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長官の観察役 ~惚れ薬の実験ってどういう事ですか?~  作者: 樫本 紗樹
本編

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ポケットから何でも出さないで

 目くらまし魔法は私にとって結構難しい。雷に属する魔法だが、ただ光らせるというのが何故か上手く出来ない。


「カルラは複数属性を持ち合わせているが、雷とは相性が悪いな」

「そうみたいですね」


 生活魔法は火、風、水属性を使う。私は何故かこの三属性を一度に使うのが一番簡単に出来る。髪を乾かしたり纏めたりは余裕だ。多分タルトも上手に焼けるんじゃないだろうか。


「体調は悪くないのだろう?」

「えぇ、大丈夫です」


 昨日は妙に長官を意識してしまったけれど、今日は以前と同じ対応が出来ている気がする。憧れの人に教えて貰えるなんて幸せ作戦が、これ程上手くいくとは思わなかった。

 心が落ち着いているのに魔法が上手く使えないのなら、向いていないと諦めるしかない。単属性しか使えない国家魔導士もいるのだ。三属性使えるなら上出来のはず。


「いっそ私が使った氷結魔法の方が上手くいくかもしれない」

「それは失敗した時が怖いので嫌です」


 跳ね返りは多分計算が必要だ。長官は瞬時に頭の中で角度の計算が出来るのだろうけど、私はそんな高度な技術を持っていない。そもそも村娘は買い物に困らない程度しか計算を学ばない。基本的知識が私には圧倒的に足りないのだ。


「試していないとわからないと思うが」

「短期間に習得出来そうもないので遠慮します」


 そもそも往来で人を凍らせるって、魔力のない人からしたら怪奇現象だよね。目くらましなら証拠もないし、気のせいとも思え……ないほど長官の目くらましは眩しかった。あれは印象に残るかも。


「カルラの魔力なら雷も使えるはずなのだが。私の魔力が邪魔しているのかもしれない」


 長官の魔力? そういえば違和感の正体を聞きそびれていた。これ、長官の魔力なの?


「どういう事でしょうか」

「カルラの暴走を抑える為に体内に私の魔力を流していたんだ」

「覚えたての魔法を乱用したりしません」


 何て失礼な話。私は暴走するほど魔法を使おうなんて思っていない。


「いや、それはカルラを守るためのものだ。本来なら子供のうちに暴走を体験して覚えるのだが、カルラにはその経験がない」

「暴走しない人もいるのではないですか?」

「いないとは言わないが、稀だ。安全対策をする事は間違っていないだろう」


 そう言われると、そうかなって思っちゃう。だけど暴走ってどういう状態を言うんだろう?


「万が一暴走した場合、どうなるのですか?」

「カルラが自宅で暴走した場合、共同住宅が全焼して、周辺も巻き込む大火事になる可能性がある」


 は? 火事? 暴走すると火事なの?


「これは最悪の事態の話であり、火属性の暴走の場合はそうなるという事だ。風なら竜巻と同程度の威力だろうし、水なら浸水被害が出るだろう」


 何か急に自分が問題児のような気がしてきた。大丈夫なのか、私。いつかそのような大事故を起こして、見知らぬ人の命を大勢奪ってしまうの? 嫌だ、怖い。


「これを身に着けるといい」


 長官はポケットから金属の輪を取り出した。いつも思うのだけど、ポケットに何でも収納するのはどうかと思う。惚れ薬の瓶の時もそうだけど、破損の可能性を何故考えないのか。そんなに細い輪なら変形してもおかしくない。ってか、何だろう、あの輪。


「そちらは一体どういう物でしょうか」

「私が作った魔力暴走を抑える指輪型の魔道具だ。小指用にと思ったのだが、大きさの調整は可能だ。とにかく肌身離さず付けて欲しい」


 異性から指輪を貰うのは特別な感じがするのに、ただの魔道具にしか見えない。絶対にポケットから出したせいだ。せめて箱に入ってたら違っただろうに、そのままだし。何故その容姿で格好がつかないの。おかしくない?


「そのような細い輪で抑えられるのですか?」

「太い方が安定はするが、カルラは装身具をいつも付けていないだろう? だから極力邪魔にならないようにと細くしていたら時間がかかってしまった」


 そう言われるとユリエは指輪とか耳飾りとか、何だかんだ色々つけてる。よく見たら長官も指輪してるし。全く気にしてなかった。これは観察役失格案件じゃない?


