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「比売神さま!!!」
ふたりの前、瓦礫の向うに佇む小さな人影に向かってかさねが叫んだ。
竜伸が目をやるとそこには――――比売神さまが邪神からふたりを遮るように手を広げて立っていた。
ふたりを守るかのように、凛とした佇まいでそこにいた。
身に纏った黒いワンピースは、裾がほつれて穴が開き、千切れたフリルが床に垂れさがっている。
そして、辺りに漂う仄かな血の匂い。
手を広げて立つその小さな体は、微動だにしない。
と、背中に斜めに背負った『真心銃』のスリングが、ぷつり、と切れ――銃が、カシャン、と床に転がった。
「「比売神さま!!」」
ふたりの声に応えは無く、小さな女神さまは、ゆっくりと音も無く床に崩れ落ちた。
「比売神さま! 比売神さま!! 比売神さまぁぁ!!!」
身を乗り出し、狂ったように名前を呼び続けるさねを懸命に抑えつつ、竜伸は床に横たわる比売神さまを見つめた。
うつ伏せに倒れた小さな体。
ぼろぼろになった比売神さまお気に入りのワンピースドレス。
竜伸やかさねを見つめておひさまのように微笑んでくれたその姿は、もうそこには無かった。
かさねが竜伸のシャツの胸に指を喰い込ませ、声を震わせ泣き出した。
(比売神さま……)
小さな女神の持つその名前が胸の中で徐々に大きなこだまとなって竜伸の魂を揺さぶる。
比売神さまは……比売神さまは、俺たちのために……俺たちのためにその身を楯にした。
かさねのために、竜伸のために、ふたりのために。
(比売神さま……比売神さま!!)
食いしばった歯も、きつく閉じた唇も、もう抑えることはできない。
竜伸は――――逆上した。
かさねを背後に押し込むと、前へと走り出す。
比売神さまの体の脇に転がった神器『真心銃』を掴み、邪神を睨み据えた。
力いっぱい握り締めた竜伸の手のひらを激痛が苛む。
金村比古神が言っていた。
神器は人が使う物ではない。
比売神さま程の神の使う物ならなおさらで、命にさえ関わります、と。
瓦礫の上を転げるようにして這い出て来たかさねが、竜伸の腰に縋り付いて懸命に叫ぶ。
「竜伸さん! やめて下さい!! 無茶です!!」
(かさね……ごめんな。これだけは譲れねえよ)
竜伸は、噛み砕きそうになるほどの力を込めて奥歯を食いしばりつつ『真心銃』を構え続けた。
銃を握る手から、どす黒い血がぽたぽたと滴っている。
じゅう、と言う何かが焼けるような音も聞こえて来る。
竜伸を制止するかさねの声が泣き声になっていた。
だが、竜伸は己を苛む痛みがどれほどであっても、今なら無視できる。
それ以上の痛みが、彼らふたりの目の前に横たわっているから。
それ以上の悲しみに、世界で一番大切な女の子が涙しているから。
竜伸は、腹の底から叫んだ。
「邪神! てめえは、俺が鎮める!!」
だが、その時、竜伸の視界を何かが横切った。
吹き抜ける一陣の風にかさねが歓声を上げた。
「女将さん!」
比売神さまを抱き抱えた女将さんが竜伸達の横に音も無く降り立った。




