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席に着くとすでに美樹たちは揃っていて楽しそうに話し込んでいた。美樹が真由に気付き、顔を上げると「今日は間に合ったね」とほっとした表情を浮かべた。「うん、美樹は仕事やったんやろ、お疲れさま」と声をかけると「疲れ吹っ飛ばすで!」とぐっと表情を引き締め、声にも力がこもって意気込みを感じさせた。「ステージ近いね」「ライブハウスのときくらいの距離で見える。やっぱりJAMANIAはこれくらい近いのがいいわ」と口々にステージとの近さを喜んでいる友人たちに真由は「東京は二階席で見たけど、十分すぎるほど楽しかったよ」と距離など関係なく彼らのライブは楽しいんだと伝えたくてつい言葉にした。「お客さんの盛り上がりがすごくてね。後ろの方にいても熱気が伝播してくる感じだった」「ファイナルって行ってみたいな。今回はいつやっけ?」とふいに美樹に問われ「来月の末くらいじゃなかった?今回のはチケット売り切れてるでしょ」と何気なく返事をすると思いがけずさらに「オークションに出てないかな」と真剣みを帯びた調子が帰ってきて驚いた。「本気で言うてるん?」佳奈も驚いたらしくそう言って美樹の顔をまじまじと見た。美樹は佳奈にうなずき返すと顔を真由に向けなおし「もしチケット取れたら一緒に行ってくれる?」と半ば懇願するような表情を見せた。東京まで遊びに行くとなると独身で気楽な真由しかない。当然の選択肢だがJAMANIAを追いかけて東京まで行くとはちょっと現実的に考えにくい。とっさには返事ができず「本気?」と訊き返すと「言いながら本気になってきた」とひしと訴える美樹の眼差しに真由はうかつなことを喋ったと自分の言葉を後悔した。美樹のJAMANIAへの思いいれ、熱さ、知っていた筈なのに。
会場が闇に包まれ、一瞬の静寂に満ちたかと思うと次の瞬間にはまばゆいばかりの照明がステージを照らしてJAMANIAが姿を現し、心臓にダイレクトに響く大音量で音楽が始まった。心の中で真由は「あっ」と叫んでいた。SONOは約束どおり、白のパナマ帽を被ってステージに立っていた。「僕は嘘をつかない」と言った彼の言葉は証明された。大音量にまぎれて「あの帽子を選んだのは私!」と叫びたいくらい嬉しかった。ほぼ真っ白に近いオフホワイトの夏向きのスーツによく合っていた。次々と曲が変わり、観客がほぼ総立ちになった頃、MCになった。「神戸のみなさん、こんばんはー」大阪のときの熱いMCとは異なり、明るく軽快な喋り出しである。「初のホールツアーってことで実はちょっと緊張しています。国際会館でやれるなんて嬉しすぎて涙が出そうなほどなんだよね。満員だしみんなノリいいし、嬉しいよ、ありがとう。メンバーもみんなそうだよな?」清水の問いかけにメンバー全員がうんうんとうなずいてみせる。「増岡は初めてプロとしてトランペット吹いたのがこの国際会館なんだよ」そう話題を振られて増岡が「ものすごく思い出深い会場です。涙で前が見えません」と応じて会場を沸かせた。「ではその増岡から神戸に捧げる一曲」と増岡のボーカルによる曲が始まった。彼の熱唱が終わると大阪同様「増岡さーん」と黄色い声がたくさん飛び交った。
興奮の渦が席巻するかのような本編が終わって束の間の休息を取りつつアンコールを待つ手拍子を送りながら真由の心では不安と期待が入り混じっていた。『愛』は大阪では遅刻した真由が聞き逃すほど早くに演奏されたのに、今日はまだである。アンコールへ持ってくるのか、それともカットされたのか。有薗は昨日「明日もやる」と言っていたから、セットリストには予定されていた筈である。そこへ手拍子に応えながらメンバーがステージに再び姿を現した。わっと歓声が起こり拍手や指笛で会場中が熱い歓迎をする。JAMANIMALSで再びドカンと盛り上げるとひと息つくように間を置いて、清水がマイクを引き寄せて一言「みんなありがとう」と笑顔を弾けさせた。ツアー中のエピソードとして、宿泊先で二日酔いのくせに早朝からジョギングに出かけたKOUが迷子になってしまったことを明かして客を笑わせたかと思うと、真面目な調子で今回のホールツアーが今のところ成功していてメンバーもスタッフも充実していることなどひとしきり話してから「じゃあここでメンバー紹介」と各メンバーを紹介した。有薗は「昨日は神戸の夜景と星空を堪能しました。すごく素敵な街だよね。神戸が大好きです」と言って地元の客を喜ばせた。真由ももちろん嬉しかったし、美しい夜景と星空をともに堪能したのがほかならぬ自分であることの幸福感がじわりと体を熱くした。そしてアンコールの二曲目に『愛』が登場した。CDで聴く音など比べ物にならない情熱的な愛が爆発するのを感じた。
去年の誕生日にライブをプレゼントしてくれた彼なら。今夜、真由が好きだと言った『愛』が大阪と順序を違えてアンコールにきたのももしや、と期待してしまう気持ちをどうして抑えられようか。




