便利屋セイル
※注意事項※
本作品は作品の構成上、BL的表現、GL的表現。男女差に関する表現を含む予定です。苦手な方はご注意ください。
またジャンル上、TSタグを付けていますが本作の性転換的描写等はジャンル内でも特異なモノの可能性があります。愛好家の皆様方にはご理解の程よろしくお願い申し上げます。
「ったく、なんだってこんな……!!」
受けた依頼は大したことのない内容だった。
簡単に言えば、ルーキー探索者のお守り。ベテランとして新米ホヤホヤの若い奴らに付き添って、探索のイロハを教える。
そんな依頼だったてぇのに。
「ひぃぃぃ〜?!」
「ママぁっ!!」
「男が揃って泣いてんじゃねぇ!! 泣く前にさっさと走れ!! 死ぬぞ!!」
面倒を見ていた新米探索者2人がもうお終いだと言わんばかりに泣きながら走っているのを見て檄を飛ばす。
泣く前にやる事あんだろがっ。そんなんでよく探索者になろうと思ったな。
「だって、僕ら薬草の採取しに来ただけなのに?!」
「あんなん出るなんて聞いてないっすよぉっ?!」
「泣き声言うな!! 探索中にイレギュラー対応なんてこの仕事やってりゃ当たり前だ!!」
コイツら2人が受けた依頼はルーキーの定番依頼、薬草の採取。
字面だけなら子供のお使い程度の内容だが、そうでもない。
20そこらの歳のヤツがやるような仕事じゃないように見えて、この薬草ってのが生えてる場所が問題なんだ。
何せ魔物がうろついている魔力濃度の濃い森の中の日当たりが良い開けた場所にしか生えてないと来たもんだ。
一般人が来れるような場所じゃない。その分、当然のように薬効も高いから取引自体も高値。探索者の仕事、としては初心者レベルだけどな。
とは言え、未開の地に踏み込んで依頼を熟す探索者にとって依頼中のイレギュラーなんてよくあることだ。
例えば、薬草採取の依頼の監督に来たら、そこにいることが想定されていない魔物がいるなんてことはよ!!
「き、来たぁ?!」
「振り向くな前を向け!!」
「で、でも……!!」
「竜種相手に本気で逃げる以外に今のお前らに何が出来る!!」
今、俺達を追いかけているのはドラゴン。正確には飛竜種と呼ばれる二足歩行の小型の竜種だ。
小型とは言うものの、それはドラゴンという区分の中での話。生き物としては体長3m、体高2m程度と俺達人類の平均的な大きさに比べたら普通にデカいバケモンだ。
相手は飛竜種の中でも鷹竜と呼ばれる猛禽類の頭と羽毛。そして竜の身体と獅子の精神を持つとされる種。
プライドが高く、縄張りに入った外敵に対して容赦をしないことで知られている。
こんなバケモン、俺はともかくとしてこのルーキー2人にはあまりにも荷が重い。だからこそ、こういう時に冷静にひたすらに逃げの一択を取ることが出来るかが明暗を分けることになる。
振り向いてドラゴンの姿を一々確認することも、悲鳴を上げることも。そして何より、ワンチャンスに賭けて立ち向かうことも。
そのどれもが間違った選択だ。自分の命が助かる確率を著しく下げる行為だ。
「良いか、これもレッスンだ。格上の相手と接触してしまった場合、基本的には脇目もふらずに逃げろ!! それが一番、助かる確率が高い!!」
「に、逃げられなかったらどうすんですか!!」
「そうならないために逃げることだけ考えるんだ!! 余計なことをしてたら、それだけで逃げ切れる確率が下がる!! だから、逃げることだけに集中しろ!!」
「「は、はい!!」」
いい返事だ。先輩の言うことを聞けるヤツは探索者として上手くいくんだ。変に反発するへそ曲がりほど、この仕事は簡単に命を落とす恐ろしい職になる。
先人達の知恵と経験を取り込んで行ける柔軟さと自分達は雑魚なんだって現実と向き合えるかどうか。それがルーキーの第一歩だっても言えるな。
だからこいつらは助かる。ちゃんと俺の言うことを聞いたからな。
「ギャンっ?!」
「かかったな鳥頭め」
ルーキー2人は全力で逃げ回っているだけだが、俺の方はそうじゃない。鷹竜程度なら問題なく戦える。ただし、混乱しているルーキー2人を守りながらコイツと戦うことはリスクが高い。
だからすぐに戦わなかった。今の2人は落ち着きを取り戻している。
これなら俺の指示も熟してくれるだろう。
「お前らは森を出ろ!!」
「え、セイルさんは?!」
「罠にかけた。今のウチに仕留める。お前らは安全な森の外までとにかく走れ!!」
「了解です!! ご武運を!!」
その予想はバッチリ当たり、2人は脇目もふらずに一直線に森の外を目指して駆け出して行ってくれた。これでやりやすくなるってもんだ。
「グルルル……ッ」
「元気が良いなぁオイ。鉄糸程度なら何とでもなるってか?」
俺は何もただ逃げていただけじゃない。2人と目の前の鳥頭は気が付いてなかったが、同じルートをぐるぐると回っていたんだ。
勿論、偶然じゃない。そうなるように俺が誘導した。
これでも腕に覚えのあるベテラン探索者でね。目印のほとんど無い森の中でもこの程度のことは出来るってわけだ。
そして、その一画に罠を仕掛けた。単純な仕組みのモノだ。木々の間に鉄の糸を緩く巻き付けておき、獲物が通り過ぎる瞬間にそれをピンっと張らせるだけで鉄の糸は進路を妨害することが出来る。
上手く行きゃ、それで肉を切れたんだが。まぁ、そこは竜種相手。都合よくはいかない。
恨めし気に俺を睨みつけてやがる。獲物を逃してイラついてんのかぁ?
「悪いな。あんまり待たせるとアイツらがまたテンパっちまいそうだからよ」
「ガルルルっ」
俺がアイツらとはレベルが違うことは理解しているらしい。野生の勘ってのは恐ろしいね。一目でこっちの実力をある程度見抜きやがる。
ただまぁ、長々とやってると折角逃げたアイツらが戻って来ちまう可能性があるからな。ここは手早く、一撃で仕留めさせてもらうぜ。
「『ディバインシフター』、出力10%」
「――グルァッ!!」
「『勝利の槍』!!」
顔を伏せた俺が隙を見せたと判断した鷹竜が飛びかかって来る。対する俺は虚空から突如として現れた光の槍を掴んで投げつけると、何の抵抗も無く鷹竜の身体を貫くのだった。




