クローズユアアイズ 4
『おい嘘だろ、あっちから誘ってきたのか』
電話先で、驚きの声を宇奈月新平が上げていた。
かなり驚いた様子であったが、その声に嫉妬の色と、期待感たっぷりのものがない交ぜになっていて、どうにも荒れた印象を受ける。
『それで、どうなったんだ』
「二十三日に行くらしい。イヴはどうしても家にいなさいと言われたんだそうだ。その、母親に」
文太郎は言った。
『だったら、二十三日は空けていればいいか?』
「待て、早まるな」
足をせわしなく動かして文太郎は言葉をさえぎった。
『何だよ』
「俺が同伴するってことで、二十四日でもいいことになった。だからルミエルにはイヴに行くよ。というかお前も、来るのか?」
『莫迦を言うなよ。俺だって行きたいぞ。いや行かせてくれよ』
話が弾んでいた。
運命共同体というべきか、文太郎と同じく女気にまったく縁の無い新平である。そういう意味ではいつも莫迦話をする度に、だれそれとかれこれが付き合って、みたいな話をよくして、羨ましがっていた。
文太郎はそれほどでもなかったのだが、宇奈月新平はチャンスの到来する日をまだか、まだかと楽しみにしていた節がある。といっても彼も見た目は勉学の徒を装った青年であっても、中身が凡庸で、とてもナンパの出来る男ではない。
何より大野市は田舎だ。ナンパなどしていたらすぐに知れて、親に大目玉という具合だろう。それが村社会的な傾向を色濃く残す田舎の風潮で、自然と、その種の行為には手が伸びないのが現状であった。
「いつまで電話してるの」
文太郎の母が、叱った。
いつまでも電気ストーブに擦り寄ってはなれず、受話器を耳に押し付けて談笑している息子に、とうとう頭にきている様子だった。
「話があるなら、自分の携帯を使うか会って話なさい。電話代だって莫迦にならないんだから」
プッシュホンの、形式が古い電話を指して、母が言うのである。
「すまん新平、母さんが怒っているから続きはまた次に」
『おう。俺も電池が切れそうだ』
「じゃ、そういうことで」
またな、と言って電話を切った。
自分の携帯電話はポケットの中に仕舞いこんでいたが、そっちは使わずに過すつもりだった。
アルバイトもしていない文太郎である。イヴのルミエルを考えると、お金はとっておきたい。そう思うからである、携帯電話の支払いを見て仰天しながら、泣く泣く母親に金をせびるのでは心苦しい。
お年玉をもうもらえる年だとも思っていなかったので、その辺の節約勘定がいっぱしに働き出していた。思いつつ、来年からはアルバイトをしなければ、とも考えている。
「電話、切ったよ」
母にそう告げる文太郎。
「何をそんなに、長話する必要があったのですか」
お小言を言い出すのではないかと、文太郎は勘ぐった。その前に出鼻をくじいてしまわねばと、少しばかり考えをめぐらす。
「伊東のおばさんに、小夜をルミエルに連れて行ってくれと、言われたんだ」
「まぁデートじゃない」
少し意外な反応を示して、母は驚いてみせた。すぐにも冷やかしの笑みを浮かべる。
「よかったじゃない。でもそれと、長電話と何が繋がるのかしら」
そこですよ、と心の中で文太郎が言う。
「折角だから、新平も誘ったんだ。多い方が楽しいだろ」
「宇奈月君も」
「そう。小夜の友達も来るから、俺一人で世話は大変だから」
よく言うわ。と文太郎の母が笑って見せた。
「文もまだまだ子供でしょうが。文句があったら母さん達を早く楽にさせて、それから大人の顔をしなさい」
一本取られてしまったと悟った文太郎は、形勢が悪くなった事を無念がりながら、さっさと自室の二階へ上った。
あまり居間の近くに長居していると、これより先、まだ何かしら言われるかもしれない。そうなれば最悪で、母から、次は祖母からとたまったものではない。
そういった次第で、勉強するといって二階に上って逃亡した。
二階に上ると、小川の見える窓に目をやって、ぼうっと眺めていた。
昼下がりだった。
その日は土曜日で、学校から早く帰宅した隣家の小夜が、愛用の自転車を押しながら納屋に向かっているのが見える。
丸裸に枯れてしまった庭木のそばに自転車を一旦停めて、納屋の引き戸を力いっぱいに開け広げた。そして自転車の側に戻る。
するとどうだろう。木枯らしひと吹きという具合に風が巻き上がって、落ち葉を散らし上げる。
そのついでにという具合で、小夜のセイラー服とスカートに襲った。
お尻の側がふわりとするから、あわてて押さえた小夜だったが、今度は前側が浮き手をやると、お尻がおざなりになる。
風の悪戯に文太郎の鼻の下が、少し伸びた。
「お……」
眺めていると、どういう訳かその視線を察したらしい小夜がはっとして、文太郎の家の二階窓、つまりは彼の部屋を凝視したのだ。
目が合った。
――しまった。
小夜が見られた、という顔を作って頬を朱に染め上げると、ぷいと顔をそむけて、納屋に急ぎ自転車を仕舞いこむ。
文太郎も、そそくさと視線を逸らした。
薄い桃色のパンツだった。
ももの( ´∀` )ぱんつ




