水着なんていらない! 1
濡れ濡れぴちぴちスパッツっていいですよね!!
「かわいくねーし!」収録の二人のその後を描いた物語です。
高校三年の夏休みを前にして。
模試の結果が返ってきて、堀川瑞希は愕然とした顔を浮かべた。
「こ、これはひどい……」
第一志望の県内国立はもちろんのこと、第二志望の私立女子大もこのままでは厳しい。
すべり止めは部活の顧問が推しているスポーツ推薦の体育大学だけれど、地元を離れて都内で一人暮らしをすることになるので、瑞希もそこだけは絶対に行きたくなかった。
「あなた、ひどい点数ね」
言葉を失って青白い顔をした瑞希の隣で、返された模試の結果をのぞき見していた親友の高槻茜がそう言った。
「ま、まだまだ名誉返上できるチャンスとかあるし。これで終わりじゃねーし!」
「あなた間違ってるわよ」
「何がだよ。あたしの人生が間違っているといいたいのかよ」
「名誉を返上してどうするのよ。そういう時は名誉挽回、汚名返上っていうの」
「そ、そう。汚名返上だ! スポーツ推薦大学入っても空手続けないといけなくなる」
「別にそれでもいいんじゃない? あなた空手得意だし」
男子と比べても遜色ない身長の瑞希は、スレンダーでいわゆるモデル体型だ。
ずっと髪型をショートボブで通してきたのだが、去年から髪の毛を伸ばし始めて外見は女らしくなりはじめた。
だからという訳ではないだが、
「空手なんてやってたら、花の大学生ライフが出来ないじゃないか!」
瑞希は大学で空手を続けるつもりがないのだった。
「勉強頑張らないとな……」
「頑張るって、具体的にどうするの?」
「単語覚えるとか、公式覚えるとか。あと、歴史用語覚えるとか……」
か細い声で瑞希がそう言った。
空手推薦の話がでるぐらいだから、瑞希は空手部で主将を務めている三年生だ。
受験勉強もしなくちゃいけないし、部活最後の県大会も控えていたけれど、少しぐらい恋人と楽しい夏の思い出を作れるんじゃないか、なんて密かに期待していたのだけれど、現実は厳しすぎて夢も希望もありゃしない。
「あかねぇどうしよう~。勉強してもかしこくなれる気がしない!」
「努力する前からあきらめては駄目よ! そんな事じゃ仏光寺君にフラれちゃうわよ」
茜は瑞希が色気づきだした原因の彼氏を引き合いに出して叱りつけた。
彼氏の名前は仏光寺輝夫といって、吹奏楽部に所属していた成績優秀な少年だ。
瑞希は仏光寺少年と同じ大学に行きたいがために県内国立を第一志望に立てたけれど、かすりもしない事は本人もわかっていた。
「せめて第二志望に受かるんでしょ!」
「うるせえわかってるッ」
「とりあえず、とりあえず学校の勉強合宿には申込みしたの?」
「お、おう。輝夫が参加してるしな」
ぼそりと瑞希が答えた。
「参加理由はそれなの? ……まったく。せいぜい頑張るしかないわね。一生空手バカっていわれたくなかったら」
「いや、空手は好きだよ? だけど大学で空手選手とかなったら、輝夫と遊べねぇじゃん。ぜんぜん」
「複雑な乙女心ね……」
ボリボリと頭をかく瑞希に、茜が返した。
「……ところで、茜の模試結果はどうだったんだ?」
「わたし? 当然わたしは第一志望A判定よ」
聞かれて、自分の模試結果をヒラヒラとさせながら茜は自信満々の顔を見せる。
「そりゃそうだよなぁ、茜は子供の時からずっとかしこかったし。それに比べてあたしは……」
瑞希はくやしさを顔に浮かべて茜を睨み返した。
「仏光寺君に勉強教えてもらえばいいのに」
「輝夫の受験勉強の邪魔して、足引っ張りたくねえし」
「そんな顔しないの。ヒマな時はあなたの勉強に付き合ってあげるから、わからないところがあったら聞いて」
「ほ、本当だな? 期待してるからなっ」
親友の差し出した救いの手に、瑞希はすがりつく。
「ちょ、ちょっと離れなさいな。暑苦しい!」
こうして堀川瑞希の高校最後夏休みが幕を開けた。




