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だいたいコイツのせい

   〔2〕


 その日、涼太と優理はいつものように放課後の帰り道を適当に遊び歩いたりダベくったりしながら、帰宅の途にあった。

 近頃は道端でそこらのヤンキーどもにワケのわからん絡まれ方をすることも減り、実に平和な春も過ぎようかという頃合の日差しが、夕暮れの赤味を示し下ろす中での歩みだった。


 荒川涼太と多摩川優理の名は、その暮らす付近一帯の同世代、特に荒事好きな連中にはけっこう名が売れていた。

 なぜかというと、発端はまだ中学成り立ての頃だったか、下手にイキがった脳たりんの馬鹿が二人を指して「利根川さんはいないんでちゅか~」などとからかってきたことによる。むろん二人はこいつを“ブッ飛ばして”やった。

 それだけで終わればそこで済む話だったのだろうが、その馬鹿はなんと後日に知り合いを連れ立って報復に来た。二人はこれもブッ飛ばした。

 以来、さらにその報復が……、名を聞きつけたヤツが……、といったことを繰り返している内に、“最強”の看板みたいなものがなぜか二人についてまわるようになっていた。マジで意味が分からない流れだったが。


 腕力沙汰に関しては、涼太は父親の、優理は生家の都合で幼い頃から武道場に通っており(二人の知り合ったきっかけもそこだった)、なんのかんので自信もあったし慣れ親しんでもいた。だから突き進むこと自体には躊躇もあまりなかった。

 ただ、そうした環境で日々を過ごすとなると下手に単身出歩くということが危うくなる。自然(じねん)、二人は常からコンビを組むような立ち回りや過ごし方を深めて行った。元々は親しい友人といっても腐れ縁だの悪友だのと呼び捨てあっていた程度だったのだが、このような成り行きを経ていつからか「関東二大水系コンビ」だとか呼ばれて(たぶん間違ってる)恐れられるようにもなっていた。


 ちなみに、優理は自身の名前が字面はともかく音の呼びが女っぽいとしてあまり好きではなかったのだが、だからといって苗字で呼び合うとなおさらに荒川と多摩川に利根川がどうこうといったからかいネタのどつぼにはまってしまうため、仕方がないと割り切って名前で呼び合うように取り決めたのは二人が出会って間もなくの頃だったか。


 とまれ、高校もなりたての一年の内は血気にはやったイキがり小僧どもにちょっかいかけられることも多く“ブッ飛ばして”まわるような日々だったが、二年になってしばらくもするとたいがいをブッ飛ばし終わったとでもいうのかめっきり平和風味を満喫できるようになっていた。

 そんなある日の夕暮れに。




「……っからさぁ~。そこでオレは言ってやったわけですよ。あまり調子に乗っていると裏世界でひっそりと栄養食を食べるハメになんぞ? ってね!」


「なんかイロイロと混ざってないっすか? まぁ言いたいことは分かるが」


 涼太の前方を数歩ほど先行して歩く優理が時おり振り返るようにしながら話しかけていた。動作がいちいち大げさで芝居臭く、話の内容も実にくだらないものなのだが、反して優理の口元に浮かぶ笑みは白歯がキラリと光って見えそうなくらい爽やかオーラにあふれていた。ツラのいいヤツは得である。


 実際の“中身”を知る涼太からしてみればわりとお調子者でおっちょこちょいでもある優理なのだが……。しかし同時、いざという時の頭の回転の早さやセンスの鋭さなどには目を見張るものがあった。天才肌というほどではないかもしれないが、一見して躍動感に富み、陽気な人柄もあわせて他人をひきつける求心力がある、そんな人物性だった。(そして顔の作りも悪くないことから……周囲の評価はいわゆる“イケメン”と呼ばれる人種に相当するものだった)

 対して涼太の方はよく言えば精悍、悪く言えば無骨、そんな風情で、頭の回転もあまり優れたところがない。しかしこれがまた面白いところというか、状況の急変やイレギュラーな事態にも慌てて焦るといったところが少なく回転数が平常とあまり変わらない。

 それぞれに得手不得手があり、単独ではボロが出たり足りないところも大きかろうが、二人でコンビを組んでいる限りにおいては長所を伸ばしつつ短所を補い合えた。優理のお調子者めいた面があまり他人にマイナス点として知られていないのもこうした理由によるところが大きい……かもしれない。

