第29話:嫌われるために
委員長がいなくなってから、十数分経った。
それにしても通り雨のはずなのになかなか止まないな。スゲェ気まずいから、できれば早く止んで欲しいのだけどな。
「先輩」
「何?」
「あの言葉って本当ですか?」
「あの言葉ってどの言葉?」
「あの……その……非処女にしか興味ないって」
「あぁあ! アレね。アレは嘘だ。嘘に決まってるだろ? 俺は寝取りとかいう胸糞悪いのは嫌いだ」
「犯罪者なのにですか?」
「うん。よく考えてみろ? 俺が犯した犯罪は傷害と殺人だ。強姦とかじゃないぞ? まぁ、どっちみち法に反しているのは変わらないけどな」
「…………」
「何か言いたそうな顔だな?」
「いえ、わたしが知っているあなたではない犯罪者は、自分が犯した罪について話すときに、それは愉快そうに話していましたから」
「犯罪者には色々と種類があるんだよ。事故で殺してしまった人もいるし、正当防衛で殺してしまった人もいる。愉快犯なんていう頭の悪い犯罪者もいるけどな。俺みたいになんとなくていう、クソみたいなやつもいるぞ」
「またですか」
「なにが?」
「また、その笑みですか。またその死にたそうな笑みですか!」
「何言ってんだ? 死にたくて笑うとかありえねぇだろ」
「もういいです。海奈先輩」
「また海奈か。あんな鬱陶しい奴の話はやめてくれ」
「っ!? あなた今なんて!!」
鶴如が必死の形相で胸ぐらを掴んでくる。
やっぱりな。海奈のことを貶すと自分のこと以上に怒る。でも、どうして俺はあんなこと言ったんだ? 別にイラついているわけでもないのに。……あぁ、なるほどね。そういうことか。どうやら俺は自分でも気づかないところでイライラしていたんだな。しかも、三つの理由で。
まず一つ目はこの場所、この景色。それらが俺の心をヒドく苛立たせているようだ。自分の不甲斐なさに。その苛立ちが蓄積されていって、それで鶴如に八つ当たりしてしまったんだな。
二つ目は自分の心を当てられたからか。そして、そんなタイミングで海奈の名前を出したから、あんなことを言ってしまったんだな。
そして、最後の一つは鶴如が知っているという俺以外の犯罪者のことでだな。
鶴如という後輩ができた時に海奈に鶴如は男性恐怖症だからと注意された。あの時に俺はどうして男性恐怖症なんかになったのか聞いてしまった。あの時の俺は事件が起きてすぐで荒れていた時だったから、海奈に言えないと言われたからナイフを突きつけて、脅迫した。
さすがの海奈でもそれだと言わざるおえなかったので口を開いた。
鶴如は昔、ある男に目の前で母親をレイプされて殺された。そして、自分もその後にレイプされた。しかも、それがあったのは小学二年生の時。つまり、鶴如がまだこの坂島に来ていない時期だ。その男は逮捕されたらしいが、証拠不十分として、すぐに釈放された。
釈放後のその男にまだ坂島に来ていない時に鶴如はおそらく遭遇したのだろう。そして、愉快に話したんだろうな。母親以外にも今までレイプしてきたことを。
多分、それを知ったから俺はイライラしていたのだろう。すぐに海奈との関わりを絶ったからあまり鶴如と関わったことがないけど、後輩なのだから。そして、今は同じ部活の仲間だ。
でも、男である俺とはあまり関わらない方がいいと思うし、このまま続けるか。怖いはずなのに胸ぐらを掴んでいるとはいえ男である俺に触れているのだ。しかも、海奈のために。
ははっ! 俺はいつも通りにすればいいだけなんだし、気楽だな。
「聞いてますか!」
「いやいや、聞く気なんてないから」
「ふざけないでください!!」
「ふざけてなんていない。それに海奈が鬱陶しいのは事実だ」
「っ!? また!!」
「もっと言ってやろうか? あいつの存在は迷惑なんだよ! それに邪魔なんだよ! むしろ消えて欲しい」
「あなたという人は!!」
あっ。雨が止んでる。なら、もう終わらせるか。
「それにしても、お前は俺を誘ってるのか? いいさ。その誘い乗ってやるよ」
