第28話:雨宿り
クソ! 待ってくれなかったか。仕方ないか。
「鶴如! 悪いが雨宿りするぞ! このままだと風邪引く」
「雨宿りってどこで、ですか?」
「悪いな。先に謝っておく」
「はい? …………って……うわ!?」
さすがに本気で走って雨宿りしにいかないとまずいので軽い鶴如の体を片手で持ち上げて強制的に背負う。もちろん男性恐怖症なのは知っている。でも、風邪を引かれる方がヤバいので仕方ないと思ってもらいたい。
運がいいことにそこにあった近くの洞窟に向かって走る。そのおかげで雨宿りすることに成功した。
「ふぅ。土砂降りだな」
目的地に着いたので男性恐怖症の鶴如の手をすぐに離した。そして、俺はしゃがみ地面に落ちている二つの丸石をこれまた地面に置いてある枯葉や枯れ枝の上で擦り合わせて、火花を起こさせる。それだけなのにすぐに火がついてくれた。
ボトボトになったので春の坂島でこのまま過ごしていると確実に風邪を引く。
はぁ……。仕方ないか。
「なぁ、鶴如」
「何ですか?」
「服を脱げ。当たり前だが下着は着てろ」
「えっ? ちょっ!? 何をしているんですか!?」
「何って見てわからないか? 服を脱いでるんだけど」
「それくらいはわかります! ですが、どうして脱いでいるのですかという意味で聞いたのです! まさか!」
「まさかとは? 何が思い浮かんだ?」
「エッチ!」
「やっぱりそっちか!」
「それ以外は何があるんですか!」
「普通に服を乾かすんだよ!」
「えっ?」
「ていうか、焚き火の近く見てみろよ! すぐに理解できるから」
「物干し竿? どうしてここに?」
「ここは俺だけの秘密基地だ。だから、電気使うもの以外は何だって、できるぞ。ちなみに飲み物はホットとアイスどちらでもいけるからな」
「なら、ホットミルクで」
「ホットミルクね。運がいいことにあったな」
ズボンはさほど濡れていないので履きながら少し大きめの洞窟の奥へと入っていき牛乳を取る。もちろん、近くにコップがあるので問題ない。ちなみに数は8だ。全て漂流してきたものでちゃんときれいに洗ってから持ってきた。牛乳なのでマグカップに入れる。
さて、俺はなにすっかな? ていうか何があったかな?
天然の冷蔵庫の中を散策していると予期せぬ飲み物があった。しばらくその飲み物の泡盛をジッと見たが、牛乳に混ぜてみようかなどの悪い考えしか浮かばなかったので見なかったことにした。
「お待たせ。これが牛乳だ」
「わたしホットミルクって言いましたよね?」
「温められるようなものなんてそう簡単にないから、そこの焚き火で温めるつもりだけど?」
「まるでサバイバルをしているみたいですね」
「みたいじゃなくて、実際にそのような状況になっているんだけどな」
「それで一つ聞きたいのですが…………」
「なんだ? 先に行っておくが海奈のスリーサイズは知らないぞ」
「そんなこと聞きません! それにわたしは知っているので」
えっ……知っているのか? 何それ怖い。海奈のことだし絶対に他人にプライバシーなことを話さないのに。実際に俺も話されていないのに。ただ、見ていたら大体はわかるんだよなー。好みとか趣味とか性格などは。でも、見るだけでスリーサイズを知るなんて至難の技だと思うけどな。
いや、もしかしたら鶴如はそういうのを持っているのかもな。男性恐怖症だし、きっと女の人が好きなんだろうな。
勝手な結論づけると妙に納得できたので、安心して焚き火の上で鶴如が飲むミルクと俺が飲むコーヒーを温め始める。
「いや、わたしが聞きたいことはただ一つです。先輩って変態ですか?」
「…………はい?」
「いやですね、思いっきりズボンだけなのに全く動じていないので。てっきり変態なのかなって」
「人並みには。でも、これは仕方のないことだ。雨で濡れたままだと風邪引くからな。確か言ったはずだけど?」
「いえ聞いてませんよ。服を乾かすんだとは聞きましたけど」
「あっ……そういえばそっちだった」
「何か言いました? まぁいいです。それなら質問を変えます。先輩はわたしの体に興味はありますか?」
「まぁ、人並みには」
「またその回答ですか?」
「仕方ないだろ! それが一番無難な回答なのだから!」
もし、ここで興味ないといえば変態ではなく男好き判定されるし、逆に興味あるといえばど変態判定されるしよ。ホントに全人類の男はこの質問の回答に困るだろうな。まぁ、開き直っている人もいれば、実際にそういう人もいるしな。俺はあくまでノーマルだからこの回答には困るんだよな。
「なら、少し言い方を変えて質問してみますね」
「そうしてくれると助かる」
「例えばわたしが服を脱いで下着姿になったとします。興奮して襲いたくなりますか?」
「それはないと思う。猫の裸を見て興奮するわけないしな」
「はい?」
「あぁいや、例えの話だ。例えの。実際にお前が猫じゃないのも知っているしさ」
「つまりどう言いたいのですか?」
