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今夜は誰と  作者: 和希
秘密
1/2

1.

はじめまして。システムに慣れていないので、最初のうちは色々いじると思います。よろしくお願いします。

18時59分。スマートウォッチが振動する。


「すみません、7時になったので上がります! お疲れ様でした」


私はパソコンをシャットダウンして、通勤バッグを手に取った。


「お疲れ様、また来週ね」

「お先に失礼します」


まだ残業している上司と同僚に挨拶する。私の勤める会社は、滅多に残業はないが、月末月初になるとたまに残業がある。入社時にそういう話は聞いていたので納得はしているが、私はとある事情から、金曜日だけ早く帰らないといけなかった。


会社の休憩時間中にスーパーのチラシを確認して、夕飯のメニューは決めていた。今日のメニューはメカジキのムニエル。それに常備菜の煮物と汁物。短時間で作るから、そこまで凝ったものは作れない。


21時にはお客様がくるから、それまでに着替えや部屋の掃除などしておかないと……。

スーパーで目を付けていた特売品を購入し、急いで家に帰る。


「今日はどんなひとが来るんだろう。お口にあえばいいんだけど」


小さなテーブルの上に2人分の料理を用意する。

一つは私の分。もう一つはこれから来る誰かのために。


毎週金曜日、21時に私の部屋にはお客様が来る。

それは8年前から続いてる。


「こんばんは」


床の一部が金色に光り、長身の女性が現れた。

姿は人に近いけど、おでこから生えた大きなツノが人でないことを主張している。


「ここは?」


「ここは私の部屋。あなたが住む世界と異なる場所にある、ね。お腹空いてるでしょ。ご飯を用意しているから食べましょう」


「は?」


「お口にあえばいいんだけど……。魚は好き?」


女の人が腰にある何かを取ろうとした。

普段、その位置に武器を持っているということなのだろう。

だけれど、いつもの位置に武器がないことに気づいて、驚いている。その後、どうするつもりなんだろう。

こういう人は対処を間違うと面倒くさい。


「モナカ」


【なぁに?】


テレビを見ていたぬいぐるみが振り返る。


「なっ。精霊」


「この人に説明して」


【いいよ~。そこの竜人さん、ここは君たちが住んでいる世界とは違う世界なんだ。君たちの世界には魔物がいるだろう。でも、ここにはいないんだ。おまけに魔法もない。ちょっと不便だけど、平和な世界だよ】


「どういうことだ?」


【難しく考えないでよ。君たちが住んでいる世界と違うとだけ思ってくれれば十分だよ】


「納得できない。なぜ私はここに?」


【竜人さん、お腹空いてるでしょう。だから、この世界に来たんだよ】


「たしかに私は空腹だが、それがどう関係する? いくら希少な精霊とはいえ、容赦しないぞ」


【つんつんしてるなぁ。お腹空くと皆、イライラするよね。竜人さんが僕たちのことを傷つけようとしても、強制送還されるだけだからさ、冷めないうちにご飯食べちゃいなよ】


「説明になっていないではないか」


今日のムニエルの出来はまぁまぁ。一応スマホのブックマークに入れておこう。

今日は仕事終わりにゆっくり買い物ができなかったから、明日朝一でスーパーとドラッグストアに行かないといけない。来週の常備菜の食材と、洗剤を買わなきゃ。そういえば、水筒用のスポンジもなかったかも。ああいうのは予備を買っておいても、いつのまにか無くなってる。


余裕があれば百均にも行きたい。保存用のかわいい袋をいくつかストックしておきたい。

夕方に大学時代の友達と会うから、お昼前には帰ってきたいな。家のことちょっとやって、この間の動画の続きを見たい。数年前のドラマで、今人気の俳優が初主役を務めている。初々しい演技が新鮮で、ネットで話題になっている。


「こいつは何を一人でくつろいでいる」


食後のコーヒー淹れるころ、二人の話合いは終わったようだ。


「それで、竜人さんはご飯を食べるんですか? 食べないんですか? 食べないなら片づけたいんですけど」


「食べる。食べるが、ここはなんなんだ。お前もこの精霊もおかしい」


「私からしたら、あなたもおかしいですけどね。まあ、それはそれとして、ここでのルールの説明します。こちらの時間で午後9時になると、あなた方のいる世界から【お腹が空いている誰かが】この部屋にやってくるんです。午後11時になるか、やってきた誰かが、私かモナカに暴力を振るうそ素振りを見せるか、どちらかに当てはまると元の世界に帰ることができます」


「帰れるのか」


「はい。今まで数年間、この部屋にやってきた人はみんな帰れました」


「ここは何なんだ」


「さあ。私はただ、お腹を空かせている誰かのためにご飯を作っているだけなので」


「……説明になっていない」


【いいんだよ。ここはそれで】


犬のぬいぐるみのモナカが言う。


【ここはそういう場所だから】

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