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レアドロップ

 反対の道には行って少しした場所で、身長が二メートルくらいの豚頭の戦士が姿を見せる。

 

 独特な異臭に優理と千尋が反射的に鼻を抑えた。


『オークだな。槍をレアドロップするぞ。あんまり強くはないが、ないよりはマシだろう』


 そう話すアロンダイトに陸斗が聞く。


「豚は清潔好きのはずなんだが」


『豚とオークを同じ生き物だと思うなよ』


 魔剣の返答はもっともかと思い、彼は優理に言った。


「魔法を使えるか?」


「あ、うん。【火のつぶて】」


 優理がかざした手から火の玉が出て、オークに命中する。 

 苦悶の声をあげるオークをよそに陸斗は彼女に問いかけた。


「何発くらい撃てそうだ?」


「ちょっと待ってね……三発っぽいね」


 優理はスマホでステータス画面を確認しながら答える。

 こういう時微妙に不便だなと思いながら陸斗は言った。


「じゃあ敵一体に一回当てるくらいのほうがいいな」


 前方に視線を戻すと床を転げまわって火を消したオークが、憤怒の形相になって槍をかまえている。


「ここからは俺が受けもとう」


「気をつけて」


「怪我しませんように」


 少女たちの気遣う声援をくすぐったく感じつつ、陸斗は一歩踏み出す。

 優理をにらんでいたオークが怯えたように彼に視線を向ける。


『オークの戦士はなかなか本能が鋭い。誰が脅威なのか察したようだぞ』


 アロンダイトはそう話す。


 ゲームだったら攻撃を当てた相手、あるいは気を引く行動をした相手に敵意を向けているだろう。


 まだ何もしていない陸斗を警戒して怯えるのは、ゲームとは違っている証拠だと言えそうだ。


「ガアア!」


 吠えながら突き出された槍を陸斗は剣の鞘で払い、反撃で側頭部を薙ぎ払いの要領でぶん殴る。


 オークは横に吹き飛び、後頭部を壁で強打して崩れ落ちた。


「よし、殺してないな」


 陸斗はオークを観察して自分の結果に満足する。


『一応言っておきたいんだが、今の動きで覚える剣士のスキルは防御系だぞ?』


「覚えられるだけでいいさ。今のところスキルなしでも何とかなってる」


『そうだな……マスターはそうなんだよな……』


 アロンダイトが諦めたところで陸斗は二人をふり返って攻撃をうながす。

 動けなくなったモンスター相手にひたすら石を投げる作業の再開だ。


 少女たちに思うところがないわけでもなさそうだが、二人ともまずは自分が生き残る確率をあげたい。


 陸斗が二人のことを現実的でつき合いやすいと評価する理由だ。

 やがてオークは絶命したので、彼は手を振って二人に攻撃中止の合図を送る。


「倒したら体が消えるとかわかりやすい展開があればいいのにな」


 そして彼が手で触れると槍とコイン数枚が残った。


「お、レアドロップか?」


『そうだな。倒した数を考えるとむしろ遅いほうかもな』


 アロンダイトの指摘に陸斗は自分のドロップ運が低いのではないかと思い当たる。


「これからは富士見か練馬にドロップ判定してもらったほうがいいのか? 女の子に死体を触らせるのはどうかと思っていたんだが……」


 彼は迷いを口にした。

 善意でやっていたことが裏目に出てるとなると、他の案を検討したくなる。


「私はやるわよ。浅草くんだけにやってもらうのは申し訳ないもの」


「わ、私もです」


 二人はそれぞれの表情で意思を示す。


「二人ともいい女だな」


 陸斗は感心して褒める。

 二人の少女は照れて頬を赤らめてうつむく。


『二人同時に口説きにかかるとか、湖の騎士を思い出すな』


「お前は黙ってろ」


 アロンダイトは今のはまずかったと判断したのか黙った。


「さてじゃあ気を取り直して、槍をどっちか持ってくれ」


「私が持ったほうがいいかしら? 千尋ちゃん、抵抗あるんじゃない?」


 陸斗に言われて優理が千尋に声をかける。


「えっと、二人交代で使うというのはどうでしょうか? それだったら二人とも槍のスキルを覚えるかもしれません」


 千尋の提案に優理は名案ねと喜ぶ。


「うん? 魔法使いとヒーラーで槍のスキル覚えられるのか?」


『覚えられるぞ。アヴェンジャーが特殊ジョブなだけだ』


 陸斗の疑問にアロンダイトが答える。


「お前マジで厄病神じゃないか? 持ったのが俺じゃなかったらとっくに大問題だぞ」


 さすがに陸斗がムッとして言うと、魔剣は慌てた。


『いや、弱い奴でも強くなれるし、勝てない相手でも勝ち目を作れるジョブなんだから、条件がきついのは仕方ないだろう? メイジなんてちゃんと育てば誰でも強いんだから』


「浅草くんがあまりにも強すぎるから恩恵がないだけで、強いことは強いのかしら?」


 聞いていた優理がそう感想を口にする。

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