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………………。
「無茶だよ、竜伸くん!!」
「竜伸さん……」
「竜伸兄さま!」
「「…………」」
「無茶なのは、みんなの話を聞いて分かったつもりだ。でも――」
竜伸は、皆の顔を順に見つめ、最後に腕の中のいちかの瞳を見つめて言った。
「俺は、そのためにここに戻って来たんだ。かさねを、女将さんを、比売神さまを助けたくて、みんなの役に立ちたくてここに来たんだ。俺を助けてくれたみんなの役に立ちたい――」
そこまで言って、いや、と竜伸は大きく息を吸い込んだ。
「かさねの事が、みんなの事が……金色堂とこの世界の事が、俺は好きなんだ。大好きなんだ!!
だから、なんとしても俺は守りたい!
みんなは、俺のかけがえの無い仲間だから。
金色堂ミルクホールは、俺のかけがえの無い居場所だから」
「竜伸くん……」
じっと竜伸の顔を見つめ、その言葉に聞き入る皆の代わりによやいが振り返って、にっこりと微笑んだ。
「やっぱり、竜伸くんもかさねちゃんの事が好きなんだねぇ」
「え?」
「私、聞いちゃったよぅ」
「へ?」
「みくもも聞きましたー」
「……はぁ、かさねちゃん取られちゃった」
「かさね姉さんの『想い人』って、まさか……」
(ええと……)
思わぬ指摘と反応にたじろぐが、竜伸としては偽らざる本心なのだから仕方が無い。
まあ、それでも面と向かって言われるとかなり恥ずかしいが。
「えーと、その……俺、言ったっけ?」
「「「「言ったぁ!!!」」」」
「竜伸さん、私もしかと伺いました。かさねさんの事が好きだと。
そして、この世界の皆を好きだとおっしゃって下さいました。そして、そんな皆を守りたいとおっしゃって下さいました。嬉しゅうございましたよ、竜伸さん。
私も竜伸さんと同じ気持ちです。私も皆さんやこの世界をお守りしたい。なれば――」
金村比古神は、竜伸をまっすぐに見つめて言った。
「あなた様とともに戦うのが、神であり敷島屋両替屋分店の支配人である私の務めでございましょう。皆さまは、いかがでございますか?」
金村比古神の問いに一同は顔を見合わせて破顔する。
「竜伸くんらしいねぇ……」
「竜伸兄さま、ステキです!!」
「かさねちゃんが、惚れるはずだよね……グス」
「いちか姉さんたら……」
少女達は、涙を拭って笑みを交わす。
やよいが、背中越しにいちかの脇にいる例会の少女に言った。
「なつきちゃん、テントの脇に置いてある包み分かるかなぁ?」
「あの、細長い?」
「うん。それを竜伸くんに渡してもらえるかなぁ」
なつきは、勢い良く立ち上がり、その包みの元へ。
程なく、なつきが見覚えのある細長い包みを持って戻って来る。
竜伸の胸の内を読んだかのようにやよいが微笑んだ。
「手ぶらじゃ戦えないよぅ。って、言っても、持って来たのはかさねちゃんなんだけどね。いつの間にかその包みを抱き締めてて……ふふふ」
包みを取るのももどかしく竜伸は、中身をその手に取った。
三八式歩兵銃。
竜伸の物言わぬもうひとりの相棒。
(かさね、比売神さま、女将さん……。すぐに行く! 待っててくれ!!)




