水着なんていらない! 2
☆
県大会は個人戦で三位、団体戦で二位という結果に終わった。
瑞希は全国大会にすすむ事なく空手部を引退し、ようやく受験勉強に集中する事になる。
小学生から続けてきた空手は好きだったけれど、大学まで空手一色で頑張るつもりはない。
やっぱり将来の事を考えたら空手道場を経営するわけでもないし、どこかの学校のコーチをしたいわけでもないのだ。
こう見てて瑞希の将来の夢は図書館の司書になる事だった。
勉強は特に好きでもなかったけれど、本を読むことは大好きだった。
特に好きなのは王子様がお姫様を救い出すような少女趣味のファンタジー小説だったけれど、別に歴史小説や時代小説が嫌いなわけじゃない。現代ものの恋愛小説も読むし、最近のミステリーは恋愛要素もふんだんなのでむしろ推理系も大好きだ。
一番好きなのは少女漫画だったけれど、空手二段で見た目はスポーツ少女そのものという外見に比べて、その内面はずっと少女趣味なのだった。
だからスポーツ推薦で空手部の強豪校に放り込まれてしまったら、将来は大会の強化選手、その先には体育の教師ぐらいしか待っていない。
「体育大学じゃ図書館司書にはなれねぇ!」
くじけそうになった時は、その言葉を口にして頑張っていた。
けれども。
せめて恋人の輝夫に逢いたい。
逢えば元気がもらえて、もっと頑張れる気がする。
県大会の試合には応援に来てくれたし、それからもメールだけは朝夕欠かさずしていたけれど、それだけじゃ寂しい。何だかとってもせつない。
だけど、もう少しだけ頑張れば勉強合宿で一緒になれる。
勉強漬けの合宿だけれど、せめて一緒に過ごせるのは楽しみだった。
☆
そして勉強合宿の時期がやって来た。
「おはよう瑞希さん」
「お、おはよう輝夫」
やや長い黒髪にメガネをかけた仏光寺少年を見やりながら、瑞希は照れくさそうに返事をした。
朝の集合時間がやってくると、三々五々といった風に参加者の生徒たちが高校の校門前に集まってくる。
一同はバスに乗せられて県のはずれにある湖畔の宿泊施設へと向かう予定だ。
出発までの時間、ふたりは会話を交わした。
「県大会の応援に来てくれてありがとうな……」
「どういたしまして。でも彼女が大会三位っていうのは僕も誇らしいよ」
「こ、これも輝夫が応援してくれたからだしな」
そんな風に返しながらみるみる瑞希の顔は赤面する。
「……あなたたちは朝からなにやってるの。さっさとバスに乗りなさいな」
そんなふたりのやり取りを見ていた茜が、呆れ顔でそう言った。
合宿の予定は、ひとことで言えば勉強漬けだ。
朝六時に起床すると、みんなで施設前にある駐車場でラジオ体操をする。
それが終わると身支度を整えて朝食の時間。メニューはどこかの旅館で出てくるようなご飯とお味噌汁、焼き魚。それに生卵に日によっては納豆もあったりする。
午前中の講習がはじまってこれが四時間もある。
ひと息つくためのお昼ご飯はカレー、チャーハン、焼きそばといった簡単なもので、味は期待したほどでもない。
昼食をはさんで午後からも同じく四時間の授業があり、それが終わればお風呂と夕飯の時間だ。
合間にトイレ休憩がはさまる以外は、脳みそが漏れるまで勉強をさせられる。何といっても勉強合宿なのだからそれも当然だ。
夕食は眠気が来ないようにという配慮なのだろうか、あまり豪華なものは出てこない。瑞希はこれに量で対抗して意を満たした。
お風呂休憩をはさんで消灯までは自習時間がやってくる。
あまり真面目ではない生徒たちの一部は、個々の部屋にあつまってちょっとしたお泊り会気分だったけれど、死ぬ気で勉強している連中は自習用に開放された講習室で今日のおさらいだ。
瑞希も当然ここで勉強した。
かわるがわる勉強のお相手をしてくれたのは、もちろん彼氏の輝夫と親友の茜だ。ふたりとも成績は優秀なので、瑞希のわからない部分のほとんどふたりは答えてくれた。唯一答えられなかったのは、
「なあ。こんな調子であたしはかしこくなれるのか?」
そんな瑞希の切実な質問だ。
もちろん誠実に勉強して確率を上げるしかないのだけれど、こんな事で受験戦争を勝ち抜くことができるのかと、瑞希は本当に不安だった。