(ちなみに“ブッ飛ばし”をする際の立ち回りも基本は似たような役割分担で、涼太が体格のよさを活かして相手の全体を押さえこんでいる内に、優理が遊撃手めいて素早く各個撃破していく、といったやり方が多い。別に何を狙っているわけでもないのだが華麗っぽく目立つのは優理の方で、涼太はどちらかというとフォロー役になる)


「……で、そこでまたブチきれですよ。あのな、お前らの――」


「あっ、おい後ろ! あぶねぇっ」


「――って言いたいだけじゃねーのって、うおおっ!?」


 ちょうど涼太の方を振り返っている最中で進行方向を見ていなかった優理が後ろ足を送る先に、電柱の影から棒状の何かが突き出していた。

 案の定、それに足を引っ掛けてしまい後ろ向きに倒れ込む優理だった。とっさに受身を取って頭を打つようなことはなかったようだが、危ない。


「……っててて。つぅ~、なんだこりゃ?」


「ほうき……か? なぜわざわざ逆さ立てなのか、これが分からない」


「意地の悪いトラップみてーな置き方しやがって……。つーか、なんか他にもごちゃごちゃ捨て置かれてるが、なんだこれ? 引っ越し騒動?」


 倒れこんだまま立ち上がらず、その場であぐらかいて座りこみつつ頬杖つくようにしながらボヤきだす優理だった。


「ああ、引っ越しとは言い得て妙かもな。テレビだのタンスだの古びた家電だのと」


「これって不法投棄じゃね? ここって別にごみ置き場でもなんでねーっしょ。あ、つーかオイ、このテレビ見てみろよ、うはっ、マジかこれっっ」


 まるで草(w)のたくさん生えて見えそうな笑い方で指差しながら腹を抱えだす優理。

 つられて涼太もその指の先を見る。そのテレビは、実に古びた十七インチほどの重たげな箱型で、つまりはブラウン管だった。それはまだいい。だが……


「な……手回しチャンネル式……だと?」


 驚愕。まさに驚愕。わなわなと震える声でおののかざるを得ない涼太だった。こんな太古の遺物を目にする機会など昨今では博物館くらいではないか? まさかそこらの道端で目にするほど市井に残存していたとは……


「こ、これがかつて冬のおとずれのたび、各ご家庭で“こたつから出て誰が回すのか戦争”を勃発させていたという、あの」


「伝説のガチャガチャさんここに降臨っ!! っすわ。でもまー、これだけで許せる話ではないなー」


 ネタ乗りする涼太に対し、合いの手を入れつつも冷めるのも早い優理だった。まぁ実際こんな不法投棄(だろう、十中八九)のせいで転ばされて痛い目みたのだから、ちょっと笑えるネタ一つ程度では感情が収まりきりはしまい。


 優理があぐら座のまま、片腕を突き上げるようにしつつ、強く声をあげだす。


「誰だー、ここに粗大ごみを勝手に捨てたヤツー! おかげで怪我するとこだったぞー! ルールを守れー! 謝罪と賠償を請求すっぞぉ~!」


 そのまま更に、突き上げた腕を大きく振り下げたり振り上げたりしながら続けて。


「あっやまれ! あっやまれ! 住民にあやまーれ! 町内会の皆さんにアヤマーレ! そしてオレさまにも――ってうぉっぷ」


 唐突に。

 本当に唐突に、調子こいて歌うように声を張りあげていた優理の顔の上に、本が。

 けっこう厚みのある辞典めいた書物が、ページを半ばで開いたような状態で、ばさり、と落ちかぶさっていた。


 たまらず優理が声をあげる。


「うぇっぺ、なんだこれ。おぃイ?」


 涼太も応じる。


「本……みたいだが。なんだ? どこから落ちてきた?」


 むろん涼太とて目を離さず優理の顔をずっと見ていたわけではない。まばたきした瞬間などもあるだろうから断言はできない。が……まるで脈絡なく()()()()()()()()かのような唐突感だった。

