2.
「竜人さん、この料理はお口に合う?」
「ああ。この平べったいのは魚か。久しぶりに食べたがうまかった」
「それは良かった。竜人さんは内陸の方の人?」
「今は山間の町を拠点にしている。それと私の名前はヘザーだ。竜人さんではなく、ヘザーと呼んで欲しい」
「分かった。ヘザー。私はミノリ。この精霊はモナカ」
ヘザーの名乗った竜人は料理をきれいに食べた。
「すごいな。異世界の住人は、精霊に名付けが出来るのか」
「名前はあるけど、ヘザーたちの世界の人が考えているのと違うと思う。元々精霊が宿っている、ぬいぐるみの名前がモナカだったの。それで、そのままモナカ」
モナカは立ち上がって、お辞儀をした。
「そんなこともあるのか」
「私はモナカしか知らないけど、どうも普通じゃないみたいね」
「ミノリは気にならないのか?」
「気にしたら切りがないから、気にしないようにしているの」
私はヘザーの分のコーヒーを入れた。輸入雑貨のお店で購入したチョコレートもつける。
「私ばかり質問して悪いが、ミノリは一人で住んでいるのか? ……その、ご家族や付き合っている人は? 毎週、異世界のものが来ているなら、迷惑だと思うが、どうにも受け入れているようで気になって」
「一人暮らしだから気にしないで。半年前まで付き合っている人はいたけど、今はフリー」
ヘザーはほっとしたようだった。
「この毎週金曜日に異世界の人が来るっていうの、場所が関係ないみたいでね。初めてヘザーの世界の人がこっちに来たのは、実家にいたときだった」
初めのころはモナカの言うことが受け入れられず大変だった。私の部屋やリビングだけでなく、お風呂場にも、あちら側の人は現れた。場所は関係ない。毎週金曜日、午後9時になったら、金色の光とともに現れる。
「それは大変だな」
「金曜日のこの時間に気をつければいいだけだから、もう慣れたかな」
たった2時間、耐えればいいだけだから。心の中で付け足す。
たまに変な人が来るけど、こちらに危害を加えようとすると、強制的に向こうに送られるので、身の危険はない。
「そうか」
話をしていれば、あっという間に時間が経つ。
間もなく11時になろうというときに、ヘザーのいる場所に金色の光が現れた。
「これは……」
「もうすぐ11時だね。バイバイ。ヘザー。また会いましょう」
「また?」
金色の光と一緒にヘザーが消えた。
また。
異世界からやってくるのは、【お腹を空かせている】という条件に当てはまる人たち。条件に当てはまれば、何回でも来ることができる。たぶんヘザーはまた来る気がする。なんとなく、そんな気がした。積極的に来ようとしないかもしれないが、条件にあえばきっと来る。
こちらに来たことのある人のなかには、あえて【お腹を空かせた】状態になっている人もいる。小腹が空いた状態でもいいらしいから、そんなに難しいことではない。
私に不思議な力があるわけではない。ただやってくる人のために、ご飯の用意をしているだけ。
特別なことはしていないと思っている。
こんな生活を続けて、8年が経つ。私が会いたいと思った人には会えないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
いつになったら会えるのか。本当に会えるのか。
モナカに何十回も質問したけど、はっきりとした答えは返ってこない。




