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終わりの話 

良く晴れた5月の吉日。




アリスとアンドレアの挙式が行われようとしている。

ジェシカ渾身のドレスを身に纏ったアリスは美しかった。


父は娘を眩しそうに見た。

寂しさを隠そうとするのだが、なかなか隠れない。


そんな父の手を握り、アリスがこう言った。


「お父様、今までありがとうございました。私ね、お父様とお母様の子で良かった。とっても幸せよ」


亡き妻に良く似た娘に優しく語り掛ける。


「アリス?」

「はい、お父様」

「幸せになれるな?」

「はい!」


思わず、言ってしまう。


「お前は本当にカナコに似ている」

「嬉しい」

「けど、な?」

「わかってる、内緒ね?」

「そうだ、婿殿にもだぞ?」


アリスが悩む。


「うーん、無理かも…」 

「ハハハ…」


父の笑い声に、釣られるようにアリスも笑った。

アリエッタが声を掛けた。


「陛下、アリス様。そろそろ、お時間です」

「ああ、そうだな」

「行きましょう?」


アリスは父の腕に手を添えると、式場へと歩き出した。

愛しい人の待つ場所へと。







この3年後。


王は家族に見守られながら旅立つこととなる。

子供達、孫達に見守られながらである。






そして、その後のこと。





ルイはその翌年に即位式を挙げ、同時にジュリアを妻に娶った。

その仲睦まじさは前国王夫妻を偲ばせるほどであった。

程なく、2男1女に恵まれる。




セーラとマリウスはビクラード家を継ぎ、ルイを支えた。

マリウスはアンドレアに感化されたらしく、時々セーラにクサイ台詞を言うようになった。

その度にセーラに怒られているのだが、懲りないようだ。




アリスとアンドレアは相変わらずである。

ただ、人前では抑えることを覚えたようだ。

2人の間には娘ばかりが3人生まれたのだが、アンドレアは大喜びであった。




ポポロは王の亡き後、5年後にこの世を去った。

彼の家族はもちろん、王家の皆もその死を悼んだ。

けれども、彼はにこやかに去った。

彼の行く先には会いたい人達が居たからであろう。




アンリは左大臣として、忙しく精力的に動いている。

ポポロが一声上げれば皆が黙った様に、ルミナスの重鎮として必要不可欠な存在である。

そんなアンリではあるが、相変わらず妻グレイスには弱かった。

グレイスの開くサロンはルミナスでも評判が高いが、そこに縁結びを期待して集まる若い男女が増えたらしい。

彼等はグレイスを母の様に慕い相談を持ちかけるとの噂だ。


彼等の息子は、アルホートで宝石商として成功を収めている。

スタッカード商会は手広く手を広げ、ルミナスにも店を出す様だ。

アンリとグレイスが、彼等の初孫に会ったのはその子が3歳の時になる。


グレイスの予言は当たったようだ。




サーシャはあれから一度もルミナスには来る事がなかった。

行かないと決めたわけではない。

なんとなく縁が遠くなったのだ。

ダグラルとの間には子がなかったためか、スティーヴは正式に彼等の養子となった。

海の女と結婚し、子供も生まれた。

その世話や彼等の事業で毎日が充実していたのであろうと思われる。




ジャックとマサは念願の田舎暮らしを堪能するはずであった。

けれども、今はルミナスの城下街の外れに住んでいる。

やはり田舎の視線は男性同士の彼等には厳しかったようだ。

かなり広い土地を手放し、それでも2人で住むには充分な家を建てて暮らすことにした。

しかしだ、ルミナスの城下街となると2人を周りが放っておかなかった。

ジャックの元にはさっそく個人的に指導を請う若者が集まり、塾の様になって行く。

そこに時々ルイが現れるものだから、益々人が集まる。

やがてマサのする事に興味を持つ人間も集まるようになり、2人は覚悟を決めたようだ。

今の家の隣に少し大きめの屋敷を建て、私塾を創めた。

ここから有能な人材が育って、ルミナスを支える日も近そうだ。




マリーとカルロスも順調に事業を広げている。

カルロスはガナッシュとの行き来が多いために早く進む船の開発に着手している。

これが成功すれば3国の関係はより緊密なものとなるであろう。

マリーはカフェ・マリーを娘のケイトに譲り、カルロスと行動を共にしている。

ガナッシュにも度々訪れては姉との話に興じた。




アリエッタはアリスと共にヴァルファールの屋敷で暮らしている。

アリスの3人の娘に振り回されて、楽しそうに過ごしている。




