セントバレンタインの玉砕
バレンタイン習作でした。
ちなみに今年もバレンタインはチョコ貰っていません。
私の名は桔梗というのだけれど、私はその名前の持つ花言葉を当然のように気に入っている。
桔梗は「変わらぬ愛」を意味するの。
そして、それが星のように花咲いた時「誠実」という意味にもなるし、つぼみがおもいきりに膨らんだ時「従順」という事だって加わる。
嗚呼、我ながら何て素敵な名前なんでしょうか!?
そして私は、その花言葉のような、まるで「変わらぬ愛」と「誠実」さ、それに「従順」さを真弓先輩に捧げるの!!
先輩には私がピッタリのはずだわ。だってだって、
真弓先輩は剣道部の主将。
私は乙女剣士。
真弓先輩は成績優秀スポーツ万能。
私は……、まぁそこそこ。
真弓先輩は部の皆から尊敬される先輩。
……私は、乙女は恋して美人になるのよ!
そして今日は、女の子の祭典ヴァレンタイン・デー。
待ちに待ったこの日っ。
それなのに、臭いし狭いし、暗い。剣道部の部室のロッカーに潜むなんて。
でもでも、先輩との思い出はもうあと、ひと月とちょっとで終ってしまう。
先輩が卒業してしまったら、もうなかなか会う事できないもんね。
いいえ、もちろん先輩と同じ高校を受験して、もちろん受かるつもり。
でもその空白の一年に、何があるかなんて判らないんだわ。少しでも先輩を私に振り向かせる思い出、作らないとね!
だから私は躊躇なくこんな事が出来たんだと思うの。
今日が、最初で最後のチャンス。私学に進む先輩は自分の受験が終ったら、また部活に顔を出してくれるようになった。
私だって乙女心に秘めた恋があったって良いじゃない。
私って、何てロマンティストなのかしら……。
もうすぐ、真弓先輩が自主練を終えて部室に帰ってくるわ。先輩はいつも、部活が終ってからも遅くまで自主練してて……。
狙って先輩を待つ!
そろそろね、七時半。他の部活の人達も、体育館から引き上げる時間帯。
それにしても臭いわね、だから剣道って嫌よ。
酸えた異臭の胴衣と防具、部室のエアコンが壊れてからこっち、ずーっとこれだもんね。
兄貴に無理やり入れられなかったら、こんな部、間違ったって入らなかったわ。
でも、真弓先輩に出会えたからいいの。
先輩ってば、受け取ってくれるかしら? この前も、早苗に告白されてたしなー……。
いいの、いいのっ。渡す事に意義があるのよ!
外が、賑やかになってきたわ。
体育館の連中が引き上げだしたのね。
さあ来い、チャンス! 早く、兄貴に笑われながら作った手作りのチョコを渡して、楽になりたい~~ッ。
あ、部室のドアが開く。
お面をベンチに置く音がする。
あああ、こっちに来る。
いよいよね、いよいよ渡すのね。
ギィ、ときしむ音がした。緊張する。
ロッカーのドアが開いて、切れかけの蛍光灯が瞬きしているのが、まぶしく私の視野を妨げる。
逆光で見えない先輩の顔。ああ、恥かしさが少しは和らぐかしら。
「先輩、これもらって下さい!」
「まじで!?」
まじでって、どういう、意味……?
……あ、あーーーーっ。相手が違った!
誰よコイツ、真弓先輩じゃないわ。サトシ先輩だーー!!
「良かったなサトシ。毎年もらえないって言ってたもんな、おめでとう」
ま、真弓さん!?
今日は二人で練習してたんですか? なんでよぅ。真面目に練習しなくていいのにサトシ先輩、ってか馬鹿サトシッ。
真弓先輩が、祝福の顔をしている。絶対勘違いしている。
勘違いっていっても、するわよねこの状況……。
ああああぁぁぁもうッ。
取り返しつかない!? どうしよう!!
違うの真弓先輩ーッ。私が好きなのは(渡したかったのは)真弓先輩なんですーーッ。
私の乙女心が、こんなむさ苦しい野獣先輩に蹂躙される。
無い無い無い、ありえなぃ……。
どうして、こんな日に限って。サトシ先輩が居残りしているの……。