「魔導士が指輪をしているのは普通ですか?」

「魔力を安定させる魔道具なら普通だな。ただの宝飾品なら好みの問題だが」

「長官の指輪は魔道具ですか?」

「そうだ。祖父の遺品で繊細な作業をする時には欠かせない」


 魔法石に転移魔法円を描き込むのは大変だ。それを補ってくれるのか。しかしヴィンフリート・シュタルク作の魔道具なのに全く気付かなかった。あれ? 私はやっぱり長官に興味ないのかな。好きだと思った気持ちは勘違いで、実験後問題なく上司と部下に戻れるんじゃない?


「ひゃっ」


 急に長官に手を取られて驚いた。心臓がバグバグする。考え事をしている時に手を触るな、手を! これは驚いただけ。絶対に驚いただけ。


「急に手を触らないで下さい」

「カルラが一向に受け取らないから」

「作り方を教えて貰えれば自分で作ります」


 長官の眉間に皺が寄った。だけど、これ以上長官から物を貰うわけにはいかないし、長官作の魔道具を私のお給料で買い取れるとも思えない。


「これはカルラの為に作った物だ。カルラが受け取らなければ使い道がないのだが」

「特殊な魔道具なのですか?」

「そうだ。持ち合わせている属性と魔力量を考慮して作成している」

「そのような事がわかるのですか?」

「カルラの体内に自分の魔力を流して調べたからわかる」


 そういうのは本人の許可がいると思う。どうして勝手に調べて作っちゃったのか。惚れ薬効果なのか、長官の常識がおかしいのか判断出来ない。

 それとも私が貧乏性なのをわかってて、捨てるなら貰うと言わせたいのかも。策士だな。いや、自分が単純なのか。わかってるよ、単純って。 


「とにかく身に着けて欲しい。暴走してからでは遅い。魔力は人の為に使うべきなのだ」


 長官が少し泣きそうな表情だ。確かに私が暴走して、近所の人々を怪我させたら大変だ。それで国家魔導士は危ない人と言われるのは心外だろう。ここは素直に受け取っておくしかないのか。何だか癪だけど。


「わかりました。身に着けます」


 掌を上に向けて差し出したのに、ひっくり返された。いや、だからまず手を触る許可を取ってよ。もういいけど。

 左手の小指に細い指輪がはめられると、長官が魔力を注いだのか少し輝いた後で綺麗に収まった。そして体内にあった違和感が消えたのは、どういう仕組みなの?

 それとこの指輪、抜けないんじゃないだろうか。関節より輪が小さくなっている気がする。よく見ると細いのに模様が入ってるわ。小さくてよく見えない。何だろう。


「この指輪、どうやって外すのですか?」

「外す必要はないだろう」


 長官が何を言っているんだという顔をしているが、それはこっちの顔だと思う。


「四六時中指輪をしておけと言うのですか?」

「暴走がいつ起こるかわからないのだから、それが当然だろう」

「水で錆びたりしないのですか?」

「魔法石で作っているのだから錆びるはずがない」


 また出たよ、魔法石。ってか金属にしか見えないんだけど、石なの? どういう事? 私の目がおかしいのかな。それとも私の知らない魔法石があるのかな。


「魔法石は魔力の流し方で姿形を変える便利な物だ」


 便利なのはわかるよ。戦争になるほど貴重なものだという事も。問題はそんな高級素材で指輪を作り、しかも外せなくしてしまった事にあると思うんだけど。

 今は惚れ薬効果があるからいいけど、解除薬を飲んだ後で揉めたりしないかな。返すだけならいいけど、傷付いてるから弁償しろとか言われたらどうしよう。


「代金はおいくらでしょうか」

「人の話を聞いていなかったのか。それはカルラの為に作った物だ。贈り物を売る馬鹿がどこにいる」


 いや、話は聞いていたけど。お金に困っていない長官が私に物を売るとは思えないけど。でも贈り物の指輪を普通はそのままポケットに入れないと思う。

 それにこういうのは困る。この指輪を見る度に長官を思い出してしまう。本当に上司と部下に戻る気があるのかな、長官は。それとも誰にでも自作の魔道具を配りたい質なのかしら。


「気に入らないか? ヴェラにおかしくないか確認は取ったのだが」


 長官が悲しそうな表情を浮かべている。だからさ、端正な顔立ちでそういう表情は卑怯だってば。まさか狙っているのか? 実は結構あざといのか?


「いえ。ありがとうございます」


 ここで長官を悲しませてもいい事なんてない。どのような意図でも、感謝の気持ちを笑顔で伝えるのが礼儀だ。

 長官の笑顔が眩しい。仕事中はほぼ無表情なだけに眩しい。でももうすぐ見られなくなるのか。何だか寂しいかも。

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