エイミィは王宮に留まり、ジュリアの侍女となった。

ルイの世話はジュリアが自らする為に、その補佐となったのだ。

ジュリアとの関係は良好で、アルホートから来た侍女達の模範となった。








ジェシカの店は王家が頻繁に通う事もあって、ルミナスでも1番の高級店になっている。

今日は珍しく女性達が集まった。

新しくドレスを新調したので、似合う装飾品を求めて良い物を取り扱う宝石商をこの店に呼んだのだ。


「お義姉様方、これがアルホートから送られて来た石です」


ジュリアが手にしているのはエメラルドの原石である。

最近になってアルホートではエメラルドも採掘されるようになったのだ。


「まぁ、ジュリちゃん、美しい…」

「本当ね、早く磨いたものを見たいわ…」


セーラ、アリス、ジュリアの3人は原石に見とれている。

3人は仲良く並んで座っていた。

彼女達の前に座っていた宝石商が机の上の箱に手を掛けた。


「さて、皆様方。見ていただきたいのは、これだけありませんよ」


3人の前に座っているのは、アンリの息子のエドワードだった。


「こちらは既に磨き上げておいたものです」


丁寧な表装が施されている箱の蓋が開き、深い緑色の輝きが現れた。


「素敵」

「綺麗だわ」

「本当です、綺麗です」


3人がため息をつく。


2ヵ月後に、ルイが即位してから初めて行われる王の誕生日の祝いが行われる。


もっと早くに行われても良かったのであるが、先王の喪やら新しい改革やら、政が次々に行われてそれどころではなかった。

それと、当の本人が「まだ早い」と言って嫌がっていたのもある。

自分の誕生日を、ああも盛大に祝われるのに気が引けたのだろう。


だが、アンリに「これも祭り。民の為ですし、国も潤うのです。いい加減に腹を決めて祝われて下さい」と説得されて、愛しのジュリアにも「ルイ様のことを皆様が祝ってくれるのに?恥ずかしいのですか?」と言われて、渋々了承したのであった。


喜んだのは貴族も同じである。

久し振りに大々的な王家主催の舞踏会が行われる。

誰もが着飾るために大慌てしているのだ。


その為に、エドワードが沢山の宝石を持ってルミナスに滞在していた。


「皆様にお似合いになりますよ?」

「まぁ、エディったら、すっかり商売上手になったわ」

「そりゃね、従兄弟相手でもちゃんと商売しないと」


笑い声が響いた。

話がひと段落落ち着いた時、ジュリアがエドワードに尋ねる。


「ところで、エドワードさん、本当に良かったのですか?」

「妃殿下、スタッカードの家のことは父が決めたとおりでいいんです。私はアルホートに骨を埋めることになるでしょうからね」

「けれども、」


ジュリアは気にしていた。

アンリからルイとジュリアの次男である王子をスタッカードの跡取りに迎えたいとの申し出を受けたのだ。


「別にいいんじゃないの?大爺様の血縁でもあるんだから」

「しかし、スタッカードはエドワードさんの生まれた家ですから、寂しくはないですか?」

「そうですね、もし、寂しく感じる様な人間ならば、ルミナスを出たりしなかったでしょうね。だからです、妃殿下?」

「はい」

「どうか、お気になさらないで下さいませ」


アリスが言う。


「ジュリちゃん。エディはこの通りの変わった人間なのよ。アンリ伯父様はとっても良くご存知だから」

「変わったって、アリス、相変わらず言うよな?」

「変わってるわよ、もちろん、私の夫も変わってるけどね」

「あらアリス。認めちゃうの?」

「そうよ、だって、変わってても素敵な男性ですから」

「あらあら…」

「アリスお義姉様…」


また笑い声がする。

その後は互いの夫に対する惚気が始まるのだ。




皆の声は幸せそうで、楽しそうである。






その声は風に乗って何処かに届くのであろうか?








ルミナスは続いていく。

カナコと呼ばれ王に愛された女性が願った通りに。


彼等の息子はその後を継ぎ、娘達の婿が彼を支えた。






私の忠誠はルミナスの下に、皆に永遠なるルミナスの加護を。







そう、ルミナス宣言の通りに。











アリスの場合は姉より大変。完





ルミナスのその後でした。


これで、このシリーズも終わりとなります。

読んで下さった皆様の心のどこかに、微かにでも残っていたら嬉しいです。


しばらくは、この余韻に浸ります。

お読み下さってありがとうございました。


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