厄介な男ジロウ
僕は対人戦闘なんてゲームでしかやったことがない。
僕の国に住む大抵の一般人はそうだろう。
だから、僕の魔法使いとしての力がどれぐらいなのか良く分からない。
さすがに皇帝に及ぶなんて思ってないけど、それなりに強いんじゃないか、と少しばかりの自惚れはある。
前にソフトボール大の火球を連続で作ったことがある。
どれぐらい早く、どれぐらいの数ができるかを試した実験では1秒に1個、12個で頭痛がして来たからそこで止めた。
頑張ればもう少しぐらい作れたかもしれないが倒れるまで頑張っても20個行けるかどうか。
対人戦ならそれで十分な戦力だと思う。
軍隊相手となったら大したことはないけど。
軍隊相手だと、戦車一両破壊する自信もない。戦車と真っ向勝負するなんてのはさすがにナンセンスな話だし、そんな状況に遭遇することはないだろうけどね。
戦車相手は無理だとしても、訓練次第ではもっと伸びるとは思う。
皇帝直属の魔法使いたちは最低限で通常軍隊の一個分隊ぐらいは相手にできるらしい。
一個分隊がどれぐらい強いか知らんけどね。
まあ、これも噂でしかないからそれなりに盛ってるんじゃないかな。
ただ、初代皇帝が世界各国の軍隊相手に力を見せつけたのは史実として残っているから、皇帝直属となればそれぐらい強くてもおかしくはないのかもしれないけど。
「なんにしても基礎体力がなけりゃ話にならんから、身体は鍛えとけ。別にアスリート並になる必要はないが、ちょっと走っただけで息切れするようじゃいざってときに役に立たんぞ」
ということで伯父さんがいた頃は毎日従兄と僕を連れてジョギングしていた。
伯父さんたちがいなくなってからはやや怠惰になったものの、週に3回は3キロほど走ってる。
筋トレは室内でできるからもう少しマメにやってる。お陰で体力も筋力もそこそこあるつもりだ。
まあ、今のところそれが功を奏したと思えるのはケイティとベッドに入ったときだけってのがちょっとあれだけど。
ケイティは僕をインドア人間だと思っていたようだ。
いや、それは決して間違ってはいない。僕はスポーツマンタイプじゃない。スポーツもあんまり好きじゃない。スポーツしてると、魔法という折角ある便利な力を使えないから苛々するんだ。もどかしいんだよね。
それに人付き合いも、どうにもね。
魔法のことを隠さないといけないから人との関係にはどうしても一歩引いてしまう。だから、どうしても友達ができにくい。とにかく、ケイティは僕が意外に贅肉が少なく、筋肉があることに驚いていた。小さい頃は一緒にお風呂だって入った仲でも、さすがにずっと互いの裸を見ることなんてなかったから、僕が伯父さんの助言に従って運動を欠かさなかったことを知らなかったんだ。
そのことで褒められただけで凄く嬉しかった。我ながら単純だ。
僕が魔法使いとして優秀だと見せたらもっと褒めて貰えるだろうか。その誘惑は時々強く湧いて来るし、なによりケイティにまで黙っているのは正直辛い。
一般的な生活では不要な能力。人に見せてはいけない力。でもケイティだけには見せびらかしてみたくなる。
「なんだ、ジョン、暇なのか?」
土曜、18日の午前10時、家を出るとジロウにばったり会った。
ケイティの従兄で僕の数少ない友人であり、兄貴分。
ジロウは少し離れた場所に住んでいるから、家の前で会ったってことはケイティの家に用事だったんだろう。
「出掛けるところだよ」
「浮気か?」
ケイティは僕と付き合っていることを宣伝はしていないがジロウは知っている。
小さい頃からの付き合いだから、僕らの間の微妙な空気の違いに気付いたみたい。
僕にエロ動画の漁り方やマスターベーションの仕方を教えたのは他ならぬジロウだ。
ジロウは高校を中退してからなにをしているか良く分からない。
売人をやっているなんて噂もあったけど、当人に聞いたら笑って否定した。ストリートの連中に友達はいても、仲間じゃない、と。
人付き合いが上手いというか、口先で生きてるというか。ジロウには知り合いや友達が多い。
この辺りでギャングに睨まれたらジロウの弟分だと言えば大抵苦笑いして見逃して貰える。
学校でもそう。
短気なケイティと僕がこれまで大きな問題に巻き込まれずに済んだのはジロウのお陰だ。おっかない上級生もジロウの身内と知ると舌打ち一つして姿を消した。
別に大物ってわけじゃない。
ジロウは誰とでも友達になれる奇妙な才能がある。
ギャングとの付き合いもそうだ。深みには嵌まらない程度に友達をやってる。
なんというか、コミュお化け?
