[85]
「やよい」
と、竜伸が呼び掛けた声に金村比古神が、一端待ったを掛ける。
「竜伸さん、その前に銃をお貸し下さい」
竜伸の手から三八式歩兵銃を受け取ると何か呪文を呟きながら、銃の状態を丁寧に点検していく。最後に機関部が神の手の中で小気味のよい音を立てた。
「竜伸さん。銃の調子は万全です。必ずや、竜伸さんと皆さんをこの銃が守ってくれるでしょう。ですが、竜伸さん……」
金村比古神が竜伸に銃を返しながら、その双眸をまっすぐ竜伸の瞳へと向けて言った。
「御無理は禁物です。邪神を鎮めるよりも皆さんと竜伸さんが生きて帰って来る事を優先して下さい。……私が、小宮浜比売神さまのように皆さんと共に戦場で戦う神であればよかったのですが、昔から裏方としてでしか戦う事の出来ぬ神でございましたゆえ……」
「……?」
「竜伸さん。これは小宮浜比売神さまや敷島屋の者以外はほとんど知らぬことですが……実は、小宮浜比売神さまが『日女の乙女』を祀る神であるのに対して、私はかつて『鉄砲撃ち』を祀る神だったのでございますよ」
竜伸のみならず皆が息を呑む中、金村比古神は静かに言葉を続けた。
「最後の鉄砲撃ちを見送ってより今日まで、私がどんな思いで生きて来たか、そして、竜伸さんに再び巡り合った時、私がどれほど嬉しかったか……誰にもわかりますまい。竜伸さん、必ず生きて皆さんと一緒に帰って来て下さい。私からのお願いでございます――」
どうか――と年老いた神は、竜伸の手を握り締め涙を流した。
金村比古神さま……。
皆の口から漏れた声に竜伸はゆっくりと頷き
「ええ。必ず皆と一緒に生きて帰って来ます。約束です」
金村比古神の手を握り返し、竜伸は強く頷いてみせる。
そして、皆の顔を最後にもう一度順に見てからやよいの背中に向けて言った。
「じゃあ、やよい頼む!」
「了解! じゃあ、結界を少しだけ開くね。…………竜伸くん」
「うん?」
「必ず生きて返って来てね。約束だよ。みんなで、みんなで一緒に……」
竜伸は銃を背負うと、やよいとみくも、いちか、そして金村比古神ともう一人の乙女なつきへ向けて親指を立てて見せる。
「ああ。みんなで金色堂へ帰ろう!!」
やよいは大きく頷くと祭文を唱えた。
扉に付けられていた錠前達が音を立てて外れて行き、貼られていた呪符達が花弁のように宙を舞う。
――――扉がゆっくりと左右に開いた。
「竜伸くん!!」
「竜伸兄さま!!」
「竜伸さん!!」
「竜伸くん……」
「頑張って下さい!」
皆の声を背に竜伸は勢いよく中へと飛び込む。
前方の暗がりへ目を向けもう一枚の両開きの扉に手を掛けた時、背後の扉が音を立てて閉まり、いくつもの錠前が次々に掛かる音が聞こえた。




