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竜伸は、黙って女将さんの顔を見つめた。
否、黙って、とういうのは正確ではない――――あまりの事に声も出なかったのだ。
(黄泉の国……)
口の中で、たった今耳朶を震わせたその言葉を反芻する。
それは、日本神話――古事記に記された言葉。
生ける者が足を踏み入れてはいけない地の事。
死したる者の国、命無き者達のみが存在を許された世界。
それが、古事記の語る『黄泉の国』だった。
そして――――。
そこに、その世界に竜伸はいるのだと目の前の人は言っている。
冗談――――。
には、とても思えない。
女将さんの表情は、真剣そのものだ。
それに、この店に来る前に見た光景が明らかに異様だった。
『懐かしい街並み』
『レトロなデザインの路面電車や自動車』
『古めかしい服装の人々』
つい、さっき目にした物達が走馬灯のように脳裏を駆け廻る。
――そう、あれは幻などでは断じてない。
これはまぎれもない事実なのだ。
『現実』なのだ。
――――信じられないような体験の行きついた先がこれだと言うのか?
背中を冷たい汗が伝う。
つまり、ここは……。
そして、俺は…………。
………………。
走馬灯のように家族の顔が目に浮かんだ。
父さん、母さん、ばあちゃん。
そして、双子の姉のあおい。
もう、二度と逢えないのだろうか。
膨れ上がる不安を何とかこらえて竜伸は言葉を紡ぐ。
もう、『僕』などとは、言っていられそうもない。
「俺は……死んだんですか?」