 高低差もおかしい。上から落ちてきたというなら、この場における一番高い位置の物というと、


「あのタンスの上の方くらい、か? だが別に戸口が開いてもいないし……角度的にも無理があるだろ」


「マジなんだこれ。追撃のなんちゃらでダメージがさらに加速するとかゆー系の新手のかんちゃら攻撃? ケンカ売ってんのかっつーの! しかも中身読めねーし」


 本のページをぺらぺらめくっている優理の手元を涼太も覗き込むと、たしかに知らない文字種で全く読めない。びっしりと、一種の象形文字のような、縦に見れば漢文の極めて古い書体のようにも、横に見ればアラビア文字のようにも見え、また幾何学的な図形や、高度な関数式のようなものも書き綴られているようだ。

 一見して何を目的とする書物なのかといったことがまったく了解できてこない。ただ見ているだけで脳が混乱するような感覚だけがそこにあった。長く目にしていると気分が悪くなりそうだった。


 そうした中身の難解さに反して、表面の装丁は簡潔的だった。

 革張りらしきしっかりとした作りの、渋い焦げ茶色のような深い紅色のような無地の中に、金細工のようなもので立体感のある彫刻文字が、豪勢ながらも短く太い一文として表紙に掲げられている。――世界門の書、と。またその下部には比べて細く小さな文字で副題らしき、「汝の望むように願うがよい」などといった添え書きもあった。


 本を閉じ、それらを見やった優理が、半笑いの体で言葉を述べている。


「なんだこれ、ハッ、どっかの厨二的発作症の創作日記? 黒歴史くせぇ~。世界門の書て、またありがちな」


「より正しくは邪気眼と呼ぶべきじゃないか? まぁどっちにしろ黒歴史ってのには賛成だが」


 そう普段ノリで返しながらも涼太は、妙な違和感に苛まれるかのごとくいまいちノリきれていなかった。何かがおかしい。なんだ? なにが()()()いる?


 そんな涼太の内心の葛藤など知るべくもなく、優理が仕方ないから冗談に乗ってやろうといった感じの失笑含みな声をあげる。


「望むように願えって? おーおー、上等じゃねーの。こちとら思春期真っ盛りの高校男子だぞこら、願望妄想幾百尽きまじ、叶えられるんなら全部叶えてみてほしーわ。なんだ? 呪文でも唱えんのか? たとえばこの手のアレだと――」


 そして優理はなんのかんのとあぐら座りしたまま、その本を両手で天へ突き出すように掲げて、息を大きく吸って声を張りあげだす。


「開け世界の門よ、そして我らの願いを――」


「まて、優理! 何かがおかしい――」


 とっさに制止しかけながら涼太は、ようやくにその正体に気づいた。

 優理が掲げた本の表紙が目に映る。その表題が――()()()()()()()? 中の記述と同じく知らない文字なのに!


 伸ばした片手の平を握りこむにも満たない数瞬間に、思考はそこへたどり着いた。

 だが実際に制止する声までは間に合わない――


「やめ――」


「叶えたまえっ! ……なーんつってね。そんなんで願いが叶うなら苦労ねーっしょ。これだから若気の至りは困る」


 などと言って肩をすくめながら、本を掲げていた手を下ろす優理だったが。

 ぱかん、とこれまた脈絡なく大開きになった本から、文字があふれ出す。ページが凄まじい勢いで()()()めくれていきながら、金色(こんじき)に輝く文字、図形、数式のような何かがとめどもなく噴出するように。


「え?」


「え?」


 どちらがどちらの声だったのかを分別する(いとま)もなく。

 あふれ出した文字群は、涼太と優理の周囲をぐるぐると高速に周回し、やがて螺旋を描きながら天へ昇るように、またその天頂から地の底へ下るように多重の構造を織り成すと。

 ひときわ強く金色の光を発して、二人の視界を埋め尽くした。




 閃光のおさまった後、その場に残っているものは、傍らに積まれた粗大ごみだけだった。

 何の因果か、幸か不幸か、その一連の騒ぎを偶然見届けた通行人などは、ただの一人もいなかった。

 2014年03月23日(投稿してすぐ)、あからさまな脱字があったので、そこだけ修正させて頂きました_(._.)_

 2014年03月31日、表現の足らない点を微修正させて頂きました。

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