「違うよ」と浮気を否定しておく。
ちゃんと否定しとかないと勝手に吹聴するから、ジロウは。
「そうなのか」
なんで残念そうなんだ。
「ケイティがデートに誘ったら断られたって怒ってたぞ。ジョンのくせにって」
くせにって、僕はケイティの奴隷じゃないんだから……まあ、ケイティの言いそうなことではある。いつだってケイティは女王様でいないと気が済まない。僕が意に反することをすると怒る。
たった一歳年上なだけで絶対権力者になった気でいる。
小さい頃の一歳は大きいから、その延長で僕を弟分と認識しているのは仕方ないとしても、今は付き合っているんだからせめて対等に扱って欲しいものだ。
もしかして、付き合ってるつもりなのは僕だけとか?
いやいや、さすがにそれは卑屈過ぎる。
「で、どっか行くのか?」
夏場なのに革ジャン姿のジロウが肩に腕を回して来た。
革ジャンの表面が日差しに炙られてすっかり熱くなってるのが分かる。良くそんなものを着て平気でいられるものだ。
「ちょっとね」
「なんだよ、ちょっとって。隠すなよ」
そう言えばケイティだけじゃなく、ジロウも僕を下に見てるな。
実際下なんだけど。
……3人の中で僕が一番下だって、今更ながらに気付いたよ。
「内緒。だって、ジロウはなんでもケイティに喋っちゃうだろ」
「なんだ、ケイティに知られちゃまずいことなのか? やっぱ浮気か?」
「違うって。そんなにモてるように見える?」
あ、自分で言って自分で傷ついた。
別に女子連中に嫌われてるとかじゃない。ただ、女子に憧れを抱かれるような立ち位置でもない。やっぱり、女子にモテたいならスター選手じゃないと。
ケイティは小さい頃からの付き合いが拗れた。
人によっては「運のいい奴」と言って来るのもいる。ケイティはかなりレベルが高い。幼馴染みでなきゃ僕なんかが付き合ってないだろう。
そう、アドバンテージがなければ存在を意識もして貰えなかったかも。
口の悪い奴になると僕と付き合ってることがケイティの評価を下げてるとまで言う。
……そう言われて頷いて済ますしかないのが哀しいところだ。
「ま、世の中にゃ案外物好きがいるもんだ。冴えない奴に見えても、やる気さえありゃ女の二、三人落とせるもんだ。打率は高くねえだろうがな。で、どこ行くんだよ。ケイティには言わないでいてやるから」
なんて恩着せがましい言い方だ。
そもそもジロウに言わねばならない義務はないというのに。
けど、ジロウに見つかった以上はなにか適当な理由を言わないと解放されないのは分かっている。
「ケイティの誕生日プレゼントだよ」
「まだ先だろ」
「その下見だよ。なにをあげればいいかなんて分からないから、今からリサーチしておきたいんだ。ネットでもいいんだけど、今度のデートに備えてコースも決めたいし」
完全に口から出任せだ。
ケイティの誕生日になにか喜ぶものを送りたいのは本当でも、今から準備する気なんて全然なかった。デートコースだって下見なんてネットでいくらでもできる。VR使えばリアルな下見が自宅でできる。
直接現地に赴かなけりゃならない理由なんてありゃしない。
でも、僕が一人で中央駅方面に出掛ける用なんて他に理由を思いつかない。
誰かと遊びに行くなんて話をでっち上げても、いつかはバレてしまう。
その点、僕一人でぶらついたというだけならバレようがない。実際そうするわけだし。
「ふうん、マメだな。まあ、女には縁無さそうだしな。ケイティに飽きられたら次がないかもしれないんだ、大事にしろよ。あんなでも、見てくれはいい女なんだから」
自分の従妹を捕まえて良く言うものだ。
「ケイティには黙っててよ。サプライズにならなくなっちゃうから」
「OK、OK。ケイティには言わないよ」
いや、絶対言うだろ。言わないわけがない。僕の姿が見えなくなったらすぐにケイティのところに言って、話のネタにするに決まってる。これで今度のケイティの誕生日にはなにか凝ったものを送らないといけなくなった。
無駄に好奇心が旺盛というか、知りたがるというか
どうでもいいことにしつこい友人
1人ぐらい居ません?




