20、豪邸講習と、「巨人」と、フェニックス再び⑤
20、豪邸講習と、「巨人」と、フェニックス再び⑤
ぼぅとする視界。
ここは……こまちちゃんの家の中ではない。
整頓された小部屋。壁は木造だ。
薄暗い。
「やっと起きたのぉ」
「!?」
ドアのところにいたのは、知らない青年。キリッとした顔立ちで、服装もブリティッシュスタイルのスーツを着こなしている。
暗さに慣れてきて、銀髪の「少女」はおもむろに起き上がった。
「おおっと、じっとしてるのじゃ」
男が近づいてきて、「少女」をベッドに押し倒した。
「……ッ!」
状況を把握出来ず、顔を赤く染める。
「ふむ……顔はいいのぉ」
「あっ…あなたは……?」
「もう忘れたのか。マエストロじゃ」
まえっ……!?
……こんな顔だったっけ。
「少女」は目を丸くした。無理もない。さっきまでの「しわくちゃのおじいさん」が「王子様のようなイケメン」に変容しているのだ。
「─────キャッ!?」
男は「少女」の頬にキスした。
「いっ、いきなり…うち…こういうのまだしたことないので────」
「では、わしが初ということじゃな」
マエストロは心臓をバクバクさせていた。
『特殊効果』───『若返』。
持っていて、よかった。
運がいい。ついている。
(こんなにも可憐な…ッ、そして美しい少女をこうやって我が意のままにッッッ!!!!)
「うぅ……」
一インチの肉体の隙間もない。
少女は目を逸らし、羞恥と困惑の涙をうっすら浮かべた。
艶のある長い銀髪が、乱れて白いベッドに流れる。
こんなにもいい機会は、もう二度とあろうかっ!!
(胸がないのは残念じゃが……これで十分じゃッ!!)
男は「少女」の両腕をガシッと掴んだ。
「いやっ──」
(わしの肌に伝わる、なんという良好な温度差や香り……官能に値するッッッ!)
「お前の全ては今、わしに属する……抵抗しても無駄じゃ。さぁこれからわしが言うことに従え」
「……」
抜刀されるのが怖いのか、「少女」はこくりと頷いた。
「答えろ。────名前はなんじゃ」
返ってくるのは、弱々しいが、透き通ったガラスのような声。
「……し、素……です」
「しろというのか。……お前は今、何歳だ」
「……じゅ…十九です……」
(にしては体型が幼いな……)
「おい、素よ。服を脱げ」
「そっ、それは……っ」
「いいから脱ぐのじゃ」
「いっ…………いやです……っ」
「少女」は頭を振った。
だめ……!
このままでは、純たちのところに戻れない。
しかも、もし男の子だということが判ったら……
殺される危険性だってある!!
一人で対抗できない訳では無い。だが、このマエストロが何を隠しているのかが分からない限り、下手には動けない。
(いったいどうすれば……あっ!)
ふと、素の頭の中に、作戦が思い浮かぶ。
このおじいさんは、完全にうちが女の子だと思っている。
そして、程度はいざしれず、うちに「ある意味」満足している。
……なら、作戦は一つ。
名付けて、「狂い落とし作戦」。
────完全に、焦らしきる!!
「ま、マエストロさん……」
「なんじゃ」
「ちょっと、お願いが一つ……聞いてくれますか」
「早く述べよ」
「うち…ま、マエストロさんのこと……き、嫌いじゃないです」
「……ほお?」
案の定、眉を釣り上げて、喜びを露わにするマエストロ。
「でっ、でも……この姿勢……くるしいです。もっと…ちゃんとマエストロさんのことを見つめたいです……」
「ふむ……それは申し訳なかった」
ようやく手を離した。素はベッドに座り直した。
色気を最大限に発揮した、ぺたんこ座り。
ぽたぽたと涙をシーツに落とし、手首を軽く撫でる。
「て、手が……痛いです……これでは、もう……!! マエストロさん、酷い……」
これを聞いて、マエストロが焦りの表情を浮かべた。慌てて、
「す、すぐに治療するッ! さっきの無礼は許してくれッ!! そんな気はなかったんだッ────『ヒール』ッッ!!!」
────ピカッ。
「少女」の両手が、一瞬光に包まれる。
「眩しい…」
「す、済まない!! すぐに終わらせるッ────これでどうじゃ、まだ痛むかね」
「少女」が、頭を無力に横に振り、涙を拭いた。優しい笑顔を見せる。
「いえ…ありがとうございます」
男はそれを見て、ゴクリと唾を飲んだ。
「ま、まだ何かあるかね」
「……はい……でも────言い難いです…」
「大丈夫だ。わしはこんな可憐な少女に暴力など振らない。安心して言うのじゃ」
「嫌わない……?」
「もちろんじゃ」
「なら……────兵隊さんを引いて欲しいな。あと、もう…うちのお友達をいじめないで……?」
「それは出来ん」
「そうしないとうちの心が……」
「…………っ!!」
マエストロは歯をギチッと噛み締めた。
葛藤。
葛藤。
葛藤ッッッッッ!!!
さあ、どうする!? 女をとるか? 権力を取るか?
「ね…? お願い……」
タイミング見計らって、男の両手をふんわり握る。
「ッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
男は何度も頭を振った。
それから、意志を固めて、ドアの外に向かって怒鳴った。
「おいっ、お前ら、兵隊を退けろッッ!!包囲陣と伏兵と、あとヘリ隊、全部退けろッ!! 二度とあの土地には近づくなッッ!!!」
(なるほどねー、伏兵とヘリコプターまでいたんだね……)
素はふふっと笑った。
マエストロさんも、いい感じに狂ってきたね……♡
ドアの外から、反対の声が上がる。
「しっ、しかし…!!」
「いいから早くしろッッ!! お前らに隊長に逆らう権利などはないッッ!! 次から反抗した者は処罰するッ」
………………………………。
「……よし、これで誰もいなくなったぞ。……もういいかね、わしもやりたいことがあるんじゃ」
「さ、最後に一つっ……!」
「……………………なんだね」
マエストロは震える両手を後ろにしまった。さもなくば、すぐにでも抱きついてしまう。
ついでに、用意してある高価な指輪を背後に隠す。
素はにこっと笑った。
────そろそろ、いい感じかな。
マエストロにそっと近づき、耳元で囁く。
「うち、男です」