「こう言っちゃ悪いが、お前を異性として意識しないということだ。ただの後輩としか思わない。それにお前には好きな人がいるんだしな」
「そう……ですか。なら、覚悟を決めます!」
鶴如がそう言ったかと思うと今まで着ていた服を脱いで下着姿になった。彼女の下着は猫が書かれている可愛らしい柄だった。
いや、マジでガキじゃん。下着の柄も体型も。一切着やせしないタイプなんだな。
「ど、どうですか?」
「いや、どうって言われてもガキとしか」
「ガキと思うのですか? まぁ、そうでしょうね。高校生にもなってこんな体型なのですから。もう成長しないですからね。やはりそう思いますよね。一体、ママやおばあちゃんの体型はなんなのでしょうかね? どうしてあんなにもグラマーになるのですかね? それにわたし遺伝的にどう転んでもグラマーになるはずなのに一体わたしはどこの子なのでしょうかね?」
「お…………おおう」
海奈に関してだけ饒舌になると知っていたが、まさか自分の体型にまで饒舌になるとは思いもしなかったぞ。
「ま……まぁ、そういう体型が好きな人もいるしそう悲観することはないと思うぞ。うん。あっ、そういえば海奈はそういう体型は好きだと思うぞ」
さて、海奈の名前を出してみたけど、どうなるのかな? これで収まってくれたらいいけど。
「そんな慰めいらないです。海奈先輩のことはあなたよりも何億倍も知っているので、全て嘘だと丸わかりですよ」
「なにそれ。怖い。あっ! ホットミルクができたぞ! さぁ! 飲め!」
「わたしが猫舌だということ知ってますよね? 嫌がらせですか?」
「いや、知らないけど。それにしても猫舌か。ますます猫みたいだな」
フーフーと息を吹いて少し冷ましてから鶴如に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「気にするな。せめてもの詫びだ」
「詫び?」
「いや、知らないとはいえ熱々のものを飲ませようとしてしまったからな」
「そんなこと気にしなくていいですけど」
「なら俺からの嫌がらせと思ってくれていい。空気を吹けば少しでも唾液が飛ぶのにそれをしたのだからな。しかも、男性恐怖症のお前に。それで納得してくれると助かる」
「納得どころかすごくイライラしてきました」
「はははは……」
ワザと苦笑いを浮かべながらも脱ぎ捨てられっぱなしの鶴如の服を俺の服がかかっている物干し竿に吊るす。
ちょうどいい苦さのコーヒーを飲みながらもズボンのポケットからスマホを取り出して、一応持っている海奈の連絡先へと俺と鶴如が雨宿りしていることをメッセージで送る。そうもしないと心配性の海奈は尋常じゃないほど心配する。
送り終わったのでスマホの電源を落として近くの岩場に置く。飲んでいたコーヒーを飲み干す。
目を閉じて耳を澄ませると先ほどよりも雨が強くなっていることに気づいた。
こりゃあ、マジでここで野宿かもな。
少し心配になっているとバタバタと足音が聞こえてきた。何事かと思い聞こえてきた方へと視線を向けると一人の制服を着た少女が入ってきた。
俺のことが大っ嫌いで部長のことが大好きな我がクラスの学級委員で学年の委員長の裂鳥海笑がいた。しかも、明らかに俺たちがいることに気づいていない。
だけど、あえて俺たちの存在をバラすことにした。彼女には感謝しているから日頃のお礼だ。彼女は自分が犯罪者だということを再認識させてくれる精神安定剤みたいな存在。
「ヤダなぁ。委員長せっかくのいいところだったのに」
ニヤリと笑いながら近くにいた鶴如を抱きしめて委員長を呼ぶと振り向いてくれる。そして、俺たちの存在を認識してくれる。ちなみに鶴如は抱きしめたら確実に嫌がるので好都合だ。
「海空。どうしてここにいる?」
「やめっ! 離してください!」
鶴如が暴れて離れようとするが絶対に離さない。それどころか抱きしめている彼女のブラジャーのホックに指をかけて外しながら、舌舐めずりをする。
「えっ?」
「海空ぁぁぁ!!」
委員長は叫びながらこちらへ向かってくる。
フッ。読み通りだ。
「ごめん。あとでなんでも言うこと聞くから、今回は見逃してくれ」
鶴如に小声で伝えてから彼女を離して大きく後退する。
「おおう。怖い怖い」
ニヤニヤと笑いながら委員長と鶴如から離れると委員長は地に一瞬だけ足をつけてから、すぐさま蹴り俺の元へと向かってくる。
「さすがは武闘家。力がスゴい」
「黙れぇぇぇ!!」
委員長は肩から竹刀を取り出す。
「まさかの武器を使うのか? 相手は丸腰なのに? 卑怯だねぇ」
相変わらずニヤニヤと笑いながら委員長から距離を取る。そんなことをしていると外に出てしまう。なのに委員長は追いかけてくる。
さすがに外に出るとこんな土砂降りだし風邪引かせてしまうな。
あえて委員長の方へと進む。さすがにその動きは予想していなかったのか、委員長は慌てて後退する。
まるで委員長を追いかけているかのように俺は委員長の方へと向かう。
きっと冷や汗を垂らしながら逃げているんだろうな。さすがにやり過ぎたかな?
