協力者
異端審問庁。イリス・クロウベルからの襲撃から一夜。俺達は既に馬車に揺られていた。
「本当に大丈夫なんでしょうか?」
「心配性だなぁ。ミリアさんを信じろよ」
「そうですけど……」
馬車を牽く馬の手綱を握りながら、もう何度目かの心配を口にするカイを落ち着かせる。
俺達が乗っているのはギルドに、というよりはギルドの監査記録課から提供された馬車だ。
説明する必要も無いと思うがミリアさんによって用意されたこれによって、俺達の移動は随分とスムーズに、そして変に衆目に晒されることなく移動することが可能になった。
何せ、馬を操る御者はどうしたって巻き上がる砂煙などから身を守るために外套や帽子などを身にまとっているからな。
顔や体格を隠すには持って来いってワケだ。
「だって、王都に近付くなんて……」
「近付くったって、そこまで近い場所じゃねぇよ。エスメラルダやソレイユに比べれば近いってだけだ」
カイの方は幌のついた馬車の中で大人しくしてくれれば良い。個人の馬車だから他に乗せる人もいないし、バレる心配はかなり少ないだろう。
俺も『ディバインシフター』を使って無いしな。
「協力者がそこで待っているって言うんだ。何にせよ行くしかねぇよ」
「……そう、ですよね」
異端審問庁の件もあってか、カイが妙にそわそわとそそっかしい。
不安になるのもわかるけどな。カイを追っているベルゼルト卿。俺を追って来るだろう異端審問庁。
まさか2人揃って追われることになるなんて思わなかった。別々の組織や個人に追われているのも面倒なポイントだが、更に事態を厄介にさせているのがベルゼルト卿の存在。
ベルゼルト家は昔からアストレア王国と『天律聖教』を取り持って来た一族。貴族としても、『天律聖教』の信徒としても高い地位と権力を持っている。
つまり、カイがベルゼルト卿に捕まったら俺が異端審問庁に。俺が捕まればカイがベルゼルト卿に。
それぞれ芋づる式に追われている相手に捕まってしまう可能性がかなり高いってことだ。
「準備はした。旅はしばらく続けられる。1つのところに居続けるんじゃなくて、移動し続ければそう簡単に捕まるもんじゃない。今回がたまたま運が悪かっただけだ。そう思い詰めるな」
「……はい」
ソレイユの街ではどうしても長期間の旅に備えるために時間をかける必要があった。その中で運悪く異端審問庁に目を付けられてしまったってだけで、だからって今すぐどうこうなる訳じゃない。
『ディバインシフター』で変身する時とそうじゃない時を切り替えないと行けなかったり、出来るだけ1つの街に滞在しないようにしたり、工夫のしようはいくらでもある。
それでも、カイの不安を完全に拭うことは出来ない。イマイチ元気の無い返事が聞こえて来て、俺も肩を竦めるしかなかった。
カイの性格を見るに神経質なところが見え隠れしている上にベルゼルト卿に対する強いトラウマもあるだろう。
ナーバスになるのも仕方ないことだって言うのは俺も理解できる。
それに俺自身の信用がまだ足りないってのものあるんだろう。大丈夫だと思っていた矢先に今回のトラブルだからな。
このまま俺と行動していて大丈夫なのか、って考えも多少はあるだろうさ。
別にそれ自体は悪いことじゃない。自分の身を守るためには絶対に必要な思考だ。
ただし、カイはまだまだ未熟だ。不安から致命的な判断ミスをしてしまう可能性はある。例えば、俺を信用し切ることが出来ずに離れて行ってしまうようなことが考えられる。
信用を得られなかったことに関しては間違いなく俺を含めた大人達に非がある。だが、ベルゼルト卿という大貴族は子供一人でどうにか出来る存在じゃ絶対に無い。
俺達の庇護から離れるという判断そのものは致命的な判断ミスだ。それを誘発させるようなことが続くことだけは避けなければならない。
というのが俺とミリアさんの共通意見。とにかく、カイが自分の身の安全に関して安心できる状況を維持することが俺達にとって最も良い状況。
「お前のことは俺が必ず守る。だから心配すんな」
御者台の後ろで背中合わせにするように俺に寄りかかりながら買った図鑑のページをめくっているカイに俺はそう言い聞かせ、出来るだけ安心できるようにするくらいしか、今は出来なかった。




