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目の前の邪神から守るように、竜伸はかさねの体を抱き抱え懸命にその背中をさする。
「かさね、無理すんな」
口の端から滴る鮮血を着物の袖で拭いかさねは、悲しげに微笑んだ。
瞳から溢れた涙が頬を伝い、ぽとり、ぽとりと彼女の手の中の銅鏡に落ちる。
「竜伸さん……」
「そこの瓦礫の裏に隠れてるんだ。俺が、もう一度あいつを銃でぶん殴って隙を作る。
そしたら、女将さん達に――」
「……竜伸さんの……ばか! そんなこと……そんなこと出来る訳ないじゃないですか!!」
かさねの手の中の銅鏡が転がり落ちる。
邪神の方へと身を翻した竜伸を、かさねが背後から抱き止めた。
「死ぬ時は、一緒です!!」
「バカ! それじゃ、俺が来た意味無いだろう!!」
竜伸が言い返し、背後のかさねを後ろ手に押し戻そうとする。
だが、次の瞬間、邪神の手から、その邪なる意思が圧倒的な威力を持って放たれた。
圧倒的な破壊力に瓦礫が吹き上げられ、弛む事の無い滅びの詩が、歓喜の雄叫びをあげてふたりに殺到して来る。
体の表面全体を立って居られないほどの猛烈な轟音が容赦なく叩く。
(あっ! 銃が!)
ここまで一緒に戦ってくれた無言の相棒。
その体が、ぼろぼろと分解されていく。
(待て、待て、待ってくれ!)
だが、手の中の銃から次々に部品が脱落していく。
最後に無念そうに鳴った機関部の音を残して、相棒、三八式歩兵銃はばらばらの部品と化して後方へと吹き飛ばされて言った。
ちくしょう……俺の銃が……
でも、なんとか、かさねだけは……
そう思った瞬間目の前が真っ白になった。
(くそっ!!!)
……。
…………。
………………。
……………………。
…………………………あれ?
竜伸は、ゆっくりと瞼を開いた。
ふたりは、何事も無かったかのようにそこにいた。
かさねが、自身を抱き締める竜伸の肩越しにおずおずと顔を覘かせ、そのぱっちりとした瞳をきょろきょろとさせる。
だが、次の瞬間――――