委員長を真似て地に足をついてすぐに蹴ると足をひねってしまい「うっ!?」という声を漏らしてしまうが、まるでそんなことがなかったように装うことにする。
委員長を追いかけると追いついたのですれ違いざまに彼女の胸をツンと突つくと「ひゃん!!」という可愛らしい声を出して地面にへたり込まれた。すでに方向転換をしていたため急に止まらなくて委員長に引っかかり共に転んでしまう。
「イタタタタ」
言いながらも目を開けると目の前に委員長の顔があった。しかも、少し動けばキスができてしまいそうな距離にだ。
初めて委員長の顔をジッと見たな。まさかこんなに整っていて美人だなんて思ってなかったな。それに胸も大きいし。
ちなみに今、俺たちの状況は俺の両手が彼女の両耳の横にあり彼女の体の上に俺の体がある。そのため委員長は身動きが取れない。
「クッ! 殺せ!」
委員長は顔を真っ赤にしながらファンタジーなどで見る女騎士みたいなセリフを吐く。
「殺すなんてそんな。勿体無い」
「なら、ヤるならさっさとヤれ!」
「えぇー。もう少し見物していたい」
「にゃっ……にゃに!? ふじゃけるにゃ!! お前みたいな犯罪者に触れられた時点であたしは汚れているんだよ!!」
「俺は非処女にしか興味ないから。まぁ、どうしてもと言うなら奪ってやっても構わないのだが」
「そんなこと誰が頼む!」
「なら、今すぐ俺の前から消え去ってくれないかな?」
「っ!?」
彼女に背を向けながら言ったので音だけだが、委員長が俺の近くから去り、きっと雨の中走り自分の家へと戻ったのだろう。まぁ、うまくことが運んでくれるといいんだけどな。委員長に風邪を引かれたら喧嘩もできないから退屈だし。
それにしても……。
なんなんだあのギャップは!? つい可愛いと思ってしまったじゃないか! まさか厳格そうなあの委員長があんな表情をするなんて誰が予想ついただろう! 風邪を引かれても困るけど俺の精神的にもヤバかったので去ってくれてよかった。
安堵していると背後から足音が聞こえてきたので誰かと思うが「先輩」と呼ばれたので誰だかわかった。
さて、どんなことを言われるかな?
「先輩は最低ですね。それに優しい。でも、やはり最低な人間ですね。最低で最低で最低で最低で最低すぎる人間ですね」
「ふっ! 今さら気づいたのか? 遅過ぎだろ」
まぁ、当たり前の反応だな。
♦︎
どうしてこんな気持ちになっているのか理解できない。そのせいで彼女──裂鳥海笑。通称委員長が雨の中自分の家へと向かって走っている。しかも、泣きながらだ。
普通の一軒家の家の玄関を開けてすぐに中へ入り、自分の部屋へと向かい、すぐさまベットへ飛び込む。そして、自らの枕を涙で濡らす。
どうして? どうしてあたしは敵である海空流谷に消え去れと言われてこんなにも悲しく思っているの? どうしてあんな冷ややかな目を向けられて震えているの?
どうして? どうして? どうして!? あたしは自分のことが何にもわかっていないの?




