お姉ちゃんのことはわたしが守るんだからねっ 6
帰り道、奏が家に電話してみると妹は母にお使いを頼まれて買い物に出ていたらしい。
向かった先はいつものスーパーだったので、奏も追いかけることにした。響が家を出てからさほど時間はたっていないので、今なら間に合う。
郊外の県道沿いを歩きながら、先輩との関係をもう一度、今度ははっきりと響に伝えなくちゃいけないと奏は思った。
子供の頃の響はその耳と尻尾のせいで常にいじめられがちだったのは事実だ。自分の家族、大切な妹がからかわれて嬉しい姉なんてそうはいないだろう。
だからいつも妹を目の届くところに置いて安心させるために「ずっと一緒にいてあげる」と言い聞かせてきた。
その結果、響が少々度を越して自分を慕っていることを感じていたけれど、頼られることそのものは悪い気がしていなかったのも事実だ。
けれども。
それが今回、妹がこんな暴走をさせてしまった。
甘やかす必要ないなんて猿渡には言ったけれど、実際のところ自分が頼られ慕われて気持ちよく甘えていたんだ……なんて思う。
だからそのこと、しっかり響の顔を見てあやまらなくちゃいけない。そして猿渡のことをちゃんと話して説明しなくちゃいけない。
――お姉ちゃんね、好きなひとができたの。もうすぐお付き合いするのよ。
だから祝福して、と。
ちょっと言葉を選ばなくちゃいけないし、どんな言葉を選んでもそれは恥ずかしくってしょうがない。
でも、ごめんなさいに添えてそれを言わなくっちゃいけない。
そう奏が決意した頃に、ようやくスーパーの入ったショッピングモールの駐輪場のあたりにたどり着いた。
いつもの家の方角から一番近い出入り口から一階スーパー部分に入った奏は、キョロキョロと辺りを見回しながらレジ方面に向かった。
あの子は大体、シュークリームやドーナツなどが置いてあるコーナーか缶詰のコーナーで、ついつい足を止めて物色しているはずで、ふたりで普段お買い物しているルートの真逆から周って行けば、どこかで響と落ち合うことが出来ると思う。
そうやってドリンクから順にパン、冷凍食品、お惣菜、そして洋菓子のコーナーにさしかかったところで、ばったりと奏と響は顔を合わせた。
「……響」
「お姉ちゃん」
一瞬にして響の耳がピクリと立って姉の方を向けた。すぐにその動きに尻尾が追従しそうになったけれど、そこは必死で堪えたらしい。
「やっぱりここにいたのね。お母さんに電話したらお使いに出たっていってたから、急いで追いかけてきちゃった。何か食べたいものがあったの?」
「ふん。もうお姉ちゃんは響のことどうでもいいんでしょ。響がエクレア食べたくても関係ないもん」
「ふふふ。そっか、エクレアが食べたかったんだ。お姉ちゃんが買ってあげようか?」
奏が苦笑を浮かべながら妹を見返す。
「べ、別にエクレアなんて食べたくないし、お財布の中身がギリギリで悩んでたりなんかしてないんだからねっ」
「……そうだよね。先に謝るのが順番ってものだよね」
姉が静かにそう返した瞬間。ちょっぴり警戒の表情を浮かべていた響がそれを解いた。
「きつい言い方をしてごめん響。お姉ちゃんが悪かった、お姉ちゃんがちゃんと前もって説明していたらよかったね」
「…………」
「猿渡先輩は、さっきも少しいったけど文芸部二年の先輩なの。一ヶ月ぐらいまえかな、先輩から告白されたんだ。まだお付き合いしようとかそういう返事はしていなかったんだけど、気持ちだけは伝えたいって聞かされて」
響は姉から視線を外して、買い物カゴの柄をギュっと握り締める。
「お姉ちゃんも猿先輩のこと好きなの?」
「……うん」
「響よりも?」
「それはっ比較なんてできないよ、響は大切な妹だし」
「じゃあ、猿先輩も響と同じぐらい大切なの?」
「そうだよ。響と同じぐらい先輩のことも好きだよ」
「そっか……」
ふたたび二人は沈黙してしまう。
少しの間見詰め合った後、響がふたたび口を開いた。
「お姉ちゃん、エクレア買ってくれる?」
「え?」
「このエクレア買ってくれたら、響もうなにも言わない。わ、わたしお姉ちゃんの事、ちゃんと応援できるから。猿先輩さんとのこともう邪魔しないからっ。お姉ちゃんから卒業するんだからっ」
ちょっぴりぎこちないけれど笑みを浮かべて響が言うと、それに応えて奏も笑顔をつくった。ちょっぴり涙を浮かべて。
「だ、だからお姉ちゃん頑張ってね! 響応援するからね!!」
「……響。ありがとう、お姉ちゃん頑張る」
☆
新発田家の夕飯が終わると、いつも姉妹がお風呂に入る時間となる。
だいたい姉が先に入浴するのだけれど、今日はまだ奏が体を洗っているうちに響が浴室に入ってきたのだ。
「お姉ぇちゃん!」
「きゃっ、ちょちょっと響いきなりどうしたの?」
「ちょっと今日は聞き分けない子だったから、反省もかねてお背中お流ししましょうかーって思って」
「ふふっ、もう気にしなくていいのに。わたしも悪かったんだから……でもせっかくだからお願いしようかしら?」
「うんっ」
響が元気よく返事を返した。
スポンジにボディーソープを染みこませてムニムニと響はもみ絞ると、すぐにも泡立ってくる。
「ねえお姉ちゃん?」
「なあに?」
やさしく背中を撫でるように洗っていく。
「響はやっぱりお姉ちゃんが大好きだって思ったんだ」
「なによそれぇ。お姉ちゃんだって響のこと大好きだよ?」
そんな風に、背中を洗ってくれる妹を振り返って姉が言うと……。
がばっと手を突然伸ばした響が抱きついてきたのだ。
「え、ちょ、あんた――」
「やっぱりわたし、お姉ちゃんから卒業なんて出来ない!」
「ひゃん、ちょっとやめなさい響。お姉ちゃん怒るわよ」
「エヘヘヘ、こーんなこともしちゃうんだからっ」
「お姉ちゃん本気よ、いますぐやめなさい!」
お風呂場の中で、そんな響の声が共鳴したのである。
「やっだもーん。だからお姉ちゃんのこと放したくないから~♪」
この回で本作終わりです。
けもみみモフモフ妹欲しい…




