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09 ドライブ ①


 夕暮れも間近な流れる景色。

 頬を撫でる風が気持ち良い。

 俺が運転していないのはアレな感じだが、隣に乗るのはとりあえずは女子高生。

 しかもすんごい可愛い子ときたもんだ。

 レトロな車でのそんなドライブ。

 考え方によっちゃすこぶる至福のひと時……なのだが。


 その実、夏も迫る季節をクーラーもなく爆走する前世紀の車は窓を全開にするしかない。

 よって、風は優しく撫でてくれているというよりは、俺の髪を毛根から引き抜かんばかりに強く吹きつける。

 なので、次第に窓はクローズ……なんだけど、やっぱりやや蒸し暑い気もするので窓オープン。

 ガチャガチャ手錠の両手で手動の窓を開け閉め忙しい。


 そんな旧車の運転手は、目の保養にはうってつけだが免許取り立て。

 加えてロボ子なので、確実に『18歳』の年齢詐称で所得した物。

 だって、母たる『Alice』の誕生が”10年前”だからな。

 更に、俺を現在進行形で拉致している子でもある。

 普通に考えると楽しめないドライブだな。


「あの……レノちゃん。思ったより運転が上手くて、さすがヒューマロイドだな的安心な部分もある俺なんだけれども、 (不安な部分もあって)……この車どこに向かっているんだい?」


「あーあ、ほんと、災難だよ」


 ハンドルを握る相手からは、そんな愚痴? ような答えが返ってきた。

 失敬。俺とのキャッチボール感がないので愚痴のような独り言か。


 過剰な行動力(拉致)の他、元の性格を知らないのでなんとも言えないが、もしかして、ハンドルを握ると性格が変わる子なのかしら――などと思ったりしています。

 だって、さっきから誰に話すでもなく文句ばっかり言っているんだもの。


『なんで私、お店で左腕のメンテなんてやっちゃうかな。普段なら絶対しないのに……でも、調子の悪さが気になって仕方なかったんだよね……ああ、失敗したなあ……』


『慣れ……これが気の緩みなんだろうなあ……。あの時間のあの場所、しかも部外者が来るなんて相当確率低いはずなのに』


『でも、やっぱり確率は認識されてこそでしかないんだよね。事実に変わればそこにあったものが確かな可能性になるんだし……』


『約束守れなかったな……勝手に早退しちゃったし、もうあのお店には戻れないよね……』


『ああ、もう。なんで並んで走るの? 追い越しできないじゃない。ほんと、オートレーサーって自車の走行のことしか考えてないよね。後ろの私の事も思考ルーチンに組み込みなさいよ!』


 と、まあ、こんなブツブツ声がBGM代わりに流れていました。


「オーナーのずさんな性格とお店の管理が都合良かったけど、まさかそれが裏目に出るなんて……」


「あの、少しばかり質問いいでしょうか」


「でも、普通は従業員専用口コムデバイスが故障してても部外者の侵入なんて、そうそう無いないはずなんだけどなあ……私の学んだ人の心理学からすると異常な行動心理なはずなのに……」


「ええと、なんかすみません。異常な精神の俺でなんかすみません」


「何……何か言った?」


 キョトンとした眼差しが俺を見る。

 前を見てくださいと思いつつ、やっと興味を惹けたこの機会に「これからどこに向かうんだい?」と同じ質問を繰り返した。

 あと、現状を明確にさせる意図もあって、両手に未だハマる手錠をチャラリと鳴らしてみた。


「この車の目的地はここから一番近い、崖から海に落ちれそうな自殺の名所」


「ふーん……ふぬ? そこの崖から飛び降りるのが俺とかっていうオチじゃないよな!?」


「なるほど。悪くないアイデアですね」


 座席の合間から、クロムが割って入ってきた。


「ボクたちは人の命を奪えません。だからリョウ自ら死んでもらうというわけですね」


「ええ、そんなところ」


「でも、ムズかしいかもしれませんよ。リョウはこう見えて、潔さ良さもあまりない未練タラタラな性格の持ち主ですから」


「目隠しをすれば足を踏み外して落ちてくれるんじゃないかって考えてる」


「なるほど。対策プランはちゃんと用意されてあるんですね」


「Fプランまでしかないけど、たぶん問題ないはずよ」


 自殺話のおそらく主役であろうはずの俺を差し置いて、おおかた脇役のクロムとは意思の疎通はできているらしい少女レノ。

 

「なあ、自殺願望はこれっぽっちもなく言いたいこと盛りだくさんな俺から一ついいか。とにかく、前を見て運転してください」


 至極まっとうな俺の物言いに、運転手はため息を一つ。

 なんで「やれやれ」みたいな仕打ちを受けなければならなかったのか謎だが、レノは運転手としてあるべき姿勢に戻った。

 そうして、しばしの溜め。

 その後、俺に聞かせるようにして小さな珊瑚花ピンク色の唇を開く――のだが。



小さな文字「不安な部分もあって」。

環境によって機能しないらしいです。

だがしかし、ダガシヤ式ルビは無性に使いたくなる時があるのです。

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