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竜伸の問いに女将さんはやさしく微笑みながら首を振った。
「いいや、おまえさんは死んでなどいない。ここにいる皆、ちゃんと生きている人間さ。死者の国ってのは、あくまでおまえさんの世界での呼び方で、別に本当の死者の国という訳じゃないのさ。まあ、この言い方じゃ誤解してもしょうがないね」
女将さんは、身を乗り出すとテーブルの上に置かれた竜伸の冷え切った拳に両手を添え
「安心おし。おまえさんは、ちゃんと生きているよ」
竜伸の目を見つめて言ってくれた。
(俺は……生きている? 確かに死んでるとは思えないし……。でも、それじゃあ、ここは本当に……本当に?)
問い返すように視線を向けた竜伸に女将さんは、ふたたび頷いてみせる。
竜伸の心の葛藤を見透かすかのように女将さんのその瞳は、暖かな光を帯びて竜伸を見つめていた。
「分かりづらい事を言っちまってすまなかったね。でも、言葉も含めてありのままに話した方がいいと思ってね。つまり、呼び方はなんであれ、ここはおまえさんの暮らす世界とは別の世界という事さ」
「別の世界……に俺はいるんですか?」
「ああ。例の祟り神がおまえさんを連れて来ちまったのさ」
「それって……」
「おまえさんの世界では『神隠し』と呼ぶらしいね」
「………………」
「かさねを助けてもらったのにこんな事になっちまってすまないと思っているよ。謝ってどうなるもんでもないけど……堪忍しとくれ。この通りだ」
礼を言ってくれたときよりもずっとずっと深く女将さんは頭を下げた。
(そういうことだったのか……)
竜伸は、一人胸の中で何度も頷き、その一方で思った。
(かさねが言いづらそうにしていたのはそのせいだったんだな……)
そのかさねは、と見ると申し訳なさそうに竜伸を見つめている。
しょんぼりと肩を落とし、その瞳にはうっすらと涙が光っていた。
それは、彼女が必要以上に責任を感じ、自分のせいで竜伸をこんなめに合わせてしまった、そんな風に自身を責めているからに違いない。
と――涙が一筋、かさねの頬を伝った。
横でその様子を見ていたやよいがそっと席を立つと、かさねに歩み寄り、片方の手でその肩を抱き、もう一方の手で膝の上で堅く握られたかさねの手を握る。
そんなに自分を責めないで――かさねの顔を見つめるその表情から、そんな気持ちが痛いほど滲み出ていた。
その思いは竜伸も同じだった。
よし、と声に出さずに竜伸は心に決めた。
これ以上落ち込み、思い悩む事は誰かを苦しめるだけだ。それに、悩んで何とかなるような問題でもない。ここは、一発、前向きな言葉が必要だろう。
たとえ、それが空元気と呼ばれる物であったとしても。
「女将さん、俺はどうしたらいいですか? 元の世界に帰る方法はないですか?」
言葉の内容が前向きどうかは微妙だが、竜伸の精一杯の空元気は、女将さんには通じたらしい。
女将さんは、うーん、と唸りつつ口を開いた。




