」
ウォンは獣に喰い千切られたかのような痛みの走る腕うを押さえ、ルシカに叫ぶ。
すると、その瞬間、黒い影が宙に釣った状態で落ちてきた。
だが、それは物ではなく。首を吊った人だった。
「おい、ルシカ。俺は昔、首を吊った記憶はないんだが?」
「あっれー?っかしーなー・・・でもまぁ、目的は達成出来る訳だし?もう少しそこに、いて死んで?」
声の主はまるで、犬や猫、それ以下の命を扱うかのような態度で、ウォンを見下す。実際こちらからではルシカの目は見えないが、きっとそうではないのではないだろうかと思わざるを得ない。
ウォンは、首を吊っているその見知らぬ人物の顔を見る。
どこかで見たことのある人物だ。
「あぁーー。あの時の―――」
それは、数日前エルナと出会う前、路地で寝ていた時に見た夢に出てきた人と一緒の顔だった。服装こそは違う物の、あれだけ奇妙な夢だったのだ。少しくらいは憶えている。
しかし、これはどういう事だ?
人に殺されたのではない。それに獣や魔物に殺されたのではなく、自分から死を選ぶのなどそんなことあるのか?貧民街の子供でさえが、生きようと足掻くのに、こんな見た目からでも健康そのもの金に不自由の無さそうだが・・・。
「君・・・いや、そいつはね、人に騙されたんだよ」
「は?」
「そいつはね、有もない罪を擦り付けられてね、友人はおろか親族でさえがそいつを虫を見るかみたいな目で見たんだね」
「何が言いたいんだ!!!」
言っている意味の分からない言葉は人を苛立たせる。今のウォンは、それだ。
「だーかーら・・・あんたは生まれ変わっても、人に騙せれて死ぬのがオチだってことだよ!!!」
ルシカの言葉に怒りが籠った。
「あんた、あの時あんたあの子を信じちゃったでしょ?」
「――ッな」
「でもね、あの子はこれっぽっちもあんたを信用してなんかないよ?都合のいい道具でしかないんだから。自分が生きていくには誰でもなんでも利用していく国王パルデシア家っていっつもそんな奴ばっか生まれるんだよ。それに今だってほら、来ないじゃないか」
ここからでは、来ているかどうかは分からないが、この女は嘘を言っているのかそれも判断しきれない。
ウォンはこれ以上耐えきれないこの腕の痛みを紛らわすために履いていた靴を右腕に叩きつけた。何度も何度も何度も―――。
しばらく、それを続けたおかげで、自我を保つことが出来た。
だが、それもどのくらい持つかは分からない。
「これが俺の前世とでも言いたいのか?」
『俺の魂を転生させようが、消滅させようが、地獄にでも天国にでも送りやがれ』
『ふむ・・・最初のはもうやっちゃったからな・・・よし、選択外で行こう』
まじか、本当におれは一度転生しているのか。しかも、これが一度目の人生の俺の最期だなんて・・・。
ウォンは腰に刺していたタガーを鞘から抜くと、ボロボロになった刃を見た。
普通のタガーでも調合金で出来ており、だいたい鉄なんぞは使わない。だが、このタガー店の中では一番安いもので、鉄で出来ていた。
いままで、この一年よく耐えた物だ。最初買った時は店主に1か月もてば良い方だ、と言われたが、まさかここまでもつとは思わなかった。
「それじゃぁ、これで俺の人生は本当におわr―――」
「そんな事はさせない!!!」
は?
目が覚めた。痛いレンガの床でウォンは目が覚めた。
力が出ない。右腕には感覚がない。それに二の腕には熱がこもってる。
「おい、今のは・・・・・・おい、これって!!!」
右腕がない。切られているのではなく、喰われたかのような歯の跡がある。
「遅れてごめんね!あんな女の話を聞いちゃダメ!」
駄目だ、信じては駄目だ。そう自分に言い聞かせるのに。信じても良いんじゃないかと思っていしまう自分が怖い。信じたら殺される騙される。前世の俺だってどんなことがあったかは知らないが、結局は騙されて死を選んだのだ。
「俺は誰も信じない・・・俺を残して消えてくれ・・・」
「でも!!!」
ウォンは、手を差し伸べるエルナの手を叩く。
だが、その瞬間、ウルガの猛攻撃が彼女を襲う。エルナは、飛ばされて壁に叩きつけられて。
「何だっけなー・・・えーっと、そうだ、クルス。お前だけ帰れよ。こいつらは俺が喰ってやるからさ。と言うのもこいつらを喰いたいから、お前はいらないんだけどな」
そう言いながら、右手にウォン、左手にエルナと頭を鷲づかみにしてウルガはニヤリと笑った。
「他の兵士はまだなのか?」
かなりの時間が経ったが、なかなか来ない。まさか逃げてしまったのか?
結局はただの臆病者たちの集まりだったかと呆れてしまう。
「ねーちゃん。さっさと殺っちまえ・・・・・・よぉ?」
ウルガの腰に痛みが走る。それは弱く慣れていないのかしっかり勢いがない。
右を見ると、そこには左手にタガーを持ち、それを自分の腰に刺していた。
「おい、さっさと俺に殺されろよ。グール。お前は墓場よりあの世に消えた方が似合ってるぜ」
ウォンは、力無しでもそのダガーをウルガの首の方に押し上げた。




