スキルを覚えよう
『そ、そうだぞ! マスターにかかればおそらくどんなジョブも強く思えないはずだ!』
アロンダイトは優理を援軍とみなしたか勢いよく話す。
「さすがに勇者は特別なのでは?」
千尋が遠慮がちに疑問をぶつける。
『いくら勇者だってレベル1でブラッディベアを素手で倒せるわけがないよ……』
返事するアロンダイトの声はむしろ悲しみすら混じっていた。
「わかった。アヴェンジャーが役立たずなんじゃなくて、俺との相性がよくないんだな」
想定外を連呼された気分になった陸斗は折れる。
『お? 和解できそう?』
「俺だってアヴァロンに転移することなんて想定してなかったもんな。アヴァロンが俺のことを想定してなくても責められない気はする」
陸斗はそう結論を出す。
不満を言い続けるだけの不毛な流れは断ち切ろうと思ったのだ。
「何か違う気はしますが、不毛な話をやめようというのは賛成です」
優理は彼の心理を推測して賛同する。
「ひとまず交代で槍を使ってくれ。スキルを覚えるのを目標に入れよう」
と陸斗は言って槍を差し出す。
「ええ。それでいきましょう」
優理は受け取ってうなずいた。
三人は再び獲物を求めて巡回し、遭遇したオークを倒していく。
「こっちのエリアはオークばかりが出るんだな。そして銀貨三枚分でも槍は一つだけか」
陸斗はひと休みした時にふり返る。
「ただ、スキルを覚えられたのはよかったわ。薙ぐ、払う、突き、叩くの四つも」
優理がよかった点をあげた。
『叩くは杖スキルにも有用で、他の三つ槍スキルの基本はだな。ジョブを持っていないとそれ以上覚えるのは難しい』
アロンダイトはそう解説する。
「魔法使いもヒーラーも持つなら杖だろうし、杖でも使えるスキルを覚えられたのはいいことだ」
槍を使った意味はあったのだと陸斗は満足した。
「俺はレベル4、他二人はレベル3になったわけだが、少しは敵のレベルをあげても平気か?」
そして彼は魔剣に問いかける。
『マスターが一緒ならあげても大丈夫だろう。トロールあたりが出て来たくらいで苦戦する展開が思いつかない』
「トロール?」
優理は気になってスマホで調べてみたが検索では出てこなかった。
「調べても出てこないモンスターね」
「てことは序盤で出てくるモンスターじゃないってことか?」
陸斗と優理と二人で首をかしげる。
『というか異邦人ってみんなお前たちくらいタフなのか? 転移してきたばかりだろう?』
アロンダイトは彼らにそんな疑問をぶつけた。
「疲れは自覚してるけれど死にたくないし、足手まといにもなりたくないので……」
「同感です」
優理と千尋は少しためらうような顔で答える。
『そうか。人外はやはりマスターだけなのか』
アロンダイトは何かを悟ったようにつぶやく。
「人外と呼ばれるのは不本意だな。千子村正流が強いんだと解釈してくれ」
「そう言えば浅草くんは何か武術を習ってるといううわさを聞いたことがあるわね」
陸斗が流派の名前を持ち出したところで優理がハッとする。
「まあ隠してなかったしな」
陸斗は気にせず言った。
『武術の流派で説明できる強さか……?』
疑問を持ったのはアロンダイトだけだった。
「しかし疲れを自覚してるなら一回引き上げようか」
陸斗が提案すると優理が困った顔をする。
「足手まといになりたくないんだけど、疲れてるのに無理するほうが迷惑かしら?」
「その通りだ」
陸斗は遠慮なく肯定した。
迷惑になるのが嫌だという考えが強い二人には、何が迷惑なのかはっきりさせたほうがよいと判断したのだった。
「じゃあ今日のところは引き上げましょうか」
「はい」
優理が考えを変え、千尋もそれに従う。
「戻ったら飯を食べられる店でも探そう。美味い飯を食ったら心の疲労は回復するだろう」
と陸斗は提案する。
この人だけ緊張感ないなと優理たちは思ったが、遠慮して口には出さなかった。
かわりに言ったのは別のことだ。
「お風呂に入れたらいいなと思うのだけれど、お金が貯まるまでは難しいかしら?」
優理の言葉に陸斗はアロンダイトを見る。
「どうなんだ、風呂やシャワーは?」
『存在はしているが、安い宿屋にはついてないだろう。風呂屋があるんだが、あの町にあるのかまでは知らない』
魔剣の返事に少女たちは希望を持つ。
「風呂屋に通える金を稼ぐのも目標にしてもいいかもしれないな」
彼女たちの顔を見て陸斗は言った。




