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俺の自作黒歴史カードゲームが、まさか潰されそうなキミの逃げ場になるなんて【後篇開始】  作者: とむ
後篇

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51/51

51.手札からカードを一枚選び、プレイする



 ダイニングテーブルの手前には、湯気の立つあおさ入りの味噌汁、ほかほかのご飯、そして香ばしく焼かれた寒鯖の干物が一人分ずつ並んでいる。

 さらにテーブルの中央には焼き海苔入りのポットと底の深い器に盛られたシラウオの佃煮、冬瓜の煮物なんかが置かれていて、どこもかしこもご飯の進みそうな猛者が陣を構えている。


 これが漁港の近くで住んでる人たちのスタンダードなのかどうかは分からないけど、俺は海なし県で生まれ育った人間なので、この朝食はえらく豪勢に思えた。



「なんだい、アンタたち。まるで蟹でも食ってるみたいじゃないか」



 それなのに、俺は――お母さんに対する“申し訳”なさが先行して、うまく味わうことができずにいる。


 縮こまっているのは俺だけでなく、向かいのおにいも同様だった。

 彼は先ほどから「僕、耽美系知能キャラになりきってた……」「かーなに馬鹿って言われた……」などとボソボソ供述している。

 デュエル空間特有の煽り合いから解放された後に待ち受ける、賢者タイムの潮流に久方ぶりに翻弄されたと思しき彼を見て、とっくに慣れてしまった側の俺は妙な優越感を覚えた。


 でも、俺は俺で昨夜の叶と過ごした時間のことを何度も思い出してしまい、やっぱりだめだった。



「んぐんぐ、おかーさんおかわり!」



 一方、叶は昨夜のことなんかまるで嘘だったかのように、んぐんぐとご飯を食べ進めていた。

 お母さんが茶碗に盛ったご飯を嬉しそうに受け取ると、彼女はいつものハツラツとした声でこう言った。



「ありがとー! 昨日のアンコウ鍋もだけど、今日の朝ごはんもえらく気合入ってるねぇ。いつもこんなんじゃなかったのに」

「ふん、アンタは明日から米だけ食ってな」



 叶が「えー」と笑い交じりに返す横で、俺は背筋を曲げながら黙々とサバのほぐし身を口にしていた。

 あぁ……やっぱりお母さん、気合入れてご飯作ってくれてたんだ。


 そのことを申し訳ないと思えば思うほど、舌上の塩味がさらなる対消滅を起こしていく。

 これが朝ニャアスパイラルってやつか。


 そう思った途端、サバの小骨が歯茎に刺さった。



 ◆



「それじゃあ忍君……気を付けて帰るんだよ」

「はい。おにいも、受験勉強頑張ってください」



 そして、とうとう出発の時間がやってきた。

 おにいは昨日同様、このあと受験勉強に励むため家に残るらしい。



「うん。無事に受かったら、またあれやろう」

「あれですね。ばっちりバージョンアップしときます」



 そう言って笑い合ってから間もなく。

 玄関先から手を振る彼に見送られながら、俺と叶を乗せた軽バンがお母さんの運転で音を立てて発進する。



 昨日とは反対の車線を走っているためか、より海が近く感じる。


 窓枠に納まった青い空と、雲と、たくさんの海鳥たち。


 そして、その手前には片肘を窓にのせて、アンニュイな表情にふける叶の姿があった。



 叶は年が明けるまでの間、しっかりめに帰省をする段取りでここに来ているため、今日街に帰るのは俺一人だけだ。

 そのこともあってか、車の中でもこうして隣に座っているし、ご飯時のような元気さは鳴りを潜めている。


 お母さんもそれとなく空気を読んでいるのか、運転席からは一言も発さなかった。


 俺は前方のルームミラーに映らないように気を付けながら、腕をこっそり叶に伸ばす。


 そして、これが昨夜の繰り返しと知りながらも、だらんと座席に下がっていた叶の手を愚直に握った。


 こんなとき、いつもだったら“どう言葉をかけようか”と必死に考えていた。

 でも、お母さんがくれた「それでいい」という言葉と、優しく握り返してくれた叶の手の力が、今の俺の行動に対する肯定に繋がっていた。



 ◆



 古びた駅舎の前で、俺はお母さんに深々と頭を下げた。



「短い間でしたが、めちゃくちゃお世話になりました。今度はもっと豪勢な手土産持ってきますね」

「気にすんな、自分の家だと思ったらええ」



 飾らないさぱっとしたその返事が、俺はとても嬉しかった。



 一方の叶はというと――なんかすごい顔で仁王立ちしていた。



「……え、弁慶?」

「え、ひどっ。それ彼女にかける言葉!?」



 正直な感想を伝えた結果、叶を少し怒らせてしまった。



「ご、ごめん。あの……それどういう意志表示?」


「……私は将来ユウボウな、自由形の特待生です」

「え、う、うん」


「そして、トップアスリートの一人として、いつか有名人になる、可能性の高い女です」

「……」


「て、手放すことは賢明ではありません。いいですね?」

「……っ」



 申し訳なさを感じつつも、叶のそのたどたどしい言葉遣いに、俺は思わず吹き出しそうになった。

 それに釣られるように、隣のお母さんも豪快に笑い始める。



「あっはっはっ! そりゃたいそうな有望株だ、せいぜい頑張りな!」

「な、なにさ! しんみりしないよう、頑張って言葉考えたのに!」



 実際、彼女のこうした“背伸び”は、バカにならない程の力を持っている。

 お母さんに苦労をさせないために始めた水泳をがむしゃらに頑張って、特待生としての資格を得ただけでなく、さらに次の段階すらも目指そうとしているくらいなのだから。


 でも、悪いね叶。

 そんな背伸びなんてなくても、俺は――



「……また、学校で」

「うん。昨日の言葉、ゼッタイ忘れないでね」



 昨日の言葉、それはキスの間際に俺が放った言葉。



『――』



 そして、叶の返事。



『――』




 これらの言葉を胸に、大きく頷く。


 そして、俺は叶を背にして――ホームに歩みを進めた。



 ◆



 一人で列車に揺られる時間は、途方もなく長く感じた。


 ボックス席に腰掛け、車窓の変わらない景色から目線を落とし、俺は手にした数枚のカードを見回す。



 叶はさっき、自身が将来どうなりたいかをハッキリ俺に示した。

 俺には、それができなかった。


 だけど、俺にだって――将来やってみたいなと思っていたことが、実はひとつだけある。

 そして、今回の帰省に同行した結果、それはついに確信まで至った。



 それは、いつか終わりを迎えるであろうこのカードたちが、俺に示してくれた道筋だった。



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