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月下の襲撃者

 そう言うと、屋上の何者かは飛び下り、音も無く着地する。

 やっと、その容姿が見て取れた。

 女性だ、それに若い。腰の上までに流れる金髪と、澄渡る海のような碧眼(へきがん)が目を引く少女だ。

 揺れる金髪が月明りに照らされて輝いている――いや、髪そのものが光を放っているような……。

 ――どこかで見たような気がする……。

 不思議とそんな気がした。この既視感(きしかん)は一体どこから来るものなのだろうか……。

 そういえば、最近やったゲームにこんなヒロインがいたっけ……。

 「あっ……」

 少女と視線が合った。少女もこちらを見ていたのだ。

 少女は俺の視線に気付くが、無表情のまま、目をそらす様子は無い。

 なんだろう、気恥ずかしいというか何というか……。思わず後ずさってしまった。

 これまでの人生で、異性に見つめられるという経験は皆無だ。

 しかも相手が外国人で美少女となると……変に緊張する。

 俺の対人スキルではこの状況には耐えきれない。なんとかしないと……。

 「えーっと……」

 俺は何か言おうとする。

 ――そうだ、まずは彼女が何者かを()くべきではないか。

 この風貌(ふうぼう)といい、四階建ての屋上から着地する芸当といい、普通の人間ではないことは明らかだ。



 「君は、何者なんだ?」

 俺は意を決して訊いた。

 すると、無表情を決め込んでいた少女が大きく目を見開いた。

 そして、キッ!と俺を(にら)みつけた。

 あれ?何かまずいこと言ったっけ……。

 「あんたが吸血鬼ね……」

 俺はさらに困惑する。少女は俺を吸血鬼だと決めつけたのだ。

 そういえば、そんなことを言っていたような……。

 おい、待てよ。吸血鬼ならここに、コロナがいるじゃないか!何で俺なんだ!?

 「《アーム・オン》」

 俺の困惑をよそに、少女が発したのは『短縮詠唱』だった。

 普通の人なら、ただの英単語の組み合わせにしか聞こえない。

 だが、魔法使いの息子である俺にははっきりと(わか)る。彼女は何らかの魔法を行使した。

 次の瞬間、少女の右手には一振りの刀が握られていた。

 どうやら、今の魔法で取り出した物のようだ。それで、何をするつもりだろうか……。

 少女は俺に歩み寄ると、刀を振りあげた!

 


 「はぁっ!」

 「うあっ!?」

 振り下ろされた一閃を、俺はぎりぎりのところで回避に成功した。

 「よせ!俺は吸血鬼じゃない!」

 「ふん!そんなことを言っても逃がさないわよ、もう反応は出ているの!」

 少女は聞く耳を持たず、また刀を振り上げる。

 「それだったら、俺じゃなくてこいつだよ!」

 「何だ、(わたし)がどうかしたのか?」

 少女はコロナを一瞥(いちべつ)すると、刀を振り下ろしてきた。

 「お、おい!聞こえなかったのか!こいつが吸血鬼なんだって!」

 「はぁ?こんな可愛い幼女が、残忍で冷血な吸血鬼なわけがないでしょ!」

 「だからっ!こいつがその吸血鬼だって言ってるんだよ!ていうか、コロナも何か言えよ!」

 「ふむ……仕方が無いな……」

 そう言うと、コロナは地面に横たわる直人に近寄った。そして、(かが)んで直人の首に口をつけた。

 「んっ……んんっ……ぅぅじゅるっ!はぁ……。これくらいでいいか」

 吸血を終えると、コロナは少女に向き直った。

 「どうだ、これで妾が吸血鬼であるということは証明されたぞ。それでもカナタに危害を加えるつもりか?」

 「……わかったわ」

 少女はそう言うと刀を下ろした。

 これで何とか、俺の命は助かったようだ……。

 「それで、どうする?妾ならもう準備は整っているぞ」

 ふと、コロナが言う。

 それが少女に対する宣戦布告であることを理解するのに数秒かかった。

 「そうね……そういえば、あたしの目的は貴女を討伐することだったわ」

 俺が理解したころには、少女は目的を思い出していた。

 ――いやいやいや!何してくれるんだよ、コロナ!せっかく相手が剣を収めたっていうのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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