9、回想と、レベルアップと、再び②
ついに9話!!早いですね……もう1ヶ月がたちました♡(?)
というわけで成長したこまち✖あやを見守ってあげてくださいなっ
9、回想と、レベルアップと、再び②
ちょうど────一か月前…でしたっけ。
「参日」を。
楽しい学校生活を。
────一瞬で台無しにした、この男は…………!!
『スカラー』………………!!!!!
わたしは歯をガリっと噛み締めた。久しぶりに、こんな感覚に襲われた。胃をひっくり返すような、嫌な気分。
だが、今回は何故か、私一人でも負ける気がしなかった。
ドクンドクンと心臓の鼓動が、全身に伝わる。
そして、乾いた唇から、かすかに漏らす言葉。
「────殺せ……」
──────ガブッ。
突然、頬に伝わる痛み。
「っ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
それから触ってわかる、歯の痕とベトっとしたヨダレ。
こまちに、思いっきり噛まれたのだ。
「こまちちゃん、いきなり何するんですか!?」
「それあたしのセリフ!! そういうの…あやちゃんらしくない言い草だわ……大丈夫? なにか怖いことあったの?」
こまちがイメージしている「わたしの言い草」って、どういうものなんだろう。
「怖いというか…………こまちちゃんは知らないかもしれませんが、あの人──!!」
「うん、知ってる」
わたしの話を遮ってそういうと、こまちは白スーツの男に向かって二、三歩近づいた。
(わたしを落ち着かせようとしたんですね……)
確かにこまちに噛まれて、少し正気に返った気がした。……別に噛まれたいわけではありませんが……。
それにしても、あの男。
スカラー。
棺に入れたてのミイラ──要は綺麗な包帯でぐるぐる巻きの様相を見ると、一か月前、相当悲惨にこまちにやられたようだ。
結構強そうなのに。
「おほぉ〜久しぶりだねぇ、お嬢ちゃん。……これはなんて…偶然の出会イ」
体の状況はいざ知らず、口だけは達者のままでいらっしゃる。
相変わらず語尾のイントネーションを挑発的に上げるスカラー。ついこの間みたラノベの主人公のセリフを借りれば、
『こいつの歯を全部、内側から砕いてやりてぇ』
「何をしに来たの?」とこまち。
口角をあげてにやける男。
「散歩だヨ、散歩。───君との戦いはもう───懲り懲りだからネ。……それにしてもお二人共、随分凝った恰好をしてるねぇ。魔法少女のユニットかナ?」
「なんでもいいでしょ……ここ、あたしの私有地なんだけど??」
腕を組んで笑うこまち。
「うひょぉ、怖い怖イ。そうかそうか、それじゃこの俺は………」
スカラーは有り得ないくらいに口角を上げて嗤い、ランタン生命体から身を離した。
嫌な予感がして、わたしとこまちは各々の武器を構えた。
「───侵入者、だねぇ─────」
旋風に巻かれたわたしの「巨大ハムちゃん」は、わたしたちに目掛けて落下した。
「危ない!!」
わたしの前に出て、両手を前にしてガードをする。
「いいえ、これはわたしがやります!!───『誘導』!!」
落下軌道を変え、わたしの頭に命中するランタン。が、音も立てずにガラスの砂となって……消えた。
『ランタン生命体からダメージを負わない』!!!
意外と、使える技だ。
(夜更かしして練習した甲斐がありました……!)
顎を擦りながら、上からずっと傍観していたスカラー。ニヤけている。吐き気がする。
「ほぉ?? キミやっぱ面白いネ……特殊部隊、行けっ、今だっ!!!!!」
────特殊部隊!?
