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第1話 入学式


 朝。


 目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


 カーテンの隙間から差し込む朝日を眺めながら、雛はゆっくりと身体を起こす。


 壁に掛けられた制服へ視線を向けた。


 昨日受け取ったばかりの華薗学園の制服。


 今日から高校生になる。


 実感はまだ薄い。


 それでも少しだけ楽しみだった。


 制服を手に取り、初めて袖を通す。


 鏡の前に立つと、見慣れない自分の姿が映っていた。


 少しだけ違和感はある。


 だが悪くない。


 襟元を整え、小さく頷くと部屋を出た。


 リビングには既に朝食が並んでいた。


 焼き魚に卵焼き、味噌汁と白米。


 香りだけで腹が鳴りそうになる。


「おはようございます」


 キッチンから銀髪の女性が微笑んだ。


 紫亜だった。


「おはよう」


 席へ座る。


「本日から高校生ですね」


「うん」


「楽しみですか?」


「少しだけ」


 そう答えると、紫亜はどこか嬉しそうに微笑んだ。


「それは良かったです」


 雛は箸を手に取り朝食を口へ運ぶ。


 美味しい。


 いつも通りの味だった。


 高校生になっても、この家の朝は変わらないらしい。


 それが少しだけ安心できた。


 食事を終え、鞄を持って立ち上がる。


「行ってきます」


「はい」


 紫亜は頷いた。


「お気を付けて」


「分かってる」


「学校名は確認しましたか?」


「した」


「本当に?」


「したって」


 何故か不安そうな顔をしている。


 雛には理由が分からなかった。


 玄関へ向かおうとして、ふと足を止める。


 部屋の隅に置かれた小さな仏壇。


 そこには一枚の写真が飾られていた。


 母だった。


 雛は静かに手を合わせる。


「行ってきます」


 短く告げて立ち上がった。


 それから玄関の扉を開け、新しい一日へ踏み出す。



 今日から通う高校は華薗学園。


 スマホの地図を確認しながら歩いていると、やがて大きな校門が見えてきた。


「着いた」


 ほっと息を吐く。


 初日から道に迷わなくて良かった。


 そう思いながら校門をくぐった。


 だが、すぐに違和感を覚える。


 制服が違う。


 校舎も思っていたより古い。


 何より生徒達の雰囲気がおかしかった。


 校門の近くで座り込んでいる生徒。


 大声で騒いでいる集団。


 金髪や坊主頭の生徒も珍しくない。


 雛は首を傾げた。


 地域性だろうか。


 そんなことを考えていると、不意に声を掛けられた。


「おい」


 振り向く。


 金髪の男子生徒だった。


「何?」


「その制服」


「うん」


「華薗学園だろ」


「そうだけど?」


 男子生徒は呆れたような顔で校門を指差した。


「ここ花園学園だぞ」


「え?」


 雛は固まった。


 スマホの地図を確認する。


 校門を見る。


 そしてもう一度スマホを見る。


 数秒後。


「あ」


 字が違った。


「マジで?」


「マジだよ」


「間違えちゃった」


 慌てて時計を見る。


 顔色が変わった。


「やばい」


「何が」


「入学式」


 開始時間まであまり余裕がない。


「急がないと」


 踵を返した、その時だった。


「待てや」


 別の声が響く。


 いつの間にか周囲には大勢の不良達が集まっていた。


「好き勝手やって帰れると思ってんのか?」


「何もしてないけど?」


「ナメてんのか?」


「言葉通じてる?」


「うるせぇ!」


 話にならなかった。


 雛はもう一度時計を見る。


 残り時間はさらに減っている。


 本当にまずかった。


「あーもう」


 頭を掻く。


「急がないと入学式終わっちゃう!」


 そう言って走り出した。



 その後方。


 花園学園の校庭にいた不良校生徒は全員倒れていた。


 一人残らず。


 先ほどまで雛を囲んでいた不良達も。


 この学校を仕切っていた総長も。


 全員。



「やばい!」


「絶対遅刻する!」


 雛は華薗学園へ向かって全力で駆けていた。


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