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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
40/40

☆+39 一歩前進して三歩後退する

...まだ読んで下さってる方々へ&更新待ってくださっていた方々へ。


あんた方は神のように寛大な心の持ち主であり、また、そのような方々にこの作品は支えられていると思っています。が、マイペースな内容と更新度でこれからもよろしくお願いします

 私達が何をしなくても物事は勝手に進んでゆく。


 世間的には、私は妻子あると知りながらその男性と肉体関係を持った悪しき女で、更に関係を続けようということから批判され、罵られるしかないと知っている。

 被害者は当然男性の妻側であり、私と関係を持った男性も矢面に立ち、会社の株も暴落するのは誰に諭されなくても解っていたこと。

 

 だから。


「こんなこと、なんてことない。なんてことないんだから」


 弌葉さんが用意してくれた、セキュリティがしっかりとしているマンションの玄関扉に幾重にも貼りつけられている脅迫めいた言葉が殴り書きにされている紙。

 中には血を想わせるような赤黒いインクで書かれた【殺す】と言う文字。


 それだけならかわいい方だと思い知ったのは、送り主が不明な手紙が一日何通も送られてきては、中に仕込まれたカッターの刃や、隠し撮り写真と言ったものが紛れていたことで、流石に少し気がおかしそうになったのだけど、泣くことは出来なかった。


 いいえ、しなかった。

 なぜなら


「ゆきちゃん、どこか痛いの?」


 小さな手がきゅっと、力を入れて握ってきたことに、暗い思考を追い払い、扉に貼られた脅迫文を一枚一枚丁寧に剥がし、鍵を開け、歌音ちゃんに手洗いとうがいをするように促し、夕飯の支度をする為にキッチンへと向かった。


 保育園へ歌音ちゃんを迎えに行ったついでに寄ったスーパーで購入してきた食材を冷蔵庫に入れ、オムライスを作り始める。

 卵に鶏肉にピーマンに人参、玉ねぎ。あとは冷ご飯とケチャップ。

 付け合わせはレタスとトマトとアスパラのサラダ。


 使う素材を洗い、包丁でザクザクと切っていると歌音ちゃんが洗面所からトタトタと足音を立て、キッチンリビングへ入ってきて、椅子ににじり上り、通園鞄からドリルを取り出し、自分から勉強を始めた。


 私は今、基本的に歌音ちゃんと二人暮らしをしている。

 

 弌葉さんは奥さんと離婚するために忙しくしていて、奥さんは奥さんで何を考えているのか歌音ちゃんの育児を放棄していることから、当初は児相に預けられることになっていたらしいけれど、当事者である歌音ちゃんが私と一緒に過ごしたいと言ってくれたことで、一緒に暮らせている。


 その代わりと言ってはなんだけれど、歌音ちゃんは、私のことを「ママ」と呼ぶことを止めるように言われたらしく、今は私のことを《ゆきちゃん》と呼んでくれている。


 今はそれだけでいい。

 それだけで幸せで、胸がいっぱいで、この幸せが掌から零れないように必死に守ることしか出来ない。


 その為に仕事もやめて、家族との縁も一方的に切った。

 

 あれもこれもと手を伸ばすと一番欲しいモノが手に入らないと私は知っているから。


 ほこほこと湯気を立てるスープと優しい甘い香りを漂わせるオムライスをお盆に乗せ、リビングに持って行こうとした時、付けていたラジオから御鹿倉グループの経営陣が揺らいでいるとのニュースが飛び込んできて、それに追い打ちをかけるように弌乃宮グループが御鹿倉との取引を中止するとの報も流れてきて、私はどうしようもない感情に襲われたのだった。


 

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