表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明の向こう側  作者:
94/115

94

 ホテルの部屋に入ると真由は「お腹いっぱい、ごろっとしたい」とベッドに飛び込んだ。「食ってすぐ寝たら牛になるぞ」と言いながらも正一が動きを封じるようにまたがって乗りかかると、うつぶせに寝転んだ真由の背中は荒々しくシャツを捲り上げられて正一の舌が這い回り、手は下にもぐりこんで胸を揉みしだく。「ショウちゃん重くなったんちゃう?幸せ太り?」とからかうと「それは嫌味か」と低い声で半ば本気で怒る。「相変わらずなん、奥さん」「あいつは一生あんなんじゃろ。こないだも女からの電話に勝手に出やがった」「変わらへんなあ」相変わらず嫉妬深い妻にも、懲りずに浮気を繰り返す正一にも苦笑しかできない。「なんであんなにネバネバしとるんかな」「ショウちゃんがそうさせてるねん。今日も疑われてるんちゃう?」「電話の電源切っとる」「それ絶対後で問い詰められるな」「でも酒飲んだら運転できんし、夜中に運転するのは眠うなるから嫌いや」「違うな、私に会いたいからや」「あほか。お前の乳が好きなだけや。俺の知る限り一番巨乳じゃ」「正直に言えばいいのに。真由好きやでって」「どの口が言うか」そう言うとぎゅうっと頬をつねられた。「いってえ、そんな力いっぱいつねらんでもええやん」いつまでも軽口を叩き続ける真由にいい加減うんざりした正一はくるりと真由の体をひっくり返すと破ってしまいそうな勢いで荒々しく身ぐるみを剥ぎ「だいぶたるんできたな」などと悪態をついて豊かな乳房にむしゃぶりつき、今度は乳首をきゅっとかんで真由に小さな悲鳴を上げさせた。

 帰宅したのは〇時過ぎだった。真由は正一と会っても泊まってゆくことはないし、彼も引き止めない。人と一緒だと真由がちゃんと眠れないことを彼はよくわかっているからだ。いつも「しっかり寝るんやぞ」と見送られる。彼にもずいぶん心配のかけどおしだな、と申し訳なく思うと同時に、いつまでたっても思いやってくれることがありがたかった。愛情ではないが、確かに彼との間にはなんらかの好意は存在している。パソコンの電源を入れると、美樹からメールが来ていた。待ち合わせの時刻と場所が書かれていた。顔文字がふんだんに使用されていて、今にも「めっちゃ楽しみ」と浮かれる美樹の声が聞こえてきそうだった。JAMANIAのツアーファイナルと言えば、退院した有薗から送られてきたチケットで行ったのが最初だった。あの頃はまだ有薗がJAMANIAのSONOとはまったく気付いていなかった。そしてその夜、バーで酒を飲み交わしたのが有薗との"友達"の始まりだった。ついさっき、昔の男に抱かれたが、今更その行為に何の感動もときめきもない。なのに今、有薗のことを思うだけで胸が高鳴る。彼の仕草、彼の声、彼に触れられたことを思い出すと、いや、思い出そうとするだけで体が火照るように熱くなった。その瞬間、複数の男と寝る乱れた自分をたまらなく恥ずかしく感じた。たった今、妻のある男と惰性の関係を結んできた体がとてつもなく汚らわしく思え、慌ててシャワーを浴びて念入りに、ただひたすら正一の粘液や臭いを消し去ろうと皮膚をこすり続けた。自分にもこんな感情があったのかとただ驚くばかりであった。一切の感情とともに恥じらいもなくしたと思っていたのに。いや、恥じらいや嫉妬なんて女性らしい感情は持ち合わせていないとさえ思っていたのに。今までどんな男にもこんな思いをしたことがなく、知らない自分を発見してなすすべもなく困惑するばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
**ランキング参加中**
NEWVELに投票
ブログにて更新情報を掲載しています。
不透明人間
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