「誘い?」
「お前は半裸なのにこんな至近距離で触れてるんだぞ? それを誘いと呼ばずになんと呼ぶ? まぁ、もう少し色気があったから完全に乗るけどな」
「っ!?」
「おっと。逃させねぇよ」
逃げようとした鶴如の腕を掴む。そして、引き寄せて優しく抱き止める。俺の服は乾いていたから着ているが、下着姿のままでいた鶴如を抱きしめると冷たさを感じた。彼女の体は完全に冷えている。だが、今は俺を嫌ってもらおうとしているので優しくするわけにはいかない。
いや、別に服を着させるくらい、いけるか。ちょうど鶴如は男性恐怖症なんだし。それに鶴如は俺に触れられるとガタガタを震えているし、固まっている。だから、俺が腕を離さない限りは彼女は逃げることができない。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ──」
きっと男性恐怖症から来る発作だろうが、息を切らしている。
悪い鶴如。でも、これもお前に嫌ってもらうためだ。
腕を離さないように注意をしながら、服を着せていく。普段はポニーテールにしているが今は全く手を入れてないのでとても着せ辛い。時間はかかったが、なんとかして着せることができた。未だに彼女は震えているままだ。
さて、完全に嫌われるためにも覚悟しよう。
考えると彼女が嫌がる行動が頭に大量浮かんで来る。しかし、そのほとんどが、かなりの度胸がいる。
結局、少しでも度胸がないと相手に本気で嫌われることが難しいのですることを二つ決めた。しかも、それは俺にしたらかなりの度胸がいる。
「っ!?」
震えている彼女の唇を唇で塞ぐ。ディープなキスをしようと思ったが、さすがにそこまでの度胸はでなかったので、キス止まりだ。しかし、そのキスの時間は長い。
「っ……」
「っ! っ!」
ディープなキスではないのに彼女の唇から離すとクチュといやらしい音が聞こえる。呆然としている彼女を優しく床に寝かせて、彼女のパンツの中に手を入れる。
「っ!? ぃ……ゃ……」
「ん? 何か言ったか? 誘うのだからこれくらいの覚悟は普通しているよな。いや、これ以上の覚悟をするものだよな? な?」
「ぃ……ゃ……ぃ……ゃ」
「あれ? もう濡れてきているぞ? もしかして、もう欲しいのか?」
俺の言葉を聞いた彼女は「ヒッ!」と完全に怯えている時に出る声を出す。
本当に悪い。ここまでやるとさすがに俺に関わりたくなくなるだろ。それがこいつにしても俺にしてもいいんだ。そもそも俺はSON部の人らに嫌われるのがいいんだよ。これでこんなことがあったと言いふらすなら好都合だ。
「仕方ないな。そんな欲しがるならあげる。だから、我慢していろ」
もう彼女を解放していいという判断に脳内で至ったので彼女を解放することにする。
彼女から距離を取りズボンに手をかける。そんな俺を見て本気だと判断した彼女は、この秘密基地から走って逃げる。でも、追いかけるなんてことはしない。絶対に。
一分くらい経ってからその場でしゃがむ。
「はぁぁぁぁ!! まさかこんなところでファーストキスするなんて思ってもなかったぞ。しかも相手は異性として全く意識していないのによ! まぁ、今はそんなことよりもだな」
左足に触ってみると、とてつもない激痛に襲われた。しかし、ここで声を出すわけにはいかない。
それにしても、どうして今? 全く無茶してないのに。それとも治りかけているからか? カサブタだとかゆくなるとかだけど、この薬はこの痛みなのか? …………まさかこの可能性が一番高そうとは思わなかった。まぁ、おかしくはないか。新薬なんだし。俺はその実験体なのだから何があってもおかしくないだろう。
どうやら鶴如はこの状態にも気づいてなかったし、なんとかなったな。きっと、鶴如は二度と俺に関わらないだろうけどな。
でも、これでいいんだ。これであいつは俺みたいな犯罪者と一緒にいなくて済む。どうかみんなに言いふらして、この関係を壊してくれ。
俺はそんなことを願ってしまった。