ウォォオオオン…ウォオオオオン……
サイレンが、鳴り始める。
「これちょっと……困ったわね」
「うん……」
一瞬にして、わたしとこまちは厳重な武装をした、兵士に囲まれた。木々の隙間から、ゾロゾロと出てくる。
ざっと数えて、三桁を超える。
手に持つのは、重そうな機関銃。
いくらこまちがいるとしても、これはさすがに格差が大きすぎる。部隊に勝てても、あの男がいる。
………どうしよう……
おそらく、あの男の異能は『風の操作』。
そうなると、一ヶ月でたぶん成長したわたしとはいえ、全くもって戦力外となる。
そもそもまず、相性が極悪だ────。
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「『風前の灯火』って言うだろ? 実際、火の魔法は確かに風に弱い」
らーゆ(ラノベの主人公の名前)はそう言って、分厚い雑誌を慎重に閉じた。表紙にはやはり、ぺちゃぱいの水着女子が、ツヤツヤのお尻をこっちに向けてドンと載っている。
「……古の言葉はすげぇんだぜ? 何万年後になった今でも十分使えるんだよ」
(※わたしが読んでいるラノベのあるシーン)
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こまちが、すっとわたしの手を握る。
「おぉっと、下手に動かないでねぇ。さもなくバ……撃っちゃうヨ?」
「あやちゃん」
「はい……?」
「────あたしについてきて!!」
「へっ!?!?」
わたしは思考が追いつく暇もなく、こまちに手を引っ張られて、特殊部隊に向かって突っ込んだ。
「撃てっ!!! 撃てっ!!!」
男の甲高い声が降りて、兵士らは囲い込むようにして銃弾を放った。
乱射。木々に当たって、激しく火花を散らす。火炎放射器を持つ者もいたのか、可哀想な森に再び、猛々しい焔がついた。
だがなぜか、わたしたち二人には、一発も銃弾は当たらなかった。
広場と森の境目まで、やってきた。
「SpringEphemeral!!!」
こまちの、掛け声。
「綻び放て、《携帯洋灯》、《夜叉姫恋心》!!!!」
わたしの、詠唱。
二人の異能は同時に発動した。
ランタンに長い鮫のようなしっぽが生え、辺りの部隊に噛みつく。大きな爆発音とともに、「い゛やあああああああっっ!!!」という悲鳴が聞こえてきた。
こまちの白剣は刃先をうねらせ、ひと薙ぎ、二薙ぎすると、あたり一帯の特殊部隊が脇に吹っ飛んだ。
チャンス!!
包囲網の隙………………!!!
「「そこだ……!!」」
わたしたちはそこを狙って、駆け抜けた。
「………!?!? おいおいなんだありゃ!? なんで弾が当たんねぇんだ!?────おいお前らっ、何グズグズしてんだヨ。早く追いかけロ!!!」
「「はっ!!!!」」
後ろから、突進してくる兵隊。
木々の間をすり抜けるわたしたち。
(体型的に、こっちに分があるはずです!! たぶん!!)
わたしは、あれっ、と不思議なことに気づいた。
手にしっかり握っていた黒鎌が────なくなっている!?!?
「こまちちゃん、すみません…!! もらった鎌をどこかに落としてしまいました…ごめんなさい!!」
「あー、それあたしが『吸収した』 …………あやちゃん、焚き火って作れる?」
────吸収した、とは!?
後で、こまちが自分の体から武器を作っていることを聞かされた。道理でぱぱっと用意ができるわけだ。
(……あれ、そもそも体から武器って……どうやってやるんですか!?)
こまちの体、粘土疑惑。
「えーっと、体力的に持たないかもしれません───マッチなら三百本くらいは!!!」
「じゃあそれでいいよ!!」
「───《携帯洋灯》、マッチバージョン!!」
両手から、大量にマッチを生産する。
「ほい、ありがと。───SpringEphemeral!!!」
蛍光ピンク色の光は全てのマッチを呑み、そしてわたしたちの背後の世界を呑み込んだ。
思ったよりも、何万倍も強い威力。わたしたちのコンビネーションの技で、完全に兵隊を振り切った。
あとから聞いた話だが、その時の炎の温度───なんと四桁を余裕で越えていたらしい。人が一瞬で蒸発するほどの、高温だったのだ。
悲鳴が、遠くに聞こえる。
ひたすらに走って、間合いを見て休んで、走って。
走って──────。
そして気づけばいつの間にか、わたしたちは静かな暗闇にいた。
お読みくださりありがとうございます!!!
いかがでしたか?
あやちゃん強くなりましたね……怖い…笑
ヨモスガラって、一夜中って意味でしたね。あやちゃんラノベ好きだから、やっぱりそこから取ったんでしょうか……?
ということで一難を逃れた2人…一体どこにやってきたのでしょうか……??
10話、お楽しみに